67.一発
リナとアリスは、ルーカス達が屋敷から出てくるのを心配そうに待っていた。
すると入り口が騒がしくなり、何かを引きずりながらやってくるルーカスの姿が見えた。
「リナ!」
アリスちゃんの声にリナは頷くと、アリスちゃんと共にルーカスさんに駆け寄った。
「ルーカスさん!」
「リナ!アリス!」
ルーカスさんは男を引きずり厳しい顔をしていたが、私達を見るとその顔を瞬時に緩めた。
そして男をドサッと投げ捨てると二人に駆け寄る。
「もう大丈夫だ、アリス…頑張ったな。よくやった」
ルーカスさんに褒められて、アリスちゃんは頬を赤くして嬉しそうにしている。
「もうあいつがお前達に近づくことはない、安心してくれ」
「よかった…アリスちゃん、頑張って本当に偉かったよ!」
「べつにへいき!リナ、ルーカスいるから」
アリスちゃんは二人がいるから平気だと胸を張った。
でもきっとあの場所に戻るのには勇気がいっただろう。
そんな健気で可愛いアリスにルーカスさんの顔がさらに緩むと…
「はい、そこ!そういうのは家に帰ってからやってくれ!」
シモンさんに注意されて、私は慌ててすぐ近くにいたルーカスさんから離れようと1歩下がる。
すると長く逞しい腕でグイッと腰を掴まれてさらにそばに引き寄せられた。
「シモン、羨ましいからってカリカリするな、お前にもいつかリナのような可愛くて素晴らしい女性が現れるさ…まぁリナ程ではないけどな」
「ル、ルーカスさん!」
「はいはい…わかったよ。もうお前はいいから二人を家に送ってこい。団長には俺から伝えておく」
「助かる!シモン…ありがとうな」
シモンは笑うとさっさと行けと三人を手で追っ払う。
「シモンさん…本当にありがとうございます」
「ありがとう!」
私がシモンに頭を深々と下げると、アリスちゃんが真似をするようにお礼を言って手を振った。
シモンは笑って手を振り返すと、団長の方に向かって小走りに走り出す。
シモンさんが団長に何か話すと団長が苦笑してこちらを振り返り、了承したと言うように私達に手を振った。
私は騎士団のみんなに感謝を込めて頭を下げる。
顔を上げると、優しく微笑むルーカスさんが見下ろしていた…
「では、行こうか」
ルーカスさんは私とアリスを見つめるとヒョイっと抱き上げた。
「ルーカスさん!まさか…」
「リナは疲れてるだろ?アリスだってあんな事があったんだ…ならこうして運ぶのが一番だよな?」
「いちばん!」
「アリスちゃんまで…」
喜ぶアリスちゃんを見て苦笑する。
「じゃあアリスちゃん、落ちないようにルーカスさんにしっかりと掴まろうね」
「はい!」
私の言う事にアリスちゃんは素直にギュッとルーカスさんの首にしがみついた。
「じゃあ…私も…」
私も恥ずかしかったが…今はルーカスさんのそばにいたかった…そっと手を伸ばしてアリスちゃんと反対側から首に手を回して抱きつくと、その体に頭を預ける。
「ルーカスさん…ありがとうございます…大好きです」
耳元に唇を近づけるとアリスちゃんに聞こえないようにそっと囁き、その頬に隠れるように顔を近づけてキスをする。
すると、しっかりと抱きしめていたルーカスさんの腕が一瞬力を失い、落ちそうになった。
「きゃ!」
二人でしがみつくと…
「す、すまない…いや…それを今やるのかと…だ、だめだ!リナ、アリス!走って帰るぞ!」
ルーカスさんは顔を赤くすると、早く帰りたいと言い出してその足を早めた。
「きゃあー!」
ルーカスさんのスピードに風が頬に当たる。アリスちゃんはそのスピードを楽しむように手を広げていた。
「幸せです」
二人の笑顔に胸がポカポカと温かくなる。
落ちないようにとさらにルーカスさんを強く抱きしめた。