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パーティー解消

 異世界2日目、僕達は予定通り、僕の能力を見極めるため、狩に行く事になった。魔物との本格的な戦闘……考えただけでガチガチに緊張してしまう。昨日は上手く乗り切れたはずのに、翌日にはリセットされている。自分の情けなさを感じてしまうエピソードとしては充分だ。


「ところでルナ、今日は何狙い?」


「オーク、オーガ辺りがいいわ」


「えーイキナリ強敵じゃない?」


「でも、ブルーオーシャンで生き残れるレベルなのよ?それぐらいでなきゃ見極められないわ」


「うーん……確かにそうか知れないけど……頑張ってねハルト!」


「……ハルト?」


 僕はガチガチに緊張していて2人の声が届いていなかった。よくよく考えたら、昨日は戦う以外に選択肢はなかった。怖いも何も考える余裕すらなかった。


 でも今日は違う、自らの意思で戦闘行為を行わなくてはならないのだ。しかも超絶美女2人の前で……


 格好悪い姿見せたらどうしよう?上手くいかなかったらどうしよう?痛いの嫌だし……そもそも死んでしまうことだって!?俗物的なことを含め色々考えてしまう。


「ハルト!」


「はっ……はい!」


「本当に大丈夫?手と足同時に出てるよ?」


「が、頑張ります!」


「ねえルナ、これ……危なくない?」


「大丈夫よ、その為の見極めなんだし」


 僕たちはマイオピアから少し北上した所に位置する、オークやオーガが出没するマズローの森を目指している。


 そして目的地手前のマズロー平原に到着すると、オークの一団が居た。


「オークよ、数は…6、7、全部で8匹、おあつらえ向きね」


 勇者基準でおあつらえ向きと言われても困る。


「ハルト、私達は少し離れて見てるから、退治してきなさい」


「え、1人であの数をですか?」


「当たり前じゃない、ブルーオーシャンはあんなもんじゃなかったでしょ?」


「……そうですけど……」


「大丈夫よハルト、怪我したら癒してあげるから!」


 怪我で済んだら良いのだが……


「なにグズグズしてんのよ、早く行ってらっしゃいよ」


 進むも引くも地獄らしい。


「ちょっ、ちょっと待って下さい……心の準備が……」


「何、情けない事言ってんのよ、オークごときに、びびってるの?」

 僕にとってはごときではない。


「そ……そうです……」


「本当にヘタレね……兎に角早く行きなさい!」


 行くしかないようだ。


 緊張で、心臓がパンクしそうだ。震えも止まらない……本当に大丈夫だろうか……


 起伏した地形を利用して身を隠しつつ、拳銃の射程まで恐る恐るオークに近付いた。


 オークは射程に入ったのだが手が震え、なかなか狙いが定まらない。このままだと、またルナからプレッシャーを与えられてしまう。


(違う違う、イメージ補正だ……)


