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花闇の帝都に瑞花咲く  作者: 菅野美佐
4  あまつ風に雪花は舞う
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覚悟の程

貴之視点



 雪花が風に舞った。冷たい風に雪が乗り、軌跡を描くのを見るのは、寒い季節のひそかな楽しみでもあった。

 祝子の一件以来、二人で毎日欠かさず香を焚くなどして、屋敷の浄化と祝子に気を送って、少しずつ正常なものに戻している。

 日に日に良くなっているという手ごたえもあり、二人で喜び合って祝子宅を後にしたのだった。

 二人は散策を兼ねて、寄り道をしながら澱みを祓っていた。


「人通りの多少にかかわらず、澱みはひどいね」


 大通りから小さな路地へと入った場所の澱みを祓ったところで、貴之は呟いた。震災以後は澱んでいないところのほうが少ない。雪乃も「うむ」と頷いて、両手を口の前にやって、はーっと息を吹きかける。


「寒いなら、手袋をしたらいいのに」

「毛糸の厚みで印が組みにくうなるゆえ、好かぬ」

「メリヤスの手袋は? 薄くていいよ」

「私は、そんな無粋な物は着用せぬ」


 貴之の提案に雪乃は怒って、そっぽを向く。

 体を張ってまで格好つけなくてもと思いつつ、貴之は雪乃の組むように合わせた手を、そっと取った。

 雪乃は驚いたように顔を上げた。雪のように白い頬を、ほんのり赤らめていた。


「こんなに手を冷たくして」


 雪乃の手はひんやりと氷のように冷たくさせていた。幼子を嗜めるように呟いた。


「ちゃんと術は使える程度だ。問題なかろう」


 ふてくされた小さな子供のように、小さく言い訳する。貴之は目を細めてしまった。

 雪乃は、うろたえるように視線を彷徨わせた。が、ぱっと振り払うように手を離すと「行くぞ」と言うが早いか、路地を奥に向かって進み始める。

 いつもより早足で、つかつかと進んでいく。


(少し様子がおかしいな……でも、今は、そっとしておいたほうがいいな。幸い、ご機嫌斜めというわけではなさそうだし)


貴之は追い越すこともせず、後をついていった。

 しばらく歩きながら、時折は澱みを祓ってまわったが、ふと異臭を感じて立ち止まる。覚えのある特徴的な臭気であった。


「待って」


 雪乃を慌てて呼び止めた。貴之の強張った声に、雪乃は異変を感じたのか立ち止まり、やや警戒気味に「どうした」と応じた。


「雪姫や、傍に控えているね? 臭気を辿れ! おそらく、殺生鬼に繋がる」


 厳しく命じると雪姫は頷いて姿を消す。貴之の言葉に雪乃は柳眉をぴくりと動かした。気を張り詰めて貴之の反応を待っているようだった。


「行くの? ……僕は正直なところ、君を行かせたくない」


 貴之としては、あまり殺生鬼に関わらせたくないのが本音だった。ただ被害者を通して純粋に技を磨いて欲しかった程度だ。

 祝子の件は神無月も把握しておらず、しかも被害者は雪乃の友人という状況は想定していなかった。友人を傷つけられて、雪乃が大人しく引き下がるとは思えない。思惑が大きく外れて、貴之としてはいささか戸惑いを覚えずにはいられなかった。


「貴様は、友人を傷つけられても黙っていられるのか?」


 瞳の奥に宿る光は厳しかったが、声音は穏やかだった。唇を引き結んで貴之を見据える雪乃に対して、貴之は小さく笑んで見せる。


「覚悟の程を確認しただけだよ。でも、雪乃ちゃん、覚えておいて。常に、心は静かに。術者の心構えだよ」


 静かに微笑むと、雪乃は「うむ」と頷いた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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