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【短編】恋愛短編シリーズ

古式ゆかしいプレゼント

作者: 烏川 ハル

   

「にゃあ、にゃあ、にゃあ……」

 枕元から聞こえてくるのは猫の鳴き声。

 本物の猫ではない。目覚ましい時計だ。


「うん、今日もおはよう」

 と言いながら手を伸ばす。

 時計に話しかけるのは、(はた)から見れば少し馬鹿らしいかもしれない。

 でも外観は猫のぬいぐるみ。私が目覚まし時計として使っているのは、旧式のペットロボットだった。

 顎の下を撫でると、それがスイッチとなり『猫』は鳴き止む。私が起きたと理解してこちらへ歩いてくるのを、ベッドに入ったまま抱き寄せた。

 まあ「ベッドに入ったまま」といっても、実は30分以上も前から目は覚めている。なにしろ今日は特別な日。いわゆるバレンタインデーなのだ!



 外見的にはいつも通り身だしなみを整えて、内面的にはいつも以上に気合を入れて学校へ行く。

 校舎に入ると、自分の教室がある一階ではなく、まずは三階へ。三年の教室へと向かった。

 もちろん目当ては久瀬先輩だ。


 教室の入り口から、中を覗いてみると……。

 いた!

 ナチュラルにカールした前髪。先輩自身は嫌っているという特徴的な癖毛が、私の視界に入ってくる。

 椅子ではなく机に腰掛けた状態で、数人の友達と喋っていた。男友達ばかりであり、周りに女子生徒はいない。バレンタインのプレゼントを渡すには絶好のタイミングだ!

 そう考えて、教室に足を踏み入れようとしたのだが……。


「あれって、久瀬の部活の子じゃないか?」

「おい、久瀬。部活の後輩が来てるぞ」

 私がそちらに熱い視線を向けていたので、先輩の周りにいた友達が気づいたらしい。何度も「部活の後輩」として先輩を訪ねてきているから、私の顔に見覚えがあったのだろう。


 友達に促される形で、先輩の方から教室の入り口まで来てくれた。

「おはよう、花田さん。何か用事?」

「はい、先輩。おはようございます。今日はバレンタインデーなので……。これ、プレゼントです!」

 銀色の包装紙と赤いリボンでラッピングした小箱を、バッと先輩に差し出す。

 こういうプレゼントは初めてではないので、先輩も気軽に受け取ってくれた。

「ああ、ありがとう。いつも悪いね」

「どういたしまして。せっかくなので、手作りにしたので……。市販品じゃないので、早めに食べて下さい!」

「手作り?」

「いや『手作り』と言っても、そんな大袈裟なものじゃなく……。チョコレートだから、いくつか溶かして混ぜて、固め直しただけですけど」

「ああ、チョコレートか。なるほど、バレンタインデーの伝統に(のっと)ったんだね?」

 ニヤリと笑う先輩に対して、私は満面の笑みで返す。

「はい!」

「うん、花田さんらしいね。古式ゆかしいプレゼントだ」


 知識は豊富だけど、心の機微には少し鈍感な久瀬先輩。

 最近では気軽に贈られるようになったが、バレンタインのプレゼントは元々、愛の告白を意味していたという。その程度は先輩も知っているはずなのに、私が毎年あげているのは「同じ部活だから」という理由に過ぎない、と思い込んでいるらしい。

 また「最近では」といえば、もうひとつ。23世紀の今では他のお菓子の方が多くなったし、もはや忘れている者の方が多いけれど、本来バレンタインの定番プレゼントはチョコレートだったという。

 それをきちんと知っていて、しかも「古臭い」ではなく「古式ゆかしい」と言ってくれる。そんな久瀬先輩が、私は大好きなのだ!




(「古式ゆかしいプレゼント」完)

   

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