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魔王の死体は灰となって風に散っていった。何も無くなった床を見てやっと終わったのだとエリクは思った。エリクの後ろで喜ぶ仲間とは反対にどこか冷静で、どこか喪失感を感じた。
エリクの左手には見慣れた印が今も変わらず浮かび上がっていた。魔王を討伐することでこれも消えるがしれないと思っていたが消えることはなく残ったままだった。
討伐を終えたエリク達は討伐完了したことを国王へ報告する為王国へと帰還する。
王国では勇者の帰還と魔王討伐を祝い国を上げての宴や、褒美の授与式などが行われる。
エリクは故郷の村へ帰りたく逸る心を抑えて式や宴に出席した。
その後、必要最低限のみ王国へ滞在し、国王への礼や挨拶を済ませ家路に着いた。
×××
「…………は、?……なん、だ……これ……」
喉が引き攣り、上手く言葉が出ない。エリクは小さく吐くような音を出した。
エリクの目の前には変わり果てた村が広がっていた。
草木は灰色になり、家や橋なんかは倒壊している。そして微かに漂う何かが焼かれた匂いが村の中を充満している。
エリクは早足で村の中を歩き始める。
入口からはよく見えなかったが、建物の陰や川の傍など、そこらに人型の黒い塊が転がっているのが確認できた。焼け焦げた人間の死体だった。
昔の穏やかな村は見る影なくそこには地獄が広がっている。村の奥に踏み入ると、薄らと腐敗した臭いが混じる。
エリクは走り出した。自身の両親が待つ場所、自分の住む家に向かって。
途中、塊が2つ転がっているのが目に入った。見覚えのある場所と近くに転がる荷物が、小さい頃に仲良くしてくれていたおばさんとその子供である事を示していた。
グッと唇を噛み締めて、さらに速度を上げて家に向かって走る。持っていた荷物をその辺に捨てていく。
そうして、本来家があった場所に辿り着いた。
案の定、家は倒壊し扉もなにもない状態だ。エリクは息を整えないまま家の中に入る。
誰も居ないでくれ、どうか、遠くに逃げていてくれと祈りながら。
エリクは家の床に目を落とした。
「……ぁ……ッ…」
鼓動が早くなる。息が切れる。動悸と目眩が襲う。
耐えきれなくなってエリクは膝から崩れ落ちる。
目の前には三体の黒い塊があった。3人の死体だ。
顔が焼けていたり、何かが欠けていたりするが、それは紛れもなく両親と幼馴染だったものだ。
エリクは1つの死体──恐らくリラのものだ──を抱き寄せる。エリクは1人思考に沈む。
どうしてこんな事になったんだ。村の皆に笑顔で暮らして欲しくて、魔王を討伐すればまたいつもの様に村の人たちと、リラと暮らして行けるはずだったのに、だから旅を続けてこれたのに。どうして、いつこうなってしまったんだ。
そう考えても、声に出しても、返答が帰ってくることもなければ正解がある訳でもなかった。ただ静かな風がエリクの頬を撫で過ぎ去った。
エリクは死体をぎゅっと抱き締め、頭の中でひたすら自問自答を繰り返す。
何が原因でこうなったのか、魔物の仕業だろうか。俺が早く魔王を倒せていたら皆は死なずにすんだのか?──いや、何処か何かがおかしい。魔物が襲ったにしては何処か。
なんだ、なにが──そう考え、違和感の正体を探す為視線を逸らした瞬間、思考ごと切り裂くようにエリクの胸に刃が突き刺さった。
「……は……ッ……?」
痛みを覚えた胸元をを見ると、血液で赤く濡れた鈍色の刀身が突き出ている。
頭を後ろに向けて刺した張本人を確認すると、甲冑を身につけた体格のいい男が立っていた。
男はエリクに刺した剣を引き抜く。胸元から剣が抜ける勢いでエリクは床に倒れ込んだ。男は軽く剣を払い血液を飛ばした後鞘に収めてエリクをじっと見下ろす。
「貴様のせいで魔王が復活すると困るからな。世界の平和の為だ、悪く思うなよ。」
男はそう吐き捨てると、エリクから背を向け歩き出した。
エリクは朦朧とし始める意識の中で男が先程言っていた言葉を反芻した。
勇者のせいで魔王が復活する?勇者を殺すことが目的なら村が襲われたのは俺のせい──
「勇者もこれで終わりだな。シノネア王にご報告を──」
遠くから小さくそう聞こえた後、エリクはゆっくりと意識を手放す。
エリクの意識が途切れた直前、左手の印が淡く光り始めた。
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