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「その道具、どこ?」
俺と魔王以外の声が聞こえて思わず振り返る。随分とわかい声だ。女性のような声が聞こえたと思えば男性のような低い声も混じっていて、なんとも表現しがたい声色をしている。
声に対する認識阻害魔術だろうか。妙な魔術の掛け方をしている。
先程までうろうろと部屋の中を歩き回っていたローブを被った人が魔王に向かって話しかけていた。魔王は気にもしていなかった相手に話しかけられたことに驚いたのか表情が微動だにせず、ローブの人を見ている。
暫く沈黙が続くと、もう一度「道具、どこ?」と魔王に聞く。
「……そこに転がっている女の首にある。それが貴様の探し物か?」
魔王の質問にローブの人は頷いて返事をした後、倒れている女の元に向かって行った。女の首から首飾りを取るとそれをじっと眺めている。
「なんでそれを探してたんだ?」
一旦国王を放置して、しきりに首飾りを眺めているとこに近づいて一緒に見てみる。すると視線が少しだけこちらを向いた。そうして、ローブの人は淡々と答えを返した。
「これ、作った。部屋に置いてたのに無くなってた。今も別の道具つけてるけど不十分。貴方達にバレた。」
「まて、それを貴様が作ったのか?本当に?」
魔王がつかつかと歩み寄ってきて目の前で止まった。
先まで、呆れたような様子をしていたのに今は目の色を変えたような感じだ。確かに、魔王でも感知できなかった道具を、部屋でうろうろしてた人間が作ったと分かったら驚きもするか。実際、俺も驚いている。
ローブの人が魔王の質問に頷く。それを見て、ローブの人をじっと見つめたまま魔王は何か考えるように黙った。
魔王の様子をローブの人は不思議そうに眺める。
数秒後、何か思いついたのか魔王がおもむろに口を開いた。
「貴様、私たちの元へ来ないか?」
「……は?」
一瞬、聞き間違えたのかと思った。魔王がその辺の人間に声をかけるなんて事があるのか。信じ難い。
ローブの人も困惑している様子だ。
「何を戸惑っている。別に悪い話じゃないだろう。この国を滅ぼした後は私の城に来て魔術の話をするだけだ。それに、魔王が使う魔術について気にならないか?」
そう言って魔王が軽く魔法陣を展開させる。魔王にしか展開出来ない紋章入りの魔法陣。なにかの魔術を使うための魔法陣ではないが、どんな魔術にも使われる基礎的な魔法陣だ。魔術を使う者や魔術士ならばこの魔法陣がどれだけ価値あるものか分かる。
ローブの人はその魔法陣を食い入るように眺めていた。
魔王が魔法陣を消す。長い沈黙が続き、ローブの人は魔王の誘いに返事を返した。
「……別に働く場所が変わるだけ。それに、魔王と勇者の紋章には興味がある。」
「決まりだな。」
ローブ人の返答に満足したのか、魔王は軽く口元に笑みを浮かべた。
しれっと勇者の紋章についても何か言われていたが、ここまで手伝ってくれている魔王の為に目を瞑ろう。
「あたし、レーナよろしく。」
ローブの人は深く被っていたローブを外しこちらを見て挨拶をした。
肩までに切られた藍色の髪を持ち首にチョーカーを付け、驚くような魔術の道具を作った者は俺が考えていたよりもずっと幼い容姿をしていて、軽く尖った不思議な耳をしていた。