99.
「ちょっと待って!わ、私達…料理なんて作らない…」
拒否しようとするが、子供達から期待に満ちた瞳で見つめられて言葉が詰まる。
「ほらほら、お姉ちゃん達が困ってるわ」
シスターが助け舟を出す。
「まずは名前を教えてくれる?」
シスターから笑顔を向けられると子供達もワクワクと待っている…
「私は…ターニャ」
一番大きかった女の子が仕方なさそうに名前を言う。
「ターニャお姉ちゃん!」
「ターニャお姉ちゃんよろしく~」
院の子達はターニャの戸惑いも気にせずに抱きついた。
「ターニャお姉ちゃん!こっち来て!私の宝物見せてあげる!」
「お姉ちゃん達はなんて名前なの?」
「わ、私は…スジー」
「ルビーです」
「お姉ちゃん達も早く早く!シスター!部屋は私達と一緒でいい?」
「ずるい!お姉ちゃん達は私たちと寝るの!」
どの部屋で寝るか取り合いになって、ケンカになってしまった。
「ま、待って。わかった今日はあなた達と…明日はそっちでいいから…」
ターニャが仕方ないと提案する。
「「やった~!!」」
子供達は布団を用意すると張り切って部屋を飛び出して行った…
「なんなの…」
凄まじい勢いに圧倒されているところにリナは近づいた。
「みんないい子達でしょ」
「あの子達は…嫌な目に会ったことないから…」
「ここは修道院だよ、普通の子が来るとでも?さっきの子は親に捨てられてここに来たの。私も似たような感じよ。さっきケンカしてた子も親の暴力から逃げ出して来たのよ」
「えっ…」
「でもあんなに笑って元気に暮らしてるわ。あなた達も…ゆっくりとここで心を休めて笑えるようになるといいね」
リナの言葉に、ターニャ達は楽しそうに遊ぶ子供達を驚いた顔で見つめた。
「さっき…」
ターニャは聞きにくそうにリナをチラチラ見てくる。
「なあに?」
リナは笑って声をかけた。
「さっき…外に一緒にいた人って…」
「えっ!?まさかさっきの…見てた?」
こくり…
ターニャ達が頷いた。
「あの…あの人はあなたの傷の事…」
言いにくそうに背中を見つめる。
「ああ、ルーカスさんは傷の事知ってるよ…知ってて私を好きだって言ってくれた…大切な人なの」
「男は…みんな…叩くよ」
ターニャが悲しそうに呟いた。
「ターニャが会った男の人はそうなんだね…でもね、この世界には素敵な男の人も沢山いるの。その中にターニャ一人だけを愛してくれる人もきっといるよ」
「何もしない男なんて…」
ターニャは特に男の人が嫌いな様子だった。
「本当は騙してるから言いたくなかったんだけど…」
リナはコソッとターニャの耳元に近づいた。
「さっきあなた達を送ってくれた馬車の女の人いたでしょ?あれは騎士様達なんだよ」
「嘘…!?」
「本当に、あなた達を怯えさせないように女の人の格好をしてくれたの…決してしたくてしたんじゃないよ!みんなの為ならって…」
「全然気が付かなかった…」
「でも優しかったでしょ?」
二人が馬車に乗る時に手を貸してくれた事を思い出した…男なら絶対に手なんか取らないが女の人だと思い込んでいた。
「男の人だって信じられる人はいる。でもそれは少しずつ自分で見て、感じて信じていけばいいと思うよ」
「その…騎士ってなんて人?」
「綺麗な背の高い人がシモンさん、可愛い年下の人がラキさんていうの。これからたまにここにも来ると思うよ」
「シモンさんにラキさん…」
ターニャが二人の名前を聞いたことに、そんなに嫌な気持ちになっていないことを感じてリナは安堵した。