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 勇者を玉座の間から追い出した後、魔王は己が吊るしあげた兵士を見て恍惚とした表情を浮かべていた。


 やはり勇者に聖剣を探しに行かせて正解だった。


 彼の故郷では、彼自身が暴走してしまっていたため私はほとんど何も出来ずにいた。だが、好き勝手暴れるというのは何にも変え難い愉悦を感じることが出来る。魔王城では城を崩さぬように広範囲な魔術は扱えないが、ここでは必要な人さえ殺さなければ何をしてもいいのだ。

 魔王は床に伸びている残った兵士を、天井から照明のように吊り下げていく。そうして完成された”それ”を見て満足気な表情を浮かべた。


 これを魔王城に移せるようにしておこう。複数個は外に吊るして魔物に玩具としてあげるのも良いだろう。

 そんな事を考えるだけで歌でも歌いそうなくらい上機嫌になる。


 魔王が吊るされた兵士を眺めていると、背後から苦しそうな唸り声が聞こえた。

 魔王の背後にある玉座には国王は座っておらず、代わりに血の跡が玉座の裏に続いている。

 逃げられないようと腱を切っておいた為、這って玉座の裏に隠れるしかなかったのだろう。


 そんなことしてもなんの意味もないというのに。


 玉座を蹴り飛ばして隠れている国王を見えるようにする。その音で国王は小さく悲鳴をあげ、震えながら恐る恐るこちらを振り返る。そうして魔王の顔を見てまた小さく悲鳴をあげた。

 

 「這いずっているとはいえ、動き回られると面倒だな。磔にでもするか」


 そう言い、国王の右腕を持ち上げて壁にナイフで突き刺す。国王は今まで感じたことのない痛みに悶え叫ぶ。魔王がもう1つナイフを探していると、息を切らしながら国王が口を開いた。


 「貴様ッ……ワシにこの様な愚行……どうなるかわかっているのだろうな……?」


 国王がそう言い終えたと同時に、国王の左腕にナイフを突き刺し壁にはりつける。国王は部屋に響き渡る声量で悲痛に苦しむ声をあげた。魔王はそれを無表情に眺めたあと、魔術で剣を作り国王の肩に当てた。


 「貴様こそ自身の立場を理解した方がいい。生かしておくとは言ったが、何かの拍子で手足はなくなるやもしれん。」


 魔王が少し剣に力を入れると、国王は蒼白になり体を震わして言葉を発さなくなった。

 国王に対して興味を失った魔王は再び魔王に背を向ける。


 その瞬間、魔王の体に剣が突き刺さった。


 「...………。」


 魔王は口から溢れ出てくる血液を片手で受け止める。

 ゆっくりと自身の腹を貫く物に目をやる。白い刀身だが時折虹色の光沢をみせる。そして魔王の防御魔術すら貫通して本体に攻撃を与えたそれは紛れもない聖剣だ。


 「勇者は、聖剣を奪えなかったか。」


 ため息の代わりに血液を零す。そして、冷静に己を刺した相手に視線をやる。

 魔王を刺した相手は女の兵士だった。怯え、恐れ、怒りを顔に滲ませながら震えた手で強く剣を握っていた。

 そして首には兵士には似つかわしくない、大きな宝石の首飾りが着いている。

 おそらくは認識阻害の魔術の込められた首飾り。どうやらこんな国にも、優秀な魔術士がいるらしい。


 魔王は自身に刺さっている聖剣を無視して、剣を持っている女の首に手を伸ばした。首を掴み力を入れる。

 女は苦しそうな声を出し、地面から離れそうな足を必死に伸ばした。そしてゆっくり聖剣から手を離した。


 「私に聖剣を刺したことは褒めてやる。だがお前では私は殺せない。」


 女の意識を飛ばそうと更に首を絞め、同時に聖剣を抜こうと剣を引っ張る。刀身に触れると、焼けるような痛みが手に走る。聖剣なだけあって魔王を受け付けないらしい。


 「……やっかいだな。」


 想像以上に面倒な代物にため息が出る。勇者が戻ってくるまで待つしかないかと思い始めた時、部屋の扉がゆっくりと開く音がした。


 「ちょうどいい所に来たな。勇者。」


 扉の開いた先には、こちらを見て驚く勇者と深くローブを被った人間がいた。

 早く来いと目線を送ると、「何やってんだお前」と言いながら少しの呆れと焦りの混じった様子で勇者が駆け寄ってくる。


 「背後から刺された。痛くて敵わん。早くとってくれ。」

 「はいはい。取ってやるから、死なないように魔術かけ続けとけよ。」


 そう言って勇者が聖剣を手に取って引っ張る。

 聖剣が淡く光り始める。その瞬間に、刺されていた箇所の痛みが増す。聖剣と接触している部分は血肉を焼かれながら抉られている様で、酷い気分になる。女の兵士が刺した時とは比べ物にならないくらいの痛みだ。冷や汗が止まらず呼吸をするのも一苦労だ。

 聖剣を抜き終わると、魔王は床に膝をつき回復に専念する。


 「これが勇者が持つ本来の聖剣の力。2度目は喰らいたくないな。」

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