17
魔王に教わった魔術を使って空中に浮き、足元で音を鳴らしながら燃える城下町を見下ろす。
空中を浮遊できる魔術はとても便利だ。まだ軽く浮く程度しか扱えないが、魔王の様に自由自在に飛び速度を出せたら戦闘にも役にたちそうだ。それも、もう遅いけれど。
炎が燃えさかり建物が崩壊し大きな音を立てる。至る所から住民の悲鳴が聞こえてくる。何とかして街から逃げようとしているが唯一の逃げ道である、外へと続く門は瓦礫によって潰されている。
道を作ろうとする者、他の住民を助けようとする者、その場で立ち尽くす者、様々な人がいる。俺の村もこんな感じだったんだろうか。
「満足したか?そろそろ戻るぞ。」
隣で城下町を眺めていた魔王が口を開く。「それに、こいつは高い場所が苦手らしい。」と片手に担いでいるレーナを見せる。レーナの顔は青ざめており今にも失神しそうだった。
「あぁ、少し待ってくれすぐ終わる。」
紐に括っていた国王を炎に少し触れる高さまで持っていく。国王の体は四肢を切り落として逃げられないようにしている。今までの苦痛によってか涙や汗によって酷い顔をしている国王は未だに小さく「助けてくれ」と喚いていた。
「お前が我が物顔で過ごせる場所はもうない。自分自身がしてきた行いに悔いながら死ね。」
そう言うと国王の顔は更に青ざめていく。そして今度はより大きな声で「頼む」「助けてくれ」と許しを乞い始めた。
そんな国王を炎の中に蹴り入れる。国王はより大きく声を上げ、数分経つとその声も消えていった。
前にもっと早くこうしていれば、国王の考えに気づいていれば、あの時リラ達は死ぬことは無かった。消化できない思いに気付かないふりをし魔王の元へ戻る。
ふと、手に持っていた聖剣を見て思う。勇者は聖剣の本来の力を引き出すことが出来るが、それを使う必要のある相手はもう居ない。強いて言えば魔物だろうが、魔王以外の魔物なんて聖剣じゃなくとも事足りる。聖剣があっても大切な者を守る事は出来なかった。ならもう無くてもいい。
そう考えながら、手に握っていた聖剣を炎の中に落とした。
「帰ろう」と魔王に伝えようとした瞬間、突然空気が揺れるような感覚に襲われた。
地面が揺れ、木々がざわめく、足元の炎もより強く燃え始めた。ただの地震ではなくこの世界、空間ごと揺れているような感覚さえしてくる。
「ッ……!」
揺れる空間に対して上手く魔術を制御出来ず、体勢を崩す俺を魔王が肩を掴んで支えた。そんな魔王も変化に気づいているのか険しい顔をしている。空のある一点を見つめているようだった。先まで具合が悪そうだったレーナも同じ場所を見つめ目を見開いていた。
2人のおかしな様子に、俺も視線を空に向けた。
それは、目に映っているにも関わらず認識拒む。
世界を丸ごと包込みそうなほど大きな手のであるように思えるが、こちらを覗いてる翼の生えた人のようにも見えた。
あまりにも不気味でおぞましく、それと同時にこの世のどこを探しても見つけることのできない美しさを持ち、白く輝いているようだが、半透明で霞がかっていた。
そうして、薄く微笑みかけ愛好するように、強く睨みつけ憎悪するような表情を見せ、すっと消えていった。
それに合わせてか揺れも収まっていく。
「……チッ……気味が悪い。」
完全に揺れが収まったあと、魔王はそう吐き捨てて、俺の肩を掴んで引っ張りながら魔王城のある方へ進み出した。