まさかの縁
『おはようございます。』
「おはようございます、ルクセリア様。
少しは眠られましたか?」
『はい、おかげ様で・・・。』
「そうですか。さあこちらへどうぞ。
果物が生っているのを見つけましてね。召し上がって下さい。」
2時間ほど仮眠を取った後少し森を散策してみれば林檎や葡萄が生っているのをみつけた。
これならば聖女様の口にも合うだろうと採ってきておいたのだ。
『ありがとうございます。あの・・・。
冒険者様のお名前を伺っても?』
「ああ、失礼しました。メイファと申します。」
『メイファ様・・・・。』
「身分が低い物に敬称は不要ですよ?」
『ですが命の恩人でもありますし・・・。』
「お気になさらず。どうぞ呼び捨てで。」
『で・・・でしたら!私の事もセリアと愛称で呼んでいただけませんか?』
「愛称で・・・ですか・・・。」
『駄目でしょうか・・・。
なんだか王宮に居た時みたいで堅苦しくて息が詰まってしまいそうで・・・。』
「・・・解りました。人前でなければそうお呼びしましょう。」
『本当ですかっ、ありがとうございます。』ポッ
王宮ではそんなに堅苦しくて息が詰まりそうだったのだろうか。
まあ第二王子の婚約者だったのだから、それもそうかもしれない。
「ところでセリア様。
ご実家に戻る事は可能ですか?」
『はい。それは大丈夫だと思います。
お恥ずかしいのですが・・・
父も母も親馬鹿でして・・・。
兄達も過保護といいますか・・・。』
「なるほどシスコンなのですね。」
セリア様は、はいと消え入りそうな小声で答えて真っ赤になった。
そんなに家族に溺愛されていても第二王子との婚約は防げなかったのだろうか。
まあ王族からの申し出を断れる家はそう無いか・・・。
「ではまずはご実家に向かいましょう。
ご実家はどちらに?」
『魔国と隣接するラウラ辺境領です。』
ブホッ・・・
『メ・・・メイファ。大丈夫ですか?
あの・・・。』
「ゴホッゴホッ・・・大丈夫です。
驚いただけです・・・失礼しました。」
『何か驚くような事が?・・・
もしかして我がラウラ家をご存じでしょうか?』
「ええ・・・まぁ・・・少々・・・存じ上げております。」
『まぁ! これも何かのご縁ですね。』
その・・・ニッコリされても・・・困った。
言えない・・・。
セリア様の兄ルシエルとの婚約話が出て
私よりも強い人じゃないと嫌だと言って家を飛び出したとか
言えない・・・。
『そう言えばメイファは魔人族でしたよね?故郷はやはり魔国ですか?』
「はい、そうです。」
『私の祖母が魔国の出なのですよ。もしかしたら遠い親戚かもしれませんね。』
いやニッコリ微笑まないでいいから・・・。
セリア様のお婆様は私の大叔母なんですとか絶対言えないから!
その縁でルシエルとの婚約話が出たとか言えないからぁぁぁぁぁ。
『我が家に戻ったら是非お婆様にもお会いしていただけませんか?
きっとお婆様も喜びます。』
「・・・そうですね・・・。お婆様のご都合が合えば・・・。」
会いたくない会いたくない。絶対婚約話を蒸し返される。
そして私の楽しい冒険者ライフも終わってしまう。
嫌だあぁぁぁぁ。
送り届けたらさっさとお暇しよう・・・。
落ち着け私。まずはセリア様のご無事だけ伝えておこう。
「セリア様。まずは伝言を飛ばしますので手紙を書いていただけますか?」
『解りました。』
「その際、王家には消して悟られないようにとお伝えください。」
『悟られないようにですか?』
「そうです。
もしまた狙われたり、王宮に連れ戻そうとされたりしてもよいのですか?
セリア様は本物の聖女様です。
あの偽物がセリア様を利用しようとして王宮に監禁する可能性もあります。」
『それは・・・困ります・・・。』
「でしたら悟られてはなりません。」
『解りました。』
魔法羊皮紙とペンを渡すとセリア様は手紙を書き始めた。
この魔法羊皮紙は魔国の特別製で
文字を書いた人の家族しか読めない仕様になっている。
間者対策に作られた物だが、家族内に内通者が居た場合は役に立たない・・・。
もう少し改良の余地があると思う。
まぁ普通の魔法紙よりはマシだが。
『書けました。これをお願いします。』
「ではお預かりいたします。」
預かった手紙を影鳥で飛ばす。
影を渡って移動するので2~3時間で届くだろう。
ではこちらも出発するとしようか。
私だけならともかく聖女様が居るので3~4日はかかるだろうな。
しかしまいったな・・・。
聖女様の家名まで公表されてなかったもんなあ・・・。
「さあセリア様、我々もラウラ辺境領へ向かいましょう。
順調に行けば3~4日で到着できるハズですよ。」
『はいっ!』
うん、セリア様も一晩寝たせいか昨日よりは落ち着いているように見える。
あまり泣かれてもどう慰めればよいのか私には…解らない。
なのでセリア様にはなるべく笑っていていただきたいものだ。
ハッ、そうだ。
「セリア様、途中にダンジョンがあれば少し討伐して行きましょう。」
『ダンジョン討伐ですか?』
「はい、中級装備を落とす魔物を倒して着替えましょう。
さすがにそのままの姿ですと・・・」
『あー・・・そうですね。思い切り聖女です!って衣装ですものね・・・。』
「初心者装備だとそれはそれで変なのに絡まれる可能性もあるので
当たり障りのない中級装備を狙おうと思いますが、よいでしょうか。」
『お手数おかけします・・・。』
「いえ、お気になさらずに。
後、足が痛くなったり疲れたりしたら遠慮なく仰ってくださいね。
早めに休憩をいたしますので。」
『解りました、ありがとうございます。』
人目を避けて森の中を進むのできっとセリア様は歩きづらいだろうが
そこは我慢してもらうしかない。
ダンジョンで装備を確保して着替えれば多少はマシになると思う。
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