公爵令嬢争奪真竜対決 8
遅くなりました。
「ここに居る全ての者ども! これより、シルフィテリア王家の直系たる我、セレイドと我を補佐し、この国の為に力を尽くそうとする弟、カルルドとクドエルドが、この邪悪なる真竜を屠るところをしかと見ておくがよい!」
真竜の圧倒的な力に動けないでいる参加者と、この会場に集まる群集に向けて、皇太子殿下が大見得をきる。
「相当、自信があるんだろうな。」
『どする、タクミ?』
ヴェルデがタクミに作戦をどうするか聞いてくる。
『当然、あの呪縛紋を壊したいんだが、どうしたらいいと思う?』
『あの呪縛紋は基本属性が闇で作られていると思うから、光属性の解呪術式で上書きして相殺するのが一番良いとおもいます。』
エルからの提案にタクミも納得する。
『ただ、その為にはあの呪縛紋に直接干渉しなければいけませんので、あの真竜の懐に飛び込む必要があります。』
『それが一番問題だろうな。』
簡単に懐にと云うがさっきの動きから考えてもタクミ単独ではまず無理であった。
『せめて、カーリー達が手伝ってくれたらいけるんだけどね。』
「弟達よ!真竜にシルフィテリア王家の力を見せつけるぞ! おおー!!」
タクミ達が考えている間に皇太子と二人の兄弟が、真竜に向かって突っ込んでいった。
「オ、オイ! そんないくら術が施されているといっても真っ向から突っ込んだって。」
セレイド皇太子殿下が大剣を上段いに構え、力任せに真竜に斬り掛かった。
真竜の黒い鱗に阻まれ傷一つ、
「ザッシュ! ギェアアアア!!!」
タクミ達は目を疑った。
真竜の鱗が綺麗に斬り取られ、下からピンク色の筋肉が見えていた。
そこは次第に赤みが増し、血が滲み出す。
『クロちゃん! 真竜の鱗が斬られたよ!』
『信じられん! あの武器が国宝級で、斬撃や鋭烈等の上昇系魔術を掛け合わせても、人が出来る魔力では真竜の鱗を斬るなんてありえん! あれは、神威級かそれに近しい系統の術としか思えんぞ!』
クロちゃんが興奮気味にまくし立てる。
『タクミさんや、奥さん方なら可能ですが、普通の人間には無理じゃ。ただ、もしあれに鬼族が関わっているのなら話は別じゃが。』
「グガアアアアア!!!」
また、真竜の悲鳴の様な鳴き声が響く。
今度は第二王子のカルルド王子が銀色に輝く長鎗を横一線にないで真竜の鱗を貫通し身まで届く傷を負わしていた。
「はあ!は、はあ!! ガッ!! ガキン!」
「どうだ! ザッ! シュ!」
セレイド皇子とカルルド王子が交互に真竜へと斬り続ける。
それは次第に苛烈になり、真竜の鱗を剥ぎ、身体へダメージを負わせていく。
しかし、それほどの攻撃をされながら真竜は、耐えるだけで、二人に攻撃をすることは無かった。
『あれでは、本当に真竜が死んでしまうぞ。』
タクミは、なんとか二人の攻撃から真竜を守ろうと考え、光属性の衝撃、防御の耐性術を発動させる。
その術は二人の死角になる位置で魔法陣を発動させ、真竜の表面を覆うように展開させた。
「ガキン!!」
「な?! 弾かれた?!」
「兄上!私もです!」
「こんな事は聞いておらんぞ!」
「バキン! キン!」
今まで攻撃が通っていたものが急に弾かれ一瞬戸惑う二人だったが、直ぐに撃ち込みを続けだした。
タクミの発生させた防御陣には気づいていないようだが、それでもその防御を打ち破れると思っているのか攻撃を緩める事なくむしろ何かに取り付かれた様に二人の攻撃が止まることは無かった。
『タクミ!何か、おかしいよ?』
ヴェルデが、二人の王子の異変に気づく。
『最初の頃に比べて、生気が薄れているような、顔もほら、頬がこけてきた様に見えるよ!』
ヴェルデの指摘にタクミも注意深く見る。
二人の顔は確かにこけて、生気が無くなっているように見える。
体も鎧を着ているので解りにくいが、見える首辺りも筋が浮き出て肉感が全く無くなってきていた。
『なんだ、生気が無くなってきている? いや、吸われているのか? あの武器だ!』
タクミは二人を観察し魔力の流れを確認すると、大量の魔力が二人のそれぞれの剣と鎗に流れ込んでいるのが解った。
その魔力があまりに膨大な為、人が生きる為の活力、生気も一緒に取り込まれていっているようだ。
『まずい! 今の攻撃を続けていると、本当に死んでしまうぞ!』
タクミは咄嗟に、二人の前に飛び出していた。
ちょうど、真竜と二人の王子の間に立ち、攻撃を遮るような形になっていた。
「お止め下さい!殿下! お身体に異変が見られます! このままでは、お身体に障害が発生するか最悪、命を落としかねますよ! 審判員の魔導士の方々、セレイド皇子殿下とカルルド王子殿下の体調が見るからにおかしいです! 即時、中断の判定をお願いします!」
タクミは二人の攻撃をやめさせ、審判員に忠告を促す。
会場の周辺に配置していた数人の魔導士も、その異変に気づいた様で、大会本部に問い合わせを始めたようだ。
「なんだ?おまえ! ああ、タクミとかいったクソ坊主か! そこをどけ! さもないとお前ごと切り裂く事になるぞ!」
「そうだ!お前なぞにカルディナはやらんぞ! この真竜を我等が殺し、強者であるのが誰かを知らしめ、カルディナを屈服させてやる!」
こうして相対すると二人の形相が著しく変わり、目が血走っているのが解る。
これは、異常だ。
「大会本部より通達! 両王子の体調が著しく悪いと判断し、一旦競技の中止を、」
大会本部からの中止通達が、会場中にアナウンスされたと思った瞬間、タクミに向かって眩しい光の線が駆け抜けた。
タクミは虚をつかれたが間一髪で交わすと、後方の方に着弾し大爆発が起こっていた。
「なんだ!?」
「おっとすまん。真竜を狙ったつもりだったんだが、お前が軸線上にいるとは見えなかったよ。」
そう言って、銀色に輝く長弓を構えた第三王子クドエルドがわざとらしい笑みを顔に浮かせタクミを見つめていた。
しかしどう見ても、クドエルド王子がいる位置とタクミと真竜の位置を考えれば、軸線上などではなく、明らかにタクミを狙って矢を放ったとしか思えなかった。
しかも、これも神威級威力である。
「これは、どういう事でしょうか、クドエルド王子?」
「なに、兄様達に助力しようと思って、矢を放ったんだが私が思った以上に威力が有りすぎて手元が狂ってしまったようだ。」
いや、そんな事はないはずだ。
どう見てもわざとだ。
タクミはクドエルド王子の行動に不信感を抱くと共に、ある事に気づいた。
おかしい?クドエルド王子の武器も神威級の様だが、魔力の流れがスムーズで異常な吸い取りがされていない。
むしろクドエルド王子が使いこなしている。
タクミは二人の王子とは明らかに違う雰囲気のクドエルド王子に何かは解らないが嫌なものを感じていた。
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