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《いつもの童話特集》

お化けの木と不思議な姫

作者: 賀茂川家鴨

小さな国の王子がお化けの木で出会う不思議な姫とのお話です。

 小高い丘のてっぺんには、小国でもっともおおきな木があります。

 人々はこの木を「お化けの木」と呼びました。

 しかし、お化けの木を囲む森は危険でしたので、国民はほとんど寄り付きません。


 小高い丘のふもとには、王家の暮らすお城があります。

 大きな木ですが、ふもとからお化けの木はよく見えません。


 夜、王子はいつものように、お化けの木へと向かいました。

 お化けの木に乗って星を眺めるのが好きだからです。


 お化けの木に向かう途中の森には、人間を食べてしまう恐ろしい怪物が住んでいます。

 けれども、王子は腕の立つ剣士でしたので、難なく通り抜けることができました。


 うっそうとした森を抜けて、王子はお化けの木をすいすいとよじ登りました。

 心地よい風に吹かれながら星座を指で結んでいると、鼻歌のようなものが聴こえてきました。


「だれかいるの?」


 王子が声をかけると、唄声は止みました。

 すると、かさかさと葉擦れする音に紛れて、凛とした若い女性の声が降ってきました。


「こんばんは。あなたは?」

「僕は王子だよ」


 王子は空に向けて返します。姿は見えません。


「何をしているの?」

「星を眺めているんだ。空にきらきらと輝いていて、とっても綺麗なんだ」

「そうなんだ」


 王子は足をぷらぷらとさせました。


「君は誰?」

「わたしは……ええと……隣国の姫よ」

「そっか。姫、一緒に星を見よう」

「ごめんなさい。今、ちょっと人前に出るのが恥ずかしくて」

「わかった」


「ここは危ないから、早く帰ったほうがいいわよ」

「僕は強いから平気だよ。姫はどうするの?」

「わたしも強いから平気よ」

「そうなんだ」


 王子はうんと背伸びをして、姫に語り掛けます。


「ねえ、姫、さっきの唄、聴かせて」

「唄?」


 お化けの木の上で、不思議な鼻歌が響いていました。


   *


 それからというもの、王子は毎夜お化けの木に登り、姫とお話しながら星を眺めていました。


 ある朝、お化けの木の近くで、旅商人が怪物に襲われて大怪我をしたと兵士から報告がありました。

 旅商人には護衛がついていましたが、見たこともない大きな怪物に切り裂かれたというのです。


 夜、3人の近衛兵はお化けの木の元へと出征しましたが、大きな怪物の姿は見当たりませんでした。

 王子は姫のことが気になったので、近衛兵の報告を受けた後、周囲に秘密でお化けの木へと向かいました。


 小さな怪物を蹴散らしながら、難なくお化けの木にたどり着きます。

 やはり、大きな怪物の姿はどこにも見当たりません。


 王子はお化けの木の登ろうとしました。

 すると、いつも腰かけている太い枝がぽっきりと折れているではありませんか。

 王子は地面に落ちている枝を抱えました。


「どうしてこんなことに?」


 王子が首を傾げていると、少し沈んだ姫の声がしました。


「朝、人間達が枝を折っていったの」

「それって、もしかして旅商人のこと?」

「旅商人?」

「護衛をつけて荷物を運んでいる人達のことだよ」

「ええ。きっとそうよ。木が育つには何百年とかかるのに、その価値をわかっていないなんて」


 姫は小さく溜息をつきました。


「ねえ、王子。その枝を地面に置いて、目を閉じて。試したいことがあるの」

「うん。わかった」


 姫の言葉を疑問に思うことなく、王子は言う通りにしました。


「目を開いて」

「もういいの?」


 王子が目を開くと、王子と同年代に見える麗しい姫の姿がありました。


「姫?」

「ええ」

「とっても素敵だね」

「ありがとう」


 姫ははにかんで、王子の手を握りしめました。


 王子は姫とお化けの木に登り、手を繋いで星を眺めました。

 姫は王子を真似て、星座を指で紡いていきます。


「綺麗だね」

「そうね。もっと近くで見たら、もっと綺麗なのかもしれないわ」


 王子と姫は足をぷらぷらとさせています。


「ねえ、姫。旅商人を襲った、大きな怪物って見た?」

「それは……見ていないわ」

「わかった。姫も気を付けてね」

「え、ええ」


 姫は目を閉じて、鼻唄をそらんじていました。


   *


 翌日、旅商人はたくさんの木材を荷車に積んで、別の国へと旅立っていったと兵士から聴きました。

 王子は何だか嫌な予感がして、夜になってから、こっそりとおばけの木へと向かいました。


 すると、なんということでしょう。お化けの木が切り株になっているではありませんか!


「姫!」


 声をかけますが、姫の声はしませんでした。

 切り株には太い木の枝が立てかけられています。


 王子は枝を抱えると、切り株に腰かけて、姫の鼻唄をそらんじました。

 しかし、待てど暮らせど、姫はどこにも現れません。

 王子は肩を落として、枝を持ち帰り、自分の部屋に飾ることにしました。


   *


 その後、お城では妙な噂が流れるようになりました。

 王子の部屋から、奇妙な女性の声が聞こえてくるのだ、と。


 おしまい。

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