満更でもない?
正直この状況は非常に困って居る。
足の1つや2つ無くても困らないと言うのは本心だ。
生やそうと思えば生やせるのも本当だ。
ただしその場合、魔人族としての姿は失われ
父と同じく魔族としての本来の姿になってしまうのでやらないだけだ。
まだ冒険者として楽しみたいという思いが残っているからな。
魔族の姿でやればいいって?
一般魔族なら ちょっと尻尾があたっり角があったり程度でいいかもしれない。
王族ともなるとそうはいかないんだ。
ドドーンとドラゴンの姿なんだなこれが。
ドラゴンが町中を闊歩できるか?無理だろう。
ドラゴンがダンジョンに入れるか?無理だろう。
ドラゴンが冒険者になれるか? 逆に標的になるだろ?
だったら足なんぞ無くてもいい。
魔道具で義足を作ってしまえばなんら支障も無いんだしな。
その事をあの3兄弟に何度言っても納得してくれない・・・。
父は父で
『ついにお前にもモテ期が来たか?!』
などと呑気にニヤニヤしているし
大叔母は大叔母で
『私としてはルシエルがお勧めだけど、この際ガブリエラでもいいわ。
そろそろメイファも観念なさいね。』
などと不敵に笑っているし。
ランファはランファで
『じゃあルクセリアは俺で我慢しときな?
ほら顔は似てるし?
ずっとそばにも居れるし、実質的に姉妹だよぉ?』
『お姉様の傍にずっと居られる・・・
姉妹にもなれる・・・魅力的なお誘いですわね。』
いやいや、前向きになるなセリア。
いや? 前向きになってくれればいいのか?
ランファと結婚してくれれば・・・ふむ。
よし、これはこれで応援しよう。
そんな事を想いながら義足のデザインを考えていれば
『メイファ!義足のデザインを考えてみたんだ!どう?』
すこぶる良い笑顔をしたルシエルがやってきた。
その手にあるデザイン画を見て私は頭を抱えた。
なんだこれは・・・。
ゴテゴテチャラチャラと・・・装飾品じゃないんだそ?!
動くのに邪魔だろ、そしてそれじゃ重量がかさばるだろ!
そんな宝石などちりばめてどうするんだ!
まったくもって実用性がないじゃないか!!
「ルシエル・・・。
義足に求められるものは何か解っているか?・・・」
『ん? 足の代わりになる事だよね?
君の美しさと釣り合いが取れるようにしてみたんだ!
うーん、もう少し宝石を増やした方がいいかな?
やっぱりここは透かし模様を入れた方が・・・』
「却下・・・」
『え?』
「却下だ却下!! そんなゴテゴテチャラチャラしたもの
恥ずかしくて着けれるかぁぁぁぁ!!」
『えぇぇぇ・・・』
えぇぇぇ・・・じゃない!
基礎から勉強してこい!!
機能性と実用性を見出してこぉーいっ!
ルシエルはションボリと帰って行った。
ションボリするくらいならちゃんと勉強して考えてから来いよ!と思う。
まあろくな図案を持ってきそうにないので
さっさと技師と相談して義足は完成させた。
うん、動きやすいし重量も強度も問題ない。
これなら冒険者に戻っても大丈夫そうだ。
Ψ------Ψ------Ψ------Ψ------Ψ------Ψ------Ψ
私は久々に冒険者ギルドに来ていた。
とは言っても以前通っていた王都の冒険者ギルドではない。
少し離れた町にあるギルドだ。
王都周辺は守護石による結界がかろうじて残っているとは言え
魔物の出現率は上がっている。
冒険者にとっては稼ぎ時でもある。
なのに何故王都から離れた場所を選んだのか。
ルクセリアが付いて来たからである・・・。
「セリア・・・何故付いて来た?」
『お姉様のお世話をする為です!』フンスッ
「いや、自分の世話くらい出来るが?・・・」
『そう言ってお姉様、何枚のシャツを駄目にしました?
