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エリクは目的地へ走って向かう。リラといつも遊んでいた場所、彼女は村の離れに生えている背の高い木の下でいつも楽器を弾いていた。きっと今日もそこにいるはずだ。


小さな村だから、距離はそう遠くない。暫く走れば背の高い木が見え始める。その下にリラがいるのが見えた。

走っている音が聞こえたのかリラがエリクの方を向き手を振る。エリクは勢いよく、リラを抱き締めた。

急のことにエリクの腕の中でリラが慌てる。しかし、エリクはそんなリラに酷く安心しより強く抱き締めた。息をし、温かく、動いている。その事が酷く幸せなことだと感じられたのだ。


「……リラ、良かった。」


「エリク?どうしたの?」


リラは様子のおかしいエリクを剥がしながら、心配そうに顔を覗き込んだ。

リラの顔をみてエリクは言葉につまる。安否を確認出来たことが嬉しくて勢いで行った行動だった為、何と言おうか考えてなかったのだ。

勿論1度死んだ、みんなが殺された、時間が巻き戻ったなどと伝えることは出来ない。頭がおかしくなったと思われる。


エリクが何も言わず下を向いていると、リラが何か思いついたように、あ!と声に出す。


「……さては寂しくなったんでしょ?旅に出るの明日だもんね!……エリクもまだまだ子供だねっ」


リラはそう言って笑う。久しぶりに見たリラの笑顔につられてエリクも笑った。


2人で木の下に座る。そよそよ吹く風が気分を落ち着かせてくれた。

エリクは小さく息を吐くと、呟くような小さな声を出した。


「俺、この村でずっと暮らしていくんだって思ってた。」


俯きながら言うエリクを、リラは静かに聞いた。


「……こんなことになるなんて想像もしてなかった。」


──村が壊され、皆が殺されて、自分も死ぬなんてどんな悪夢だろう。

エリクはグッと歯を食いしばって、目元を腕で拭うように擦ると、リラの方に向き直った。


「……絶対、絶対みんなを守るから。」


──誰も奪われないし、奪わせない。


これはチャンスだとエリクは思った。今なら全てをやり直せる、皆を守ることが出来る。どうかこれが、都合のいい夢でないことを願った。


×××


他の村の人達とも会って他愛のない会話をする。皆にとっては昨日も会った認識だろうが、エリクにとっては4年ぶりの再開だ。改めて村の人達に愛されて育ったのだなと思う。

家に帰り、母親が明日は旅立ちだからと張り切って作った食事を楽しむ。無口な父親も今日ばかりは口数が多かったように感じた。


食事を終え自室に戻ると、装備品を確認しつつエリクは今後の予定について考える。


前見たく長く此処を離れるわけには行かない。村が襲われた詳しい時間が分かってないからだ。エリクが村を離れている間も村を守れるようにしなければならない。


どうしたものかと暫く思考を巡らせる。そしてエリクは1つ思いだした。以前旅の途中で、仲間の魔術師に様々な魔術を教えて貰っていた。その中に守護系統の魔術があった事を。


エリクが魔術を教わった当時は、エリクも未熟で魔術の発動は上手くいかず、守護系統は魔術師頼りになっていたが、今なら可能かもしれない。魔術の発動の仕方はエリクの頭の中にある。

エリクは物は試しと守護の魔術を発動してみることにした。


エリクは両親に道具を片すなどと適当な言い訳をして、家の裏口から外へ出て納屋の方へと向かう。

エリクは納屋の影に隠れる場所でしゃがみこみ、地面に魔法陣を描いた。


普通の守護の魔術では特定の人物や物に限る範囲の小さいものらしいが、この魔法陣に勇者の印を書き込む。

勇者の印を魔法陣に組み込むと通常より威力や範囲が大きくなるのだと旅の途中で気がついた。それでも発動したり描き上げたりの技量は本人次第なため、自分で自在に扱えるようになった時には旅が終盤に差し掛かった頃だった。


エリクは魔法陣の上に手を置き、魔力を流した。すると、魔術の成功を知らせるように魔法陣が淡く光り始めた。魔術は失敗すると軽い爆発を起こして消滅する。無事に成功して良かったとエリクは安堵の息を吐いた。


魔術の対象が村とその住民と広い範囲での定義をしたせいか、個体を守護しているというより、村を覆う結界を張っている魔術になってしまった。

安全になるなら対して変わらないかと自分を納得させた。


さて、とエリクは思考を切替える。

後はどうやって村を襲った奴にやり返し──復讐を行うか、だ。ただ怒りのまま殺すだけじゃ生ぬるい。あの時のエリクの絶望、怒り、憎悪、全てを本人にも知ってもらわなければ。


そして肝心の犯人だが、エリクは村を襲った奴に1つ心当たりがあった。エリクが死ぬ直前の騎士の会話だ。あの時、エリクを殺した騎士は『シノネア王にご報告を』と確かに言ったのだ。つまりこの件にはシノネア王が関わっている可能性が高い。


エリクの魔王討伐を支援していた裏では討伐後のエリクの始末を考えていたのだろうか。

魔王とそいつ、どちらが悪なのだろうかと、思って思い出す。

そういえば魔王は──


「エリク。」


背後からエリクの名前を呼ぶ声が聞こえてエリクは思考を中断する。振り返るとエリクの母親がいた。魔法陣の存在に気づかれないよう足元で隠すように前に出て母親に向き直った。


「片付けは終わった?こっちへいらっしゃい、外は冷えるわ。」


そう言って母親はエリクを家の中へ入れた。

母親はエリクを椅子に座らせると、エリクの目の前にカップを置いた。中身はホットミルクのようで、薄らと湯気が出ていた。


「今日はしっかり休まなきゃ、それを飲んでゆっくり眠って」


母親はエリクの頬を軽く撫でる。母親は眉を垂らして困ったように笑う。エリクにはその表情がどこか寂しそうに見えた。


「ありがとう、母さん」


エリクは母親に微笑み返して、そっとカップに口をつけた。ホットミルクは、甘くて温かくて優しい味がした。


微笑む母親を見てエリクは思う。エリクがこれから行おうとしている事を知ってしまっても、母親はエリクの事を大切な我が子だと言ってくれるだろうかと。この村の人はエリクを受け入れてくれるだろうかと。


エリクが復讐に手を染めた時点で、エリクがこの村に戻れるとは思っていない。が、もし受け入れてくれたらと願わずにはいられない。

エリクは頭の片隅に浮かぶ願いを隅に追いやるように消し去って、部屋に戻った。

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