121.伝える
「あ、ああ…」
ターニャは申し訳なさそうに虚しく手を伸ばした。
「あーあ、シモンさん行っちゃった」
「あれは傷ついたね、まぁターニャは男の人嫌いだしいいよね」
他の二人はあまり気にした様子もなかった。
「そ、そうね…」
ターニャは少し元気なさげに返事をする。
「ターニャ…もう少し自分の気持ちに素直になってもいいと思うよ」
「それって…どういう意味…」
「ターニャ達は大変な思いをしていっぱい後悔してきたとと思うの…自由になった今、少しくらい素直に正直に生きてもいいんじゃないかな?」
「正直に…」
「それに、好きな人が悲しむ姿って見たくないよね」
ターニャは少し考えると…
「ちょっとシモンさんのところに行ってくる」
部屋を飛び出して行った。
「あれ?ターニャは?」
二人は部屋を出ていったターニャをみて首を傾げた。
※
「シモンさん!」
ターニャは悲しげに外を見つめるシモンさんを見つけて声をかけた。
「ん?ああターニャ、どうした?」
しかしシモンさんはいつも通り笑って声をかけてきた。
「あ、あの…さっき言ったことなんだけど…」
「ああ、大丈夫。わかってるよ、ターニャ達が男が苦手な事は。やっぱり完全に化粧を落とすのは良くなかったな…明日からはまたちゃんと女装してくるから心配しなくていいよ」
「え?ち、ちが…」
「ターニャが無理して笑ってくれるから勘違いしそうになったよ…極力近づかないようにするから安心してくれ、じゃあ…」
シモンさんはターニから離れようと背中を見せる。
「ま、まって…もう!ごめん!」
ターニャは立ち止まってもらおうと大声で叫んだ。
「何を謝ってるんだ?」
「さっきの…あれは違うの…その…なんか恥ずかしくて…好き…とかはよくわかんないけど別にシモンさんのこと嫌いなわけじゃないから…」
「そうなの?」
「そうなの!」
「でも勘違いしないで!別に本当に好きじゃないから!ただ他の男の人より安心できて少し顔がいいな…って思っただけ!」
「そう…ふふっ…ありがとうな」
ターニャが頬を染めながら頑張って話してくれる姿に嬉しくなる…
それと同時に、決して好きと言わないターニャが可愛かった。
「でも…ごめんな。ターニャは俺に取って護衛対象なんだ…だから何よりも大切だし絶対に守るからな」
「わ、私だってそんな事考えてない!でも…まぁ友達くらいなら…いいかな?」
「そうだな、友達、それなら喜んで…」
シモンさんが手をそっと差し出してきた。
その行為にビクッとするが、シモンさんは手を出してじっと待っている。
ターニャはそっとその手を握りしめた…
男の人の拳は怖いと思っていたが、そっと優しく握りしめてくれるシモンさんに初めて怖いもので無いと感じた。
女の自分とは違う少しがっしりとした手に何かゴツゴツしたものを感じる。
手を離してそれを見ると、手には豆のような物がたくさんできている。
それを眺めていると…
「ああ、日々の鍛錬でちょっとな…」
「変に綺麗な手より…安心します…」
ターニャは無意識に微笑んでシモンを見つめていた。