 そう、イメージ補正を使えば手が震えていようが、関係ない。僕は8匹全てを倒すシミュレーションを行い、行動に出た。


 こんなに緊張しているのに身体か軽い。自分の身体じゃないみたいだ。僕の射撃は全て一撃でオークの急所を捉え、オークの一団を文字通り瞬殺した。


 僕は周囲を警戒しつつ、一旦2人の元へ戻った。


「ハルト凄ーい!」


「なかなかやるわね」


 緊張から放たれたせいか、僕は脱力感に襲われ膝から崩れ落ちた。汗も恐ろしくかいている。


「ハルト?」


「あっ、はい……ありがとうございます……」


「大丈夫?」


「身体的には……」


「何?本当にびびってたの?」


「はい……」


 心臓が飛び出しそうだ。


「随分結果と矛盾した精神状態ね……」


「顔色悪いよ?ん?」


「ぶはっ」


 エイルに抱きしめられた、その…顔を胸に埋める感じで……やっぱりベストサイズ……つか、更に緊張してきた。汗もびっしょりだったのに……


「大丈夫だよハルト、ちゃんと出来てたよ」


「な、な、な、な、何してんのよ!アンタ達!」


「だって……ハルト泣いてるよ……本当に怖かったんだよね?」


 自分でも気付かなかったが、僕はエイルに言われるように涙を流していた。


「ハルト……もしかして……アンタ、昨日は別として実戦経験ないの?」


「……は、はい……」


「とりあえず休憩しよっか」


「ハルト、ちゃんと話しなさい……アンタの事を」


「はい……」


 特にフレイヤ様から口止めされていたわけではないので、僕はルナとエイルにこの世界に来た経緯を詳細に話した。


 突拍子もない話しに驚きを隠せなかった2人だが、今の僕の状態を見て、妙に納得していた。


「なるほどね、だから結果と精神状態がチグハグなのね」


「ねえハルト?ハルトはどうしたい?」


「…え、どうしたいって?」


「今の話を聞く限りじゃ、私たちがあーだこうだって押し付けるのも、なんだかって思うんだよね……監督責任とかそんなのじゃなくて……」


「そうね、今の話しが本当ならアンタを監督する理由も無いわ……」


「……監督する理由がないってことはパーティー解消ですか?」


「ハルト……?」


「そうなるわね」


「ルナ!」


「……そうですか」

 妙に寂しいと言うか、悔しいと言うか、嫌な気持ち……拗ねると言った方が的確だろうか。そんな気持ちになった。


「ねえハルト、そうじゃないよ、ルナもだよ」


「「…………」」


「ハルトは本当は戦いたくないんでしょ?嫌なら戦わなくても、色んな道があるんだし……折角のご縁だし私達も協力するよ」


 やっぱり僕は足手まといで、迷惑を掛けているのだろうか。確かに戦いたくはないけれど、僕の力が皆んなに役立つのなら頑張りたいと思う、でも……


「わかりました……当座の資金もあるので、1人でじっくり考えてみます」


「ハルト……」


「ルナさん、エイルさん、本当にお世話になりました」


「ハルト……」


「じゃ私は行くわよ、さよならハルト」

 ルナは足早にこの場を立ち去った。


「ちょっとルナってば」


「大丈夫ですエイルさん、ルナさんにも助けてもらって感謝しかありません」


「ハルト……いつでも遊びにきてね!」


「はい、ありがとうございました」


 僕たちはここで解散した。


______


「ルナ待ってよルナってば」


「アイツ、本当に腹が立つわ!何なのよあの言い方!」


「まあ確かにね……あれはハルトが悪かったね」


「それに、エイルも見たでしょ?アイツの力」


「見た見た、凄かったね」


「緊張してる、怖いとか言いながら、全く無駄の無い動きだったわ。魔力もそう、レヴィにも負けて無かった。あれ程の力がありながら戦う意志が無いのよ?ただ怖いってだけの理由で」


「でも、それは……責められないよ……ルナもハルトの話し聞いたよね?」


「聞いたわよ!……」


「魔物も居ない世界で、武力は法によって禁じられていて、殴り合いのケンカもした事ないって言ってたね……いくら力を手にしたからって、直ぐには変われないと思うよ」


「そんな事分かってるわ!……だから私も……」


「そっかそっか」


「うぅぅぅムシャクシャする!今日は飲むわよ!」


「ロランとレヴィに怒られちゃうよ」


「今日はいいの!」


「そう言えば2人、今日帰って来るよね」


「そ、そうよね……」


「いまロランの顔が頭に浮かんだでしょ?」


「う……うん」


「2人にハルト紹介したかったなぁ」




 ____解散した後も、僕は、このまま街に帰る気になれなかった。


 なんとなくマズローの森に向かって歩いていると、さっきとは別のオークの一団を見つけた。僕はこのむしゃくしゃした気持ちをなんとかしたくて、オークの一団に仕掛けた。さっきまでとは違い緊張はなかった。ただ一心不乱にオークを撃ち抜いた。

 

 更に先へ進み、オークを見つけては次々と銃弾を撃ち込んだ。

 

 楽しんでいる?


 僕は激しい殺害衝動に駆られ、殺害そのものを楽しんでいた。これも新薬の影響なのだろうか。それともこれが、力を手に入れた僕の本性なのだろうか。


 どちらにせよ、この感情はダメだ……いくら相手が魔物とは言え、ただの虐殺だ。これでは僕も魔物と同じだ……


「……はぁ、はぁ……」


 なんとか踏みと止まることができた。前の世界にいた時よりも負の感情に支配されやすくなっている気がする。この世界に転生しても少なからず、新薬の影響はあるようだ。気を付けないと僕が魔物になってしまうかも知れない。


 冷静になって思う……僕は何を期待して、彼女達にあんなことを言ったんだろう。


 チート装備や能力、勇者との出会い、可愛い女の子との出会い、共同生活、そのどれもこれもが現実離れしていて、憧れていたものであり、欲しかったものだった。何でもいいから確たる繋がりが欲しかった。僕はそれを失うのが嫌だっだ。例え異世界でも、最強チートでも僕は僕でしかないと言うのに……

 

 どちらにせよ出会ってまだ間もない子に依存していた。いくら異世界で心細かったと言っても……僕はやっぱヘタレだ。


 しかし、切っ掛けとしては最低だったが、戦闘に対する恐怖心は薄れてきた。ボッチになってしまったが僕は当初の予定通り、マズローの森に向かうことにした。きっと、こういうのを未練がましい行動と言うのだろう。



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