13
周りのやつらより明らかに良い鎧を着た兵士がこちらに真っ直ぐ向かってくる。周りの兵も巻き込めるよう広範囲な魔術を展開する。
もう少し引き付けて撃とうと言う時に、俺の背後から物が破壊されるような爆音が鳴り響く。その音に俺含めたこの場の全員が停止する。扉の方から煙が立っている。煙の中から黒い影がゆっくり歩いてくる。何かを引きずっているようだった。
「この国は客人を地下牢でもてなすらしい。少々退屈で抜け出して来てしまった。」
皮肉な笑みを浮かべながら登場した魔王に「なんだお前か」と、ついつい本音がこぼれてしまう。引きずっているのはおそらく見張りの兵だろう。部屋に入るや魔王は玩具を捨てるように兵を投げ捨てた。
「ふむ……随分楽しそうな状況だな?勇者」
俺が兵士に囲まれているのを見て魔王がそういう。
俺達が城に来る途中で、国王を殺す前にやりたい事があると魔王に伝えておいた。一つ目は聖剣の回収。それから前に仲間だった人達の確認。この2つのための演技だった。だが、両方取るのは難しそうだ。
「失敗だ。仲間は諦めて、聖剣だけ回収する」
「了解した」
聖剣を探すにしても兵士達をどうにかしないとな。
飛びかかってくる兵士を剣で受け止めて流す。まわりの奴らごと魔術で吹き飛ばす。
「勇者、先に聖剣を取りに行け。ここは私が片付けておこう。」
「安心しろ国王は生かしといてやる」と魔王は笑いながら、次々と魔術で兵士を拘束して動けないように吊るしあげている。
その姿があまりにも邪悪で「魔王らしいな」なんて思う。本当に、こいつを仲間にできて良かったと心底思った。
近くにいた兵士を魔術で攻撃して壁側によろけた隙を狙って玉座の間から廊下へ出た。
聖剣がある場所は予想がついている。城の最奥、大きな南京錠と魔術によって作られた自動人形が守る部屋、宝物庫だ。人形と南京錠を破壊し入った部屋には、綺麗に並べられた古代の遺物や積み上げられた金塊、無数になれべられ磨かれた武器、そして大事にかけられた聖剣が置いてある。
あった。前に俺に渡された聖剣。魔王を倒した後国に返還したがまたこうして持つことになるとは。かつては魔王を倒し民を救うために振るった剣を今は国王を、民を殺すために使おうだなんて皮肉だな。
聖剣へと手を伸ばし柄を握る。
「……?」
おかしい。
聖剣は本来勇者が手にすることで真の力を発揮する。その証として勇者の紋章が淡く光るはずだ。なのにそれがない。
「偽物か……」
あまりに精巧に作られた偽物。国宝なのだから偽物を用意して目を晦ますのも当然か。聖剣は探し直しだ。一度魔王と合流しよう。
俺は偽物の聖剣を持って宝物庫を後にした。