42.ぎっくり腰
「ありがとうございました」
先生に包帯を巻き直して貰い服を着ると、お礼を言って頭を下げる。
「薬を塗って欲しかったらまた来なさい」
先生が笑って立ち上がろうとすると…
ゴキッ!
先生の腰から鳴ってはいけない音がした。
「ギャッ!……ッッ」
先生が一瞬叫んで顔を蒼白にして停止する。
「先生…大丈夫でしょうか?」
私はそっと声をかけると…そばに寄って先生を支えた。
「む、無理かもしれん…こ、腰が…」
先生は動けずにいるようだ。
「大変!」
私はアリスちゃんと一緒に先生を支えて再びベッドにゆっくりと横たわらせる。
「リナ!アリス!なんだ今のカエルが潰れたような鳴き声は!?」
するとルーカスさんが先生の叫び声に部屋に飛び込んできた。
「ルーカスさん!大変なんです!」
「何!?何処がだ?リナ!背中か?それともどこか違うところが!?」
ルーカスさんは私に駆け寄ると体を優しく確認した。
「わ、私は大丈夫です。大変なのは先生です…」
ルーカスさんに触られて顔を赤くすると、その手を掴んで止めた。
「な、なんだ…先生か、先生どうした?」
ルーカスさんがホッとして声をかけると…
「家政婦さんとはだいぶ違った反応だね…さっきのルーカスさんのせいで腰が…逝ってしまったようだ…」
「それはすまなかった。どうする?誰か呼んで来ようか?」
「いや、休めばどうにか…でもしばらくは仕事は無理そうだな…」
先生が大きくため息をついた。
「そんな…私達のせいですみません…そうだ!私で良ければ先生がよくなるまでお手伝いします」
「そりゃ助かるが、決してリナさんのせいじゃないよ。無理しなくていい」
「そうだダメだ!リナは怪我をしてるだろ?」
ルーカスさんが首を振るが…
「先程、先生に軽くなら動いて大丈夫だと言われました…決して無理はしません。お願いです手伝わせて下さい。それに騎士団の医務室に居れば…いつでもルーカスさんに会えますよ」
「よし!なら俺も手伝おう!」
「ルーカスさんはご自分のお勤めをなさってください」
「しかし…」
「私は騎士の仕事をしてるルーカスさんが素敵だと思ってます。ね、アリスちゃんもそう思うよね?」
うん!
アリスちゃんが頷いた。
私とアリスちゃんの反応にルーカスさんは嬉しそうに返事を返す。
「わかった、なら仕事に戻ろう…でも何かあったらすぐに呼んでくれ」
ルーカスさんの変わり身の速さに苦笑する。
「わかりました。でも大丈夫ですよ、アリスちゃんも居ますから」
ルーカスさんは先生をみて頭を下げる。
「先生…リナとアリスの事、よろしくお願いします」
「よろしくされるのは僕の方だが、リナさん…いいのかい?」
「はい、お手伝いさせて下さい」
私が頷くと助かると先生は頷いた。
ルーカスさんは心配そうに私達を見つめて、後ろ髪引かれながら訓練所に向かった。
本当に優しい人だ…その姿を見送り苦笑する。
先生には楽になるまでベッドに横になって貰い、怪我をした人が来れば先生の指示に従って私が手当てをする事になった。
アリスちゃんも手伝ってくれると腕まくりをして、エプロンを装着して準備万端!
しかしそう怪我人なんて来るわけない…と私はアリスちゃんを見て、可愛い姿につい微笑んでしまった。