78.牢屋
「やはり私は何を言われてもいいのでアリスちゃんと…」
ここまでアリスちゃんに我慢をさせてまで自分の身を守る気は無くなっていた。
「しかし…なぁ」
ブライアン団長がどうしたものかと悩んでいると…
「ならルーカスが一人で屋敷に行って、アリスちゃんとリナちゃんが団長の屋敷で一緒に住めばいいんじゃないか?」
話を聞いていたシモンさんがあっけらかんと答えた。
「「「あっ…」」」
みんなそれがあったかと固まる。
「よし!それにしよう。アリスちゃんはリナと一緒に私の家に来なさい」
ブライアン団長がニコニコと笑うとアリスちゃんの頭を撫でる。
「そ、それは…」
ルーカスさんが声をあげる。
「お前はその後の楽しみを糧に我慢しろ」
シモンさんがルーカスさんにジロっと睨みをきかせる。
「それとも何か?お前はアリスちゃんを泣かせてまで一人は嫌なのか?」
「うっ!いや…アリスの為なら大丈夫だ。少し…いや、かなり寂しいが…」
ルーカスさんがアリスちゃんと私の手を触るとそっと指を絡める。
「結婚したら好きなだけ居られるんだ、ここはルーカスが我慢するところだな」
「はい…わかってます」
ルーカスさんはしょんぼりとした顔で頷いた。
「よし、じゃあその方向で手続きをしよう。リナとアリスはここに残ってくれ。ルーカスはシモンと仕事に行くんだ」
「了解です…それと団長…」
ルーカスさんが神妙な顔で団長を見つめる。
「な、なんだ?」
「俺は団長のお屋敷にお邪魔するのは構わないんですよね?その…仕事が終わった後にとか…」
「まぁ、そのくらいなら大丈夫だろう」
「よかった…」
ルーカスさんは心底ほっとして頭を下げて部屋を出ていった。
「全く…あの調子で大丈夫か?」
ブライアン団長が今後の事が心配になって、出ていくルーカスの背中を見つめた。
「シモン…余計なこと言ってくれたな…」
「なんだよ他にいい案あったか?それとも泣かせてまでアリスちゃんと居るのかよ」
「そ、それは…」
「はい!この話は終わり!お前は結婚するまで我慢を覚えろ」
「もう…嫌ってくらい我慢してるよ…」
ルーカスはボソッと呟いた。
「で?あいつらは?」
ルーカスは顔を引き締めて騎士の顔になる。
「地下の牢屋にいる。あの後屋敷を調べたが…出るわ出るわバーンズの悪行の数々が…」
「そうか…」
助けられなかったあの場に飾られていた子供達を思うと胸が痛かった。
「あいつは絶対に許さん」
「もちろんだ!徹底的に白状させてもう二度と世に出せないようにするぞ」
「アリスがあんな事になっていたかと思うと…腸が煮えくり返りそうだ」
怒りが収まらずに拳を握りしめる。
シモンと一緒に冷たい階段を降りていく…薄暗い廊下に鉄格子…そして一番奥の牢屋へと向かった。
「うっ…」
中ではバーンズが椅子に縛られ顔に包帯を巻いていた。
「んー!んー!」
そしてルーカスの顔を見るなり興奮しだす。
「あー…忘れてた。顎の骨と歯が折れて喋れないんだった…」
シモンがおかしそうに笑って近づくと、暴れ出して椅子が鳴る。
「さて…どうやって話を聞いたらいいかなぁ…」
ルーカスが椅子の周りを歩きながら様子を窺う。
「そりゃ首を動かして貰うだけだろ、〝はい〟なら縦に〝いいえ〟なら横に、ちょうど良かった、こいつの声なんて二度と聞きたくなかったところだ。ついでにもう二度と喋れないように舌も切り落としておこうか?」
シモンは机に置いてあるバーンズの屋敷から回収した拷問具を触った。
「ん~!ん~!」
バーンズは首を思いっきり横に振る。
「なんて言ってんだ?」
「さぁわからん。〝はい〟って事じゃないか?」
ルーカスが頷くと
「なるほど…」
シモンはペンチの様な道具を持ってバーンズに歩み寄った。