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「もういい。やめろ。」
振り下ろそうとした剣を魔王に受け止められて、我に返る。足下には、バラバラの肉塊が広がっていた。先程の騎士の面影はない。唯一、歪んだ鎧が騎士であったのだと示している。
柄にもなく冷静さをなくしてしまっていた。ため息が出そうだ。こんなとこリラに見られたら……そう考えてふと思う。
「リラはどこだ?」
さっきまで近くにいたリラがいなくなっていることに気がつく。俺がそう質問すると、魔王は俺の顔を見て心底面倒な顔をしてため息をついた。
「近くにいた娘の事を言っているのなら、とうに村の奥に連れていった。」
貴様のあのような姿を見せるのは好ましくないだろう。と魔王が地面にある肉塊に視線を落とす。
確かにリラにあの姿を見せるのは良くない。遠くに離してくれた魔王に素直に感謝するとしよう。
それと、この肉塊は燃やしてしまった方が良さそうだ。村の景観にも良くないし、匂いも酷くなるだろう。
死骸の前で屈んで、魔法陣を描く。火力を上げて、燃え終わると骨も残らないほどの高温で。
「その剣ももう使えないだろう、捨ててしまえ。」
魔王が俺が手に握っている剣を指さしてそういった。
剣を見ると、刃こぼれはしているし血肉のせいで切れ味も悪くなっている。これでは刃物としてでは無く鈍器としてでしか使えない。魔王の言う通り捨ててしまった方がいいだろう。肉塊が燃えている、火の中に剣を放り投げる。
視線を火から外す。少し離れた所に、この騎士が持っていたであろう剣が転がっているのが見える。
俺が持っていた剣はダメになったし、代わりにこいつを持っていくか。剣なんて使えればそれでいいんだ。
もう一度守護魔術をかける。次は壊されることがないように。何重にもかけよう。魔術を跳ね返す魔術も。
勇者の紋章を使ったからと安心していたのが馬鹿だったんだ。勇者の力なんて信用出来ない。大事な時に大切な人を誰一人として守れない。
自分の手をグッと握りしめる。俺が勇者なんかじゃなければ、今も皆と笑って過ごしていたのだろうか。
「よし、王国に行こう。」
魔術を掛け終え、魔王に声をかける。国王がもう一度騎士を送って来るかもしれない。そうなる前に国王を殺す。
村が襲撃されることがないよう魔術をかけたが安心は出来ない。
「あの娘には会いに行かなくていいのか?」
「大丈夫だ、行こう。」
そう言って、魔王に早く行くよう催促する。目の前で暴れてしまっただけに少し会いに行きずらい。それに、リラならもう少し待っててくれるはずだ。
全てが終わればまた一緒に居られる。いつものように。
数話まとめて読みやすくしたものをカクヨムにて連載しております。なろうと同じ名前なので、こまめに読むのが億劫な方はそちらをご覧下さい。