109.虫
「えっと!これは…その…そう!虫に刺されちゃったの」
私はアリスちゃんの言葉に乗ることにした。
「かゆい?」
アリスちゃんに無垢な瞳で見られて、嘘をついてることに罪悪感がわく。
「うっ…ううん…大丈夫」
目を逸らしながら赤い痕を隠すように触る。
「よかったね~」
アリスちゃんはその痕を優しく撫でてくれた…
サッと着替えを済ませると、印が見えないようしっかりと身だしなみを整える。
よし!大丈夫だ。
鏡で確認してちゃんと見えないことを確認すると、アリスちゃんを連れて扉に向かった。
「ルーカスさん、もう大丈夫です」
声をかけると扉が開いた。そして顔を覗かせて私の姿を確認すると、ルーカスさんはほっとしたように扉を開けた。
「アリス、ノックもしないで女性の部屋に入るのはマナー違反だぞ」
アリスちゃんをみて注意する。
「そうだね、女性じゃ無くても人のいる部屋に入る時は気をつけようね。アリスちゃん次はちゃんと出来るかな?」
「わかった!アリス、トントンする!」
アリスちゃんはわかったと素直に頷く。
「よし!いい子だ。じゃあみんなが待ってるから行こうか」
ルーカスさんに抱きかかえられたアリスちゃんとダイニングへと向かった。
「おはよう、朝から騒がしかったが…大丈夫かな?」
部屋にはブライアン様とフレア様が席についていた。
「申し訳ありません…お待たせ致しました」
二人を待たせてしまったと思い慌てて席に座った。
「そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「そうよ。年をとると朝が早くなってしまうのよね…」
フレア様が困った様に顎に手を当てた。
「そんな、まだフレア様もブライアン様もお若くて綺麗です」
「まぁありがとう!お世辞でも嬉しいわ!」
フレア様がにっこりと笑うと
「いえ!お世辞では…ねぇアリスちゃん?」
私はアリスちゃんに同意を求めると…
「うん!フレアさまきれいでやさしいの!」
「アリスちゃん…みんな!アリスちゃんに早く美味しい料理を出してあげて!」
フレア様は嬉しそうにメイドや従者に声をかけた。
「だからいつも言ってるだろ?君はいつまでたっても綺麗だと…」
ブライアン様も同意するようにフレア様の手に触れた。
「あなた…ふふ。ありがとうございます」
二人は見つめ合い微笑みあっている。
まるで会話が無くても心が通じあっているように見えた。
「素敵…」
朝からポカポカとした気持ちが広がる。
「それにしても何があって遅くなったのかな?」
ブライアン様が微笑みながら聞いてきた。
「リナねーおむねにむしさされちゃってかゆいんだよ~」
「「ん?むし?」」
ブライアン様とフレア様が同時にこちらを見た。
「ア、アリスちゃん!」
慌ててアリスちゃんの口を後ろから塞いだが…遅かった。
「へぇ…虫刺されねぇ…」
ブライアン様がジロっとルーカスさんの方を睨みつけた。
「あらぁ~昨日のお散歩の時にでも刺されちゃったのかしら?」
フレア様がクスクスと笑っている…
私は穴があったら入りたい気持ちで真っ赤になりながら下を向いた。