18
「貴様ら、無事か?」
魔王城に着いて、俺とレーナを床に置き質問をなげかけてくる。レーナは青ざめた顔で頷いている。
「大丈夫だ。それより、あれは一体なんなんだ?」
先程起こった空間の揺れや特異な現象について魔王に質問した。
魔王は、顎に手を当てて何やら考え込みだす。
「あのような事を意図的に起こせるような者が勇者と魔王以外にいるとしたら……それこそ神だろうな。」
神……。確かに、世界をそのものを揺らし、壮大な幻を見せる魔術は、俺らでも不可能に近い上に大国の魔術士をかき集めても出来ないだろう。にわかには信じ難いが、神の仕業だと仮定した方が良さそうだ。
それに神がいるならこの時間遡行についてなにか分かるかもしれない。
「でもなんで神が現れたんだ?」
思いついた疑問を口に出す。するとまた魔王は考え込みだし黙ってしまった。
前回と同じ通りに進んでいないからか……?それとも1つの国を滅ぼしたから……?
「聖剣、落とした。」
沈黙の中にレーナの声が響いた。レーナに視線を移すとレーナは俺をじっと見つめていた。
レーナの言う通り揺れが起こる直前、俺は聖剣を炎の元に落とした。
「聖剣が壊れたことであの現象が起こった?でも何故……」
「『聖剣や他の聖遺物は神の魂を用いて作られている』教会で、よく聞かされた。破壊することで攻撃、若しくは世界と神の乖離。」
乖離?レーナの話す内容には疑問点が沢山あるが、俺も魔王も無言のまま続きを促す。レーナもそれを理解しているのかゆっくりと続きを話しだした。
神によってこの世界が創造された時、神は自らの魂を削り6つの聖物を作り、聖物の扱いに長けた二人の愛し子を地上へ降ろした。6つの聖物は人間に力を与え繁栄の手助けをし、二人の子は神の声を聞き人々へ知恵と預言を伝えた。
しかし、愛し子の1人が魔に当てられ守るべき人間に対し牙を剥く魔物と化してしまった。魔物は聖物の1つである聖盾を取り込んだ。聖盾の力を手に入れた魔物は難攻不落の城を作り上げた。魔物の力にあてられた辺りの動物も魔物へと変貌していき、城の周りは人の住むことの出来ない魔物の領域に変わった。1人の愛し子が魔物の王になったのだ。
神はお怒りになった。魔物に聖物を触れる事ができぬよう呪いを掛け、残った愛し子に魔物の王を討伐するよう天命と祝福を授けた。
それが、祝福されし者と呪われし者である。
そうして初代の魔王が倒された後、人々は聖物が独占される事を恐れ5つの国にそれぞれの聖物を分け、大陸の各地に散らした。
誰でも知っているようなこの世界と勇者の話しをひと通り話、また話を続けた。
先程の話では、神は聖物を与え世界を見守っているとされているが、司教は神が世界を見捨てぬようにする為の鎖なのだと話していた。
聖遺物を破壊することが、神の魂の一部の消滅を意味するならば神へ間接的に攻撃を与えることができる。司教の言う聖遺物が世界と神を繋ぐ鎖であれば神と世界の乖離させることができる。
どちらが正しいかは分からない。が、聖遺物はいずれ壊れてしまう。聖遺物が事故で壊れる事も考えられる。その時に神への攻撃になってしまう以上、聖遺物の破壊による攻撃は薄いように思う。
あの揺れは神と世界の鎖が壊れた反動である可能性が高い。
「と、私は考えている。」
一度に話して疲れたのか、レーナは自分の意見を述べた後大きく息をついた。
「どちらにしろ、もう一度聖遺物を破壊して確かめるしかないな。試してみたいこともある。」
「お前なぁ……確かめるなんて言うが、聖遺物は国が所持しているんだ、簡単には手に入らないぞ。」
聖遺物の破壊を当たり前のように言う魔王に、呆れ気味で返事をした。
いくら魔王だからって聖遺物を保有するような大国をいくつも相手するのは骨が折れる。「どうするんだ」と問いかけてみれば魔王はあっさりと答えを出した。
「滅ぼせばいいだろう。1度やったんだ、何度やろうと変わらない。」
大国をいくつも相手するらしい。面倒事にならないように俺が頑張る必要がありそうだ。レーナにも手伝って貰おう。