王都に着くまで前途多難 Ⅰ
タクミ達が王都に向けて出発しました。
魔法大学への入学を告げられてから、6ヶ月がたった。今、僕たちは王都へ向かう定期路線馬車に乗っている。トネ村はシェルデフィルリア王国の中でも大きめな村で、特に最近、農業改革によって農産物の収穫量があがり、王都からも注目されるようになっていた。その為物資の輸送も頻繁になり人口も増えたことから、王都への直通定期路線馬車が運航されるようになっていた。馬車で丸2日の行程で村から出て3時間程度たった頃だ。馬車は12人乗りでその他にも荷物を置くスペースもいるので結構座るのに余裕は無かった。前世の記憶でよく西部劇なんかで出てくる幌馬車では無く、駅馬車の様に屋根までしっかりと木材で作られて大きな荷物なんかは屋根の上に括りつけているタイプの馬車だ。
乗客は進行方向に向かって左右に向かい合うように座り、カーリーと僕は右側の一番最後尾の席に二人並んで座っている。カーリーを最後尾に僕がその隣に座っているんだが狭い上に今回は大柄な人ばかりで、結構窮屈な感じでみんなが座っていた。
「タクミ君大丈夫? 席変わろうか?」
相変わらずカーリーは優しいな。でもここは男として隣の大男からの圧迫を防がないといけない。
「いいよ別にこれぐらい大丈夫。それよりカーリーの方こそ大丈夫?」
「私は大丈夫!それよりもっとこっちに来て良いんだよ?」
と、言いながらカーリーが僕の腕を取り、自分の方へ寄せようと引っ張ってくる。このところカーリーは結構、積極的になっている気がする。気のせいかもしれないけど。
『気のせいなんかじゃ無いですよ。分かってて、分からない振りしないで下さい。』
僕の膝の上で丸まって寝ていたはずのエルが頭の中に話しかけてきた。白い狐のエルカシア、実は神様で僕の眷属だったりする。神様を支配下になんて皆には内緒です。
『そうは言っても、僕は元奥さんを探してまた一緒に暮らせたらと思っているのに、カーリーに思わせぶりな事は出来ないよ。』
『別に良いじゃないですか。この世界、一夫多妻は普通なんですし、強い男の遺伝子に群がる女はごく自然な事だと思いますよ。』
それじゃ獣と一緒じゃないかと思うんだけどこの世界、人間といえども弱肉強食なんだよね。
『でも元日本人としてはね~。』
『そうしたらですね、カーリーが他の男になびいてその男が変態だったらどうします?』
『え?うーん、あ、なんか腹が立ってきた。』
「どうしたの?タクミ君。さっきから黙り込んでしまって、調子悪い?」
カーリーが僕の顔を覗き込んで心配そうにしている。僕はとっさにカーリーの肩を両手で掴んでいた。
「カーリー、変な男には絶対着いて行ったら駄目だそ!」
「は?何それ?」
「あ、いや、何でもない。気にしないでくれ。」
僕の必死の願いもカーリーに一決されてしまった。
「それよりも今、変な男が目の前にいるのよ。そっちの方の解決が先じゃないかと思うんだけど?」
カーリーのちょっと冷たい視線に堪えながら、向かいに座る一人の男の子を、見たくない・・。
「何だ?僕が何だって?」
見たくはないが仕方がない。トネ村から一緒にこの路線馬車に乗り込んだミッシェル君だ。ミッシェル君の両側には冒険者風の防具とかを装着した大きめの男が一人とやけに軽装な出で立ちの女性冒険者の二人がミッシェル君を挟んで座っていた。村長がミッシェル君の王都まで行くまで頼んだ
「いや、本当に付いて来たんだなと思って。」
「当たり前だ! 僕の真の力を確認しなければ世の中の損失なるからな!」
いったい何処からその自信は生まれるんだろう?
『タクミ様、あまりこの男とは関わりにならない方が宜しいかと。』
それはエルに言われなくてもそうしたいんだが、勝手に付いてくるんだからしょうがないよね。カーリーも半ば呆れてるしね。
この時エルの言葉はもっと違う意味だったのだがタクミはそれに気付かなかった。
「おい、そこの坊主と嬢ちゃん、歳は幾つだ?」
突然、ミッシェル君の隣に座る厳つい大男が話しかけてきた。濃いめの茶髪に色黒の肌、筋骨隆々という言葉はこの男の為にあるような体型と脇には2m近くあるだろうか、大振りの大剣が立てかけてある。武闘系の冒険者の様だ。
「ジュード!無愛想なあんたがいきなり話しかけたって怖がるだけよ。ゴメンね、僕達。」
そうフォローを入れてきたのは、20才前後の女性で肩くらいまでのくせっ毛のある赤髪と赤い瞳が特徴的でなかなかの美人さんだ。ただ、申し訳程度の防具に短パンへそ出しでなまじスタイルが良いから、ちょっと目のやり場に困る。
「い、いえ別に構いませんよ。僕たち二人とも7才になりました。」
「それくらいの歳で王都に向かうって事はお前ら魔法大学に入学する学生か?」
この大柄のおじさん、結構リアクションが大きいから狭い馬車の中ではみんなから疎まれそうだ。
「そうですよ。僕たちは初等部に今月からお世話になるんです。」
「そうか、そうか。良い魔導士になるんだぞ。中には、自分の力に驕って人を見下すような奴もいるからな。お前達はそんなふうになるなよ。」
おじさんの言葉だと結構そういう人が多いのかもしれないな。気をつけておこう。
「はい、ありがとうございます。おじさん。」
「ぷっ!アハハ!!」
突然女性が吹き出して大笑いし始めた。
「やっぱりジュードは老けて見えるわよね? 一応これでも23才だからね。」
え?23?どう見ても30代にしか見えないぞ。僕の父さんより全然若いのか?
「ち、うるせーぞラモナ。お前もその派手な服装に坊主が困ってるじゃねえか。」
「あら!そうお?」
微笑みながら僕の方を見詰めてくるラモナさん。それに反応してかカーリーが僕の腕にしがみついて、ラモナさんを威嚇し始めていた。
「あら、ごめんなさい。お嬢さんの彼氏には手だししないから安心してね。」
そう言われてもまだ、うーとか言って威嚇しつづけるカーリーに微笑みで返すラモナさん。さすがに大人って感じだな。
「しかし坊主はやたらと丁寧な言葉を話すな。なんか俺より年上と話しているみたいだぞ。」
ハハハと笑って誤魔化す。
「僕はタクミ、彼女はカーリーと言います。そこに座っているミッシェル君とは幼なじみなんです。」
「そうか、トネ村から3人も魔法大学への入学者が出るなんてたいしたもんだな。」
「違います!そこのミッシェルは勝手に付いて来ただけよ。」
カーリーがキッ!と睨みつけると、ビクッとするミッシェル君。相当ミッシェル君がここに居ることが嫌な様だ。
「はは、まあその辺の事は聞かないようにしよう。一応このミッシェルを王都まで連れていくのが仕事だからな。」
うん、悪い人じゃなさそうだな。
次回は道中少し騒がしくなる予定です。