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1話 プロローグ

     2030年

 

 永きに渡り続いた偽りの平和。

そんな偽りの平和は、たった一つ小さな火種を切っ掛けに脆くも崩れ去った。


 こうして一度燃え上がった火の粉は瞬く間に周囲へと燃え広がり、数年と経たずに全世界へと広がってしまた。


 戦火という火の手は人の命を簡単に奪い去っていく。

若きも老いしも。女も男も。そして…… 幸せさえも。


 一度逆巻いた火の手は決して留まる事はない。

 祖国のため、家族のため、愛しい人のため。  

 こうして手に取った銃弾が命を奪う。 

 しかし……殺した相手にも同じように思う人がいる……

 そう、憎しみの連鎖の始まり。

 

 殺したから殺されて。殺されたから殺す。

 この連鎖は決して消える事はない。


 いつしか、こんな悲しみだけが世界を支配していった。

 そして、悲しみに押し潰された人々の想いは……


  ―――――狂気へと変貌した――――


    2033年


 とある大国が禁忌を犯した。

 狂気へと変わり果てた想いは一発の災禍を打ち上げるには十分だった。


 一度放たれた狂気が感染するには、時間など要らなかった。


 狂気が狂気を呼び、禁忌など存在しなくなる。

 こうなってしまっては止まることなどない。



 人類が滅び去るまでは。



    2035年


 歯止めが消えた人類は終に禁忌を超える災悪を完成させた。

 その災悪はたった一発でユーラシア大陸に風穴を開けた。


 災悪(カラミティー・)大穴(ゼロ)

 後にそう呼ばれる、人間という生き物が犯した大罪。


 こうして開けてはいけないパンドラの箱は開かれ。

 神の怒りとも呼ばれた大災悪を呼び起こしてしまった。


 呼び起こされた大災悪は、人々の願いを叶えるように全てを飲み込んでいく。

 思想も、人種も、それこそ性別なの関係無く、世界の狂気を全てを。


 

    2036年

 ユーラシア大陸の陥落。

 米国による第二災禍によりアラスカが消滅した。

 

============================================= 




      日本列島 


    2037年 3月 

 北海道及び九州方面軍との通信途絶。 

  同日中に下関海峡を爆破に成功。地図から北九州市及び山口県の半分が消失

  同日 津軽海峡の爆破に失敗。 自衛隊は仙台から鶴岡までの国道48号、同112号を最終防衛ラインとする。


    同年 5月 

 最終防衛ラインの突破。

 同月、首都放棄、臨時愛知政府を発足。

 

    同年 6月

 山口海峡を突破 数日と経たず広島方面軍との通信途絶。

 同月13日 東日本全域が陥落。

 同月20日 中国地方全域が陥落。

 同日中に、臨時政府が奈良へと移された。


   同年 7月

 舞鶴神戸間、敦賀桑名間を最終防衛ラインとした最終決戦の開始。


============================================= 



 もうこの頃には日本の人口は7000万人。戦力などと呼べる物は既に存在しない。

 そして、勝てもしない最終決戦。


「お母さん!!お父さん!!」


「お前は逃げろ!!」

「彼方だけでも……」


 これが二人の最後の言葉。

 

 そして、


「…… あぁぁぁ……」


 横たわった両親の姿と、【鬼】。

 その光景に恐怖で見開かれた俺の眼前で鬼は、二人をまるで玩具のように振り上げる。

 振り上げられた反動で血飛沫が俺へと飛び散る。


 声を上げる事も無く、ただ目の前に映る光景に感情が無くなり、その場に立ち尽くすだけ。

 そして、かつて親で有った亡骸を【鬼】のその腕によって、俺へと振り下ろされ。



 俺は死ぬはずだった……



 一瞬の閃光と共に肉が拉げる音を上げ、振り下ろされた腕もろとも、全てを消し飛ばされた。


「お……母さん…… おと……うさ……ん」


 目の前で灰となった現実に、そう声を上げた。

 そして見上げた上空から、


「少年!! 生きているな!!」


 眩しく光る閃光の影に映る、羽根を広げる悪魔の姿を見た。


============================================= 


        

         2048年

         首都大和



 

「ふあぁぁ……」

 

 ベッドの上から身を起こし、窓に掛けられた薄布を開け放つ。

 そして、


「おはよう…… 母さん、父さん。」

 

 窓から入る光に導かれた先にある。   

 遺影も遺骨も無く、有るのは唯一見つかったボロボロの指輪だけ。 

 その小さな位牌へと、俺は視線を向けた。


 朝の挨拶を済ませ、いつもとは違う制服に身を包み、


「行って来るよ……」


 そう言葉を残して俺は自室の扉を閉めた。





「おはよう。 朝ごはんの用意は出来てるよ」


 リビングにて、そう優しく声を掛けてくれるこの人は、


「ありがとうございます。悠陽さん」

 

