ある男の最期を記したノート
ああ、だめだ、やっぱり、脱出なんてできっこなかったんだ
これを読んでるお前、そうお前だ
お前はもう手遅れだ
死ぬしかない
死ぬしかないんだ
逃げられない
今、俺がいる部屋の隣で、ヤツがあばれてる
俺は何度も逃げた、チャンスがあれば逃げた
何度も幸運が味方して、ここまでこれたが
それだけだった
(字が震えていて読めない)
アイツはどこまでも追いかけてくる
逃げても逃げても、やつは俺のだいたいの位置がわかるみたいなんだ
こんなことをかいて何の意味があるかはわからないが、(涙か汗でかすれて読めない)
アイツは人の好奇心を利用するんだ
おまえは他人に無関心でいられるか?
隣座ったばぁさんが、突然苦しみ出したらおまえはどうする
助けようなんて考えるな
ヤツはそういう、興味とか、使命感とか…ああ、もうなんでもいい
とにかく、そういった心理を利用するんだ
いいか、もし、ここから出られたら、もしヤツから逃げ切ったら
他人とかかわろうなんて思うな、一切の接触を断って、山奥や無人島で暮らすんだ
ああ、血が止まらない、俺はもうすぐ死ぬ
ヤツがここに入ってくる前に死にたい
(血で濡れて読めない)
デスクにいつの間にかある、だれのかわからないノートとか、それが合図なんだ
俺の時は携帯電話だった、ちょっと画面を確認しようとしたら、おそかった
なんだろうと思っても、ぜったいにさわったり、ひらいたりしちゃだめだ
知らない人から名前をよばれても、返事を、するな
俺の部屋のドアが殴られてる
死にたくない
死にたくない
死にたくない