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エリクはこれまでにないほど焦燥感に駆られていた。
エリクの聞いた音と魔力減少の停止は、エリクが村に張ったはずの結界がなくなったことを意味していたからだ。つまり村に危険が迫っている可能性が高いということ。
魔王城から村までずっと馬を走らせたとしても1週間はかかってしまう。それでは間に合わない事は明白だ。
エリクは何故結界が攻撃されている事に気づかなかったのだと自分自身を責める。
魔王との戦闘に全力を尽くしており、魔力供給も薄くなったタイミングでの結界への攻撃だった為、むしろ破壊されたことを感知できただけでも十分だがエリクはそれを良しとしない。
エリクが馬を呼ぼうとした時、後ろから着いてきていた魔王がエリクにかける。
「村の方角は?」
魔王の問にエリクは不思議に思いながらも、ずっと東だと答える。
すると魔王は承諾するように頷くと、カツンと踵を鳴らし魔術を発動させた。
魔王の行動に驚いていると、突然の浮遊感がエリクを襲い、体が前に倒れる。エリクの足は宙に浮き、魔王がエリクのすぐ横の位置に移動している。いつの間にか腹に回されていた腕を見て、エリクは自身が小脇に抱えられる形で魔王に担がれていることに気がついた。
「馬で向かうよりこの方がずっと速い」
魔王がそう言うと、突然大きな風音し、上方から強い風圧がおこる。強い風圧と音にエリクは思わず目を瞑る。数秒後、風圧が止まると、エリクはゆっくりと目を開けた。
「は……?!」
エリクの視界には、宙に浮いたままの足と魔王の身につけたマント、そして遥か下方に小さくなった魔王と周辺の鬱蒼とした森が映っていた。
思わず声を漏らしたエリクに、魔王は軽く鼻を鳴らし上からエリクの様子を観察している。
エリクがチラリと魔王の方を見れば、嘲笑するような笑みを浮かべる魔王と目が合った。
城の外で自由に飛び回られていたらエリクの勝ち目は薄かったかもしれない。とエリクは魔王を見て思う。
そして嘲笑を浮かべる魔王に少しばかり反抗するように魔王の横腹を肘で殴った。
「それで、何があったんだ?」
魔王はエリクを抱えてエリクの伝えた方角へと進み出した。魔王に小脇に抱えられるエリクは自身の姿を俯瞰で想像し、エリクの人生で1番惨めな姿であるとげんなりした。
「村にかけた守護の魔術で減っていた魔力が減らなくなった。魔術が破られたかもしれない。」
勇者の紋章を使用した魔術が破られるとは考えずらいが、勇者の紋章も万能ではないのだろうとエリクは無理やり自分を納得させる。一介の魔術師なんかには破られることは無いため、複数人での攻撃か、獣や村人が気付かず陣を消したか、はたまたエリクの知らない強者が現れたのか。エリクは可能性をあれこれ考えつつ村に向う指示を魔王に出す。
「無事だといいが。」
エリクが誰に言うわけでもない小さな声でそう呟いた。エリクの独り言が聞こえたのか魔王はため息を軽く吐くと、飛行速度を上げた。
上がった速度と風圧にエリクは驚きつつも防護魔術を発動しつつ対応する。速度を上げた魔王の行動を不思議がりつつも、エリクにとっては速ければ速い程よい為止めることはしない。
エリクは薄く開けた目で村がある方をじっと見つめ、視界に捉えるを待つ。やがてエリクの村が姿を現すとエリクは魔王に向かって叫ぶ。
「魔王!見えた、あれが俺の村だ!」
魔王は速度を変えずに、着地するため降下していく。
エリクの村の入口付近に大勢の人が確認できた。
エリクは自身の腰にかけた剣に手を置き、柄を握りしめる。
隊列をなしているようで入口から遠い後方にはローブを被っている者が数人、その前方には鎧を纏い馬に乗った者が数人、そして誰も載っていない馬が数頭。
後方のローブを着た集団が一斉に魔法陣を発動する。
魔法陣の方角はエリクの村だ。
「魔王!!俺を落とせ!!」
エリクの村に向けた魔法陣を見てエリクは魔王に叫ぶ。
魔王は速度を上げたまま集団の上空からエリクを落とした。




