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3

エリクは目覚めると同時に飛び起き、息を乱しながら辺りを見渡した。


「……ッ!…………?」


エリクは自室のベットの上にいた。16年住み続けた見慣れた家にいるのだ。


「……なんで、家が、」


エリクのいるこの家は壊されていたはずだ。

意識がなくなる前に感じたはずの痛みも怒りも憎しみも全て覚えている。エリクは確かにあの時死んだはずだった。


エリクは自分の左手に目線を落とす。左手にはいつも通り勇者の印が刻まれている。

自分の手や頬を抓ってみるがしっかりと痛みを感じた。エリクにはあの出来事が夢であるは到底思えなかった。


一先ず状況を把握する為に外の様子を確かめようと思い、ベットから降りようとした時、床に足をついたはずなのに上手くバランスが取れず、ふらついてしまう。思わず近くのサイドテーブルに手を付き、サイドテーブルがガタっと大きめの音を立てた。


エリクはどこか体に違和感がある事に気づいた。身体は何処にも不調ではないはずなのに、いつもと違うようなそんな感覚がエリクの中にあった。


エリクがそう考え込んでいると、部屋のドアがノックされ、軋む音を立てながら開いた。

思わず腰に手を当てるが、何も無いことに気づき、思わず舌打ちした。そうこうしている内にドアは完全に開き、人影が映る。

ドアの奥にいた人物を見てエリクは目を見開いた。


「母さん……?」


エリクが小さな声で呟くと、エリクの母親は困ったように微笑んで、おはようと言った。


エリクは母親をじっと見つめた。──母さんだ。母さんの声だ。生きてる。死んでない。

ぼうっと突っ立ったままのエリクに母親が手を伸ばしてエリクの頬と頭に手を置いた。


「もう、どうしたの、エリク?……悪い夢でも見たの?大丈夫?」


母親がエリク名前を呼ぶ。エリクが勇者として旅に出た日から聞くことの無くなった自分自身の名前。

触れている手が暖かく、それが母親が、エリクが生きているといることの証明のように思えた。エリクは泣きそうになるのをグッと堪えて笑顔を作る。


「うん、ちょっとね。でも大丈夫だよ」


「……そう?朝ご飯出来てるからね、顔を洗っていらつしゃい」


そう言って母親は部屋から出て行った。

エリクは母親の背中を見送ると、その場にしゃがみこむ。五分ほどその状態ですごすと、母親に言われた通りに顔を洗うため洗面所へ向かった。


桶に水を貼り、顔を洗おうと、水面を覗き込む。

そこでエリクは水に手をつけようとした体制のまま静止した。水面に映る自分の姿に違和感があったのだ。


何だか幼いような気がしたのだ。そこでエリクは思い出した、朝もベットから降りる時に違和感があったことを。


「若くなっている、」


朝方にふらついた原因は、若くなったことで背丈が変わり距離感が変わったからか?とエリクは思う。

正確に測定した訳ではないが、エリクが旅に出てから4年間で10cmほど伸びていたはずだ。それが急に縮んだのだ、感覚が変わってもおかしくない。


壊れていたはずの家が元に戻っていること、死んだはずの母親が生きていること、そして自身の若返り──

そこでエリクはふと1つの可能性を思いついた。


「時が戻ったのか……?」


エリクはしばらく考え込んだ後、まずは情報収集をしなければと思い、軽く顔を洗うと両親がいるでろう部屋へ移動した。


「おはよう、エリク。」


部屋に着くなりエリクの父親がそう声をかけた。


「父さん、おはよう」


母親と父親が食卓についている、その光景がエリクにはとても眩しいもののように思えた。またいつものように両親と食卓を囲むことを4年間楽しみにしていたのだ。また目頭が熱くなり始める。

あぁ、この場所が好きだな──とエリクはそう思った。


そういえば、死体の中にどこかが欠けた遺体があったなと思いだした。思い出すだけで気分が悪くなってしまうが、あの欠けた遺体は恐らく父親のものだろうとエリクは思う。何よりも家族を大切にする人だ、襲われたなら庇ったり、抵抗したりしただろう。その過程で無くなったとする方が自然だ。

今の父親や母親にはもちろん傷なんか見当たらない。それがあの出来事が起こっていないということを教えてくれた。


「父さんったらエリクが旅に出るからって、朝からずっとソワソワしちゃって落ち着かないのよ」


そう言って母親が笑う。その言葉に父親は照れ隠しをするようにご飯を食べ始めた。


「旅……」


会話から、ここはエリクが旅に出る前の日であることを知る。

母親はエリクが呟いた事を聞き逃さず、不思議そうな顔をした。


「そうよ、明日はエリクが旅立つ日でしょう?これでも父さん寂しがってるのよ、もちろん母さんもね」


「母さん……俺も、俺も寂しいよ」


昔の自分では言えない照れ臭い言葉も今ならすんなりと言葉にできる。

エリクが寂しいと口に出せば、父親と母親は一瞬ポカンとした表情を作ったあと、笑みを浮かべた。

そんな、気恥づかしい中朝食を食べ終えると父親が口を開いた。


「……エリク、皆に挨拶はしたのか」


そう言われて、幼馴染のリラの事を思い浮かべた。

彼女も元に戻っているのだろうか、とエリクは思う。そうして勢い良く席を立つ。


「俺、リラに会いに行ってくるよ」


そう告げて家を出る。

そんなエリクの様子を見て、あらあら〜と少し嬉しそうに母親が笑った。


誤字脱字等あれば教えていただけると嬉しいです

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