 斑鳩 悠陽。 旧日本いや現日本帝国における5大功家の一つ、斑鳩家の一員。

 そして俺を、あの災禍の中から助けてくれた人でもあり、今まで俺を育ててくれた人で、

 

 そんな思い出を思い浮かべつつ、俺が彼女の前へと座ると、


「…… もう11年か……早いものね」


 俺の姿に遠い目をした彼女が机越しに呟いた。


 そう俺が彼女に引き取られて11年。

 あの日から11年。


「そうですね。 これで、悠陽さんの作ったご飯ともお別れですね」



 そう漸くだ。漸くこの日が来た。

 心の中で、一つ進んだ現実へと心を決める。



 そんな俺に、


「寂しい事を言わない! 貴方は家族なんから。 だから、いつでもここへ帰って来て良いの。 たとえ配属が遠く離れた地に成ったとしても、家族は繋がっているのよ」


 寂しそうな笑顔を見せ、心配そうな声を向けていた。


 でも、


「悠陽さん、今までありがとうございました。 そのお言葉、心のに留め置きます」        


 

 この人は…… 俺の両親を消し去った人だ。  

 今までのこんな複雑な気持ちからか目も合わせずに、心の無い返事を返していた。


 その後、俺は無言の食事を終えると彼女に見送られ家を出た。



 =============================================  



 【国家総動員令】

 先の大戦により崩壊した軍備を立て直すために施行された法案。

 この法案により16歳に成る男女は徴兵制され、各々の力量、才覚、適正に合った兵科に割り当てられる。

 在る物は歩兵、また在る者は工兵。


 しかし、これは表向きの側面だ。


 本当は、才の無い者を荒れた土地を再建するという建前の濃兵や、時間稼ぎだけの捨て駒として歩兵を扱うための所謂、体の良い口減らしだ。 


 

 そして、才在る者は、


「これをもって入隊説明を終了とする。 各員はヒトサンサンマルまでに所定の身体検査を済ませ、指定された場所に集合すること。 以上解散」


 旧平城宮跡に建設された、第三日本帝国軍基地、通称 朱雀門 

 そう呼ばれる始まりの場所に立っている。


 ここに集められた者は第二の試験として、とある身体検査へと廻され、


「次、鴻 明翔さん」


「はい」


「その測定器へと横になり、楽にしていてください」


 俺は医師に促されるまま、円筒状の狭い測定器のベットへと身体を横にした。

 すると測定器が大きな電子音を上げ身体の周囲を回転しながら足元へと動き始める。




 そんな俺を監視する窓越しの部屋では、


「どう? 使えそうな者は居た?」

  

「例年どうり大半が第ニ世代型の適合者、第三、第四世代型の適合者は僅かですね」


 途中から入室した白衣の人物が医師へと話しかけると、医師は首を横に振りながら手元の資料を渡すと息を漏らした。

 

 白衣の人物は、医師の反応に興味が削がれたのか渡された資料を机へと投げ捨てると、


「最後の彼はどう? 使えそう?」

   

 そう尋ねるが、


「他の適合者と差ほど変り無い様に思いますね。博士が気にするような事は」

 

 そんな医師の反応に、白衣の人物が無言で視線をやる。

 視線を向けられた医師は、その冷たい視線に息を詰まらせ喉を鳴らすと、


「少し待ってください。 結果がもう、、、来ました。 ……っ、えっ……」


 パソコンのモニターへと即座に向き直り、送信されてきたデータに言葉を飲み込んだ。

 すると、


「データの報告も真面に出来ないの」


 白衣の人物が冷たい言葉の中に僅かな希望を託すような反応を返すと、


「第一……世代型…… 適合者」


 未だに結果を信じられないのか、表示されたデータを目で追う速さで読み上げた。


 その言葉に白衣の人物は、目の前の医師をモニターの前から勢いのまま退かせると、映し出された結果に目を見開き、


「鴻 明翔。 そう、あの子の…… ふふっ、因果は廻るものね」


 そう小さく呟くと、


「彼は他の第四世代と同じ所へ行かせなさい。 後は、こっちで処理するから」


「了解しました。 冬月博士」


 命令を伝えると、医師の返答を聞く事も無く部屋を後にする。



 

 そして俺の体の上を数回、機械が通り過ぎた頃、


「機械から出て、開いた扉の通路を進んでください」


 機械が止まると同時に部屋のスピーカーから医師の声が響いた。

 すると南側扉が開き、明るく照らされた一本道が現れる。


 その道は決して引き返せない地獄への一本道。

 悲しみと憎悪、復讐と死、人間の慾と野心、そんな、愚かでくだらない人類が招いた戦禍の末路へと。


 踏みにじられた小さな幸せを取り戻すべく、少年は目の前に開いた地獄へと道へと一歩を踏み出した。

 

 



 

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