ラングトン大学 試験編 Ⅵ
第22部投稿いたします。
また指摘などあればお願いいたします。
「おい、ミッシェル!いい加減、正気に戻れ!!」
タクミは必死の形相で結界の壁を叩きまくるミッシェルに大声で話しかけるが、全く反応しなかった。
うーん俺が来れば何か反応するかと思ってたけど、悪魔の支配が強くなってきているのか、純粋に破壊行動を行っているだけの獣のようだ。
「タクミ君、一発殴ってみようか?」
過激な事をサラっと言うあたりカーリーらしいが、それで正気に戻るなら・・。
ん?今、ピクッてミッシェルの奴体が反応しなかったか?
「カーリーちょっと良い? ミッシェルに話しかけてみてくれないか?」
「え、どんなふうに?」
僕は、カーリーの耳元に口を近づけてミッシェルに聞こえないように伝える。
「えー!そんなのやだよ! いくらタクミ君の頼みでもそれは嫌! いくら嘘とはいえ私の気持ちと違う事は絶対に言えないよ。そういう言葉はタクミ君にしか言わないの! それなのになんで、ミッシェルなんか・に・言わな・きゃ・・・グス、」
カーリーは、俯いてしまい手で顔を隠して泣きはじめてしまった。
自分が言った提案だったけど、情けなくなった。
これだけ僕の事をちゃんと思っている子に僕は何を言わせようとしていたんだ。
「ごめん、カーリー。君の思いを僕も知っていたのに無神経な事を頼んでしまって本当にごめんね。」
そう言って優しくカーリーの肩に手を置きそっと抱きしめてあげる。
小刻みに震えるカーリーの肩を感じながら、もっといい男にならないと、奥さんにも会わす顔がないと誓う事にした。
一方ヴェルデの方では。
「あの子達あんなところで何いちゃついてるのかしら。」
冷静な口調のようだが額には青筋が出ていて怖い。
「ねえ、ヴェルデ、もしあの子が私達の匠だったらどううする?」
フラムが少し寂しそうに問いかけると、きょとんとした表情で振り返るヴェルデ。
「そんなの決まってるじゃない。私達の思いと、あのカーリーっていう女の子の思いを賭けて勝負するに決まってるじゃない。それに思いは変わらなくても、私達だって清廉潔白だったわけじゃないんだからね。」
そう言い切ってしまうヴェルデの言葉、ウンと頷きフラムも決心したように顔に笑みを湛えた。
「それにしても、いつまで抱き合ってんだ。」
「おーーーい!! 何イチャついてるんだ!!このやろー!!! 羨ましい、じゃなくて、このままじゃ何も解決しないぞ!!」
ヴェルデからの怒声に我に返るタクミ。
あ、しまったこんな事してる場合じゃなかった。
「カーリー、ごめんだけどそれでもミッシェルは助けてあげよう。」
「チッ、良い雰囲気だったのに、」
「あれ、今何か言った?」
カーリーがチッとか言ってなかったか?
「な、なんでもない! 早くミッシェルを助けよう。で、どうする?」
「ん、あ、あー。」
どうしようか?
エル達を呼んでしまおうか。
そういえば今、ミッシェルは僕たちの方を向いて動かないでいるな。どうしたんだろう?
「お、おい!タクミ!! 僕のカーリーから離れろ!!」
あ、正気に戻ってる。
「あ、ミッシェル君正気に戻ったんだね。良かったあ、このまま悪魔と一緒に封印しなきゃいけないかと思ってたよ。」
「悪魔?何だそれは?そんな事よりカーリーから離れろ! カーリーは僕の彼女になるんだから女なんだからな!」
「嫌よ!なんであんたがそんな事決めるの?!」
「は!そんな事決まってるじゃないか。僕の方が強くてカッコイイからに決まってるだろ!」
と言っていつも通りにポーズを決めてくるミッシェル君。
本人は決まっていると思っているから敢えて言わないでおこう。
「どこをどう見たらそうなるのよ! タクミ君に勝ってる要素なんか一つも無いじゃない! この女の子でも通せる可愛い顔と、みんなに優しくできる綺麗な心と、誰よりも頑張りやで頭もよくって、魔術も得意で、体術もお母さんが認めるほど強くって、どこにあんたの勝つ要素があるって言うのよ!!」
カーリー褒めてくれるのは嬉しいけど、あんまり公然と言われると恥ずかしいよ。
「それに、私とタクミ君は一晩を一緒に過ごした仲なんだから、あんたがどうこう言おうともう関係ないわ!」
「「「な!にーーーー!!!」」」
ミッシェル君は当たり前として、向こうで見ていた先生とフラムさんを含めた三人でハモっていた。
「タクミ君!不純異性交遊はまだ早いわ!」
「そうだよ!私達だってまだなのにカーリーだけずるいよ!」
フラムさんは何か的外れな指摘してるよ。
「タクミ!!なんて卑劣な奴なんだ!! カーリーを襲って、無理矢理するなんてお前はゴブリンか!! 勝負だ!! この俺が八つ裂