20.リナ 回想2
団長様は、私達をルーカスさんに会わせた事で仕事は終えたとその場を離れると、今度は先程ルーカスさんと剣を打ち合っていた人が近づいてきた。
そしてじっと鋭い眼差しで見つめてくる。
名前はシモンさんといい、なんか派手な見た目で頭は金髪で目はブルー。ホストの様な煌びやかな雰囲気の人だった。ルーカスさんが髪と瞳が紺色なのでなんだか対象的な二人に見える。
色々と話を振ってきて、ルーカスさんとは違い女性と話すのが得意そうだった。
どんな事をしているのか聞いてくるのでルーカスさんの家政婦らしく答えていると、私の作ってきた料理を食べたいと言う。
それなら量も多めだし構わないと渡して帰ろうとすると…
ルーカスさんに腕を掴まれ引き止められた。
しかしその理由を聞いてみれば、アリスちゃんと一緒に食べたいらしい。
よかった…アリスちゃんの事をよく考えてくれているようだ。
ならばと一緒に食べることを了承する。
二人ともお腹が空いていたのか、料理を渡すとすごい速さで消えていく…
アリスちゃんの分を別にしておいてよかった…
小さく切ったサンドイッチを渡すとアリスちゃんが美味しそうに食べてくれる。
シモンさんが色々と聞いて来る事に答えていると急に満足そうに頷きゆっくりと去っていった。
あれはなんなんだろ？
ルーカスさんと顔を見合わせ首を傾げた。
するとルーカスさんの口の端にソースが付いていた。
まるで慌てて食べている子供のようで笑ってしまう。
修道院の子供達と同じように汚れをとってあげようと手を伸ばし…その顔に近づいた途端、子供とは違う男の人の顔である事に気がついた。
しまった…
ピシッと手が止まる。
そっと誤魔化す様に手を下げると、アリスちゃんを見る。
すると同じように口に汚れが付いていた。
ふふ…本当の親子みたい。
思わず笑ってその同じ場所についた汚れを綺麗にとってあげた。
なんだか…むず痒いランチ…でもアリスちゃんもルーカスさんも楽しそうな姿に私は幸せを感じたのだった。
そして家に戻り家事をすませると今度は夕食の準備だ。
バッチリ用意が終わると…
「ただいま！」
慌てた様子でルーカスさんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「！！」
私とアリスちゃんは笑顔で出迎えた。
そのことでホッとしたようにルーカスさんは笑顔を見せる。
「よかった、居てくれて…鍛錬所では同僚のシモンが失礼した」
「いえ、騎士様達に何を言われても無礼なんて事はありませんから…それよりもルーカスさん本当に家政婦は私でいいのですか？」
ルーカスさんならもっとベテランの人を雇えるだけの力もお金もありそうだった。
「もちろん、俺は君がいいんだ…」
「え？」
「あっ！アリスだって懐いてるし…な！」
ルーカスさんが慌てた様子でアリスちゃんを見るとこくこくと頷く。
そうか…アリスちゃんが懐いてくれることが第一条件なんだ…
その事に少しだけ残念に思った。
ん？なんで残念なんだ？
自分の考えに疑問が生じる。
「それに先程も言ったが今更「様」なんて付けなくていい。前と同じに呼んでくれていいんだ」
「いいんですか？」
かなり不敬になるんじゃ…
「ならこれは雇い主としてのお願いだ」
そこまでして…
「ふふっ…わかりました。ではルーカスさんこれからもよろしくお願い致します。私にできることは精一杯頑張りますので」
「君は今のままでいいんだが…」
ルーカスさんが何か呟くが…
ぐう～！
誰かのお腹が鳴って邪魔をした。
見ればルーカスさんが恥ずかしそうに顔を隠している、その間から赤くなった顔が見えた。
「ではご飯にしましょうか？」
「そうしよう、もう匂いがたまらなくて…すまない」
ルーカスさんが謝る。
「とんでもない！料理を楽しみにしてくれていると思うと作った甲斐があります。いっぱい食べてくださいね」
「ああ…」
ルーカスさんが目を細めてクスッと笑う。
その憂いを帯びた視線にドキッと心臓が跳ねた。
