52.突然
リナとアリスが騎士団の診察室に住まうようになり数日が経った頃…
「んん~!腰がだいぶ楽になった!」
先生が伸びをして腰を動かす、その様子をアリスちゃんと嬉しそうに見つめた。
「よかったです。先生もう支障は無さそうですね」
「ああ、二人とも手伝いをありがとう。もう大丈夫だから今日から彼の家に帰ってあげなさい」
先生は日に日に元気の無くなるルーカスさんが可哀想になっていた。
「リナも怪我がだいぶ良くなっているしね、アリスちゃんが薬を塗るのが上手くなったから大丈夫だろう」
「はい、アリスちゃんよろしくね。今日からまたルーカスさんのお家に帰りましょう」
「ん!」
アリスちゃんが嬉しそうに頷く!
アリスちゃんの様子を見てホッと息を吐いた…
アリスちゃんはあれから声を出す練習をしたが、なかなか上手く声を出す事が出来ないでいた…
先生が言うには何かきっかけがあれば出せるようになるかもしれないと…
私達は急かすことなくアリスちゃんが自分でいつか出せるように温かく見守る事にしたのだ。
「そうだ!ルーカスさんのお家で料理を作って待ってようか!?驚かせちゃうのどうかな?」
サプライズでもしようかとアリスちゃんに提案すると…
「んー!」
楽しそうとアリスちゃんが顔を輝かせた。
「ならもう今日は帰りなさい、ルーカスさんには上手く誤魔化しておいてあげよう」
先生が笑って協力してくれた。
「先生ありがとうございます」
「いや、こちらこそ助かったよ。たまには手伝いに顔を出してくれると嬉しいな」
「はい!何時でも声をかけて下さい。先生が大変な時は駆けつけますね」
「ん!」
アリスちゃんは私もと言うように手をあげた。
「ありがとう、二人が居なくなると今度は僕が寂しくなるな…」
先生が優しくアリスちゃんの頭を撫でてくれた。
先生に挨拶をして、私達はご馳走を作ってルーカスさんを待つ為に家へと向かった。
途中でたくさんの食材を買い込み、数日留守にしたルーカスさんの家にたどり着く。
鍵を開けて中に入ると…
「わぁ…ルーカスさん数日で…」
家の中は少しゴミや洗い物が溜まっていた。
毎朝早く来て遅くまで私達の為に残っていたのだ…家の事をする暇もなかったのだろう。
「よし!先にお掃除かな」
私は食材を置くと腕まくりをして久しぶりのルーカスさんの家を綺麗にした。
料理の下ごしらえをアリスちゃんと進めていると…
トントントン…
扉をノックする音がした…
ルーカスさんが帰ってきたと思ったのかアリスちゃんは用意を放り投げて扉に向かった。
「アリスちゃん!待って!」
ルーカスさんならノックはしない…
何故か嫌な予感に私は大声をあげた!
アリスちゃんは私の声に驚くも、もう既にアリスちゃんは扉を開けていた…
「こんにちは…」
ルーカスさんの優しい声とは違う…ゾクッとする冷たい声に私は急いでアリスちゃんに駆け寄る!
アリスちゃんに手を伸ばすと、アリスちゃんもこちらに振り向きその手を伸ばした…
私はその手を握ることが出来なかった。