お姉様は力がありすぎなのです!』
「・・・」
そう、私は洗濯が苦手だった・・・。
どんなに力を抜いたつもりでも破けてしまうのだ・・・。
「だったら洗濯屋に頼んでもいいじゃないか。」
『私が出来るので大丈夫です!』
「いや、そもそもだな。
狩場は危ないんだぞ?」
『大丈夫です、護衛としてお兄様が付いて来てますから!』
「は?」
見ればいつのまにやらルシエルが居るではないか。
「領地の仕事は?・・・」
『父上とガブリエルがやってますよ?』
「学園の方は?」
『必要単位はすべて取ってあります。』
「じゃあ領地経営の勉強でもしてろよ!」
『妹の護衛の方が大事ですよ?』
「セリア、今すぐ領地に戻れ・・・。」
『いやですっ!』
「いやです!じゃない。
あ、そう言えば・・・ランファが戻って来るとか言ってたな。」
『ランファお兄様がですか!
戻ります!』
「ああ、それがいい。」
やっと静かになったか・・・。
ん?
「ルシエル、セリアの護衛はどうした?」
『え?大丈夫だよ。ちゃんと兵士が付いてるし。
俺は大事な婚約者の護衛を・・・。』
「私より強くなってから言えぇいっ!」
『そんな照れなくても・・・
ってメイファ? おーい・・・』
ルシエルの首根っこを掴んで場所へと向け投げ飛ばしておいた。
やれやれと思いながら依頼掲示板を眺めると
Sランクの依頼が3つばかり出ていた。
ヒュドラにリヴァイアサンにグリムリーパーか。
どれ、一番人気が無さそうなグリムリーパーにしておくか。
「ルシエル・・・何をしている?」
『やあメイファ奇遇だねー!
うん、ちょっと特訓しに来たんだけどねぇ?
捕まっちゃったぁ♪』
「掴まっちゃったぁ♪ じゃないだろぉぉー!!」
『てへっ』
「てへっじゃない!」
そうグリムリーパーの巣窟へやってきたらルシエルが捕まってるんだわ・・・。
でもなんか様子がおかしいんだが?
「グリムリーパーに聞く。
お前の意思で捕まえたのか?
人質を取ったくらいで私がひるむとでも思ったのか?」
『ヒッ・・・
だから我は嫌だと言ったのだ。
この者はそういう卑怯な事が嫌いだといったではないかー!
それを・・・それを・・・。
我を巻き込むでないわー!』ガタガタブルブル
『えぇぇ。グリムリーパーくんそれは無いんじゃないのぉ?
僕の恋を応援してくれるって言ったよね? ね?言ったよね?』
『純粋に応援するって言っただけだぁー!』
「ふむ、2人共その話じっくりと聞かせて貰おうか?」ニッコリ
『ひぃぃ・・・』
グリムリーパーはレアアイテム:デスサイズをぽいと放り投げ消えていった。
「・・・」
『・・・・。
えっと・・・。
メイファ愛してるよ?』
「とことん話をする必要があるようだな。」
私はルシエルの首根っこを掴むとそのまま引きずり帰宅する事にした。
このままじゃまともに狩りも出来ないじゃないか・・・。
はぁぁ・・・・。
大叔母の笑顔が浮かぶ。
『諦めて結婚しなさい、まんざらでもないのでしょう?』
確かに嫌いではない。
あの手この手でやってくるルシエルは可愛いとも思うし
それを蹴散らすのが楽しいとも言える。
結婚してしまったら困り顔のルシエルや半べそ状態のルシエルが見れなくなるかもしれないじゃないか。
『ねぇメイファ。
僕はずっと君を愛し続けるし楽しませる自信があるよ?』
そう言われてしまえばそうかもしれない。
でも、もう少しだけその不安そうで照れた顔を見ていたいから私は聞こえなかったフリをする。
読んで下さりありがとうございました。