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エリクは深呼吸をして、気分を落ち着つかせる。
荷物と剣を背負って、見送りに来てくれた両親や村の人の方へ向いた。
「いってきます。」
エリクがそう言うと父親と母親はエリクの肩に手をそっと置く。そして、行ってらっしゃい、と微笑んだ。
両親がエリクから少し離れるとその間を縫って、ひょこりとリラが現れ、声をかける。
「エリク!絶対無事に帰ってきてねっ、絶対だよ!私待ってるから!」
そう言いながらリラがエリクの手をぎゅっと握る。エリクはその手をしっかりと握り直して、もちろん、と笑って見せる。
村の人たちへ挨拶を済ます。皆がエリクを見守る中エリクは馬に乗って村の外へ馬を走らせた。
×××
村が見えなくなってきた辺りまで走って、エリクは今後の計画を頭にうかべる。
前は村からでてすぐに、報告や聖剣の授与のためにシノネア王国へ向かった。しかし今はシノネア王国とは反対の方向へ進む。目的地は魔王城だ。
エリクは魔王に協力を持ちかけようとしていた。
魔王城で魔王と対峙した時、魔王は人の言葉を話す事を知った。会話とは言えない一言二言程度だが、言葉を話すことができるなら交渉だって可能だろうとエリクは思った。魔王が素直に協力するはずがないがその時はその時で実力行使にでればいいだろうと考えた。
それと、魔王城に向かう理由はもうひとつある。今の奇妙な状態、何故時が戻ったのかを聞くためだ。魔王は多くの魔術を使う、時間に関する魔術を知っていれば何か分かるかもしれない。それも望みは薄いが、信用出来ない国よりはマシだろうと考えた。
馬に魔術をかけ、障害物を気にせず走り続ければ数十日程度で魔王城へ到着するはずだ。
移動している間ずっと村のことが気にかかる。魔術があるから大丈夫だと思うが、即時に移動出来る魔術があればいいのにと思う。それと、以前の仲間だった人の事もどうしているだろうかとエリクは思いだした。
彼らは王国から任命された人達だ。元からエリクを欺いていた可能性もある。ただもしも、仲間も国王に騙されている立場だとしたら。そう考え、会うことがあれば話を聞いてみようとエリクは思う。どうしても疑いたくないという気持ちがあるのだ。
×××
十日程過ぎた頃、鬱蒼とした森が見え始めた。その森の奥に小さく魔王城が見えた。魔王城の周りは黒い霧のような物が立ちこめている。森が風に揺られ鳥が鳴き声を上げながら飛び立つ。
いつみたって気味の悪い森だとエリクは思った。
魔王が最初に出現した地点の周辺はあのような黒い霧が発生し、周囲の草木や動物に変異をもたらすらしいと、昔に仲間の神官が話してくれたことを思い出す。霧は魔王の出現に発生した魔力の残穢なのだという。魔力が残穢として残ること自体珍しいことだ。それがこの16年、消えることなくこの場所を侵食している。周辺はすっかり姿を変え、出現前の、本来のこの場所を知らせるものは何も無い。
魔王の一番の脅威と言えるのは、魔王の出現と同時に発生するこの霧なのだ。そのうえ霧は魔王が居なくなるまで残存し続け徐々に拡大をする。魔王が居なくなったあとも完全に元の姿に戻すのは時間を要する。そのため早急に魔王を討伐することが求められるのだとか。
エリクは守護の魔術を馬と自分に施し、森に入る。あちこちにいる魔物を避けつつ最短で魔王城へ向かった。
前にこの森を訪れた時はかなり霧が拡がって魔物も数を増やして魔王城にたどり着くまで苦労したが、今はまだあれほど拡がっていない為、数時間あればたどり着けた。
魔王城の扉の前に立ち、エリクは息をつく。前と違う状況だが、前と同じ緊張感がある。
エリクはぐっと拳を握りしめた後、城の重々しい扉を押しあけた。
魔王城の中は薄暗く閑静としていて、地面には小さい瓦礫や砂などがそのままで魔王がいると知らなければ廃墟だと勘違い出来そうだ。
「……」
一歩足を踏み出すと、砂や石を踏む音がなり、部屋に響き渡る。
そしてその音と同時に、奥へと続く廊下の壁に付けられた燭台に火が点る。他の廊下には灯りがともらない。灯りの方へ向かえと言いたげだ。
エリクは灯りを辿って廊下の奥へと進んで行った。
しばらく歩くと扉の前についた。天井近くまである鉄の扉に手をかけると、押すまもなくギギと音を立てて扉が開かれた。
灯りが1つもなく、天井から月の光が薄らと辺りを照らしている。真っ直ぐ引かれたカーペットの先、階段の上の玉座の場所に、人影が見える。そうして人影はゆらりと揺れ、部屋に声が響き渡った。
「待っていたぞ。勇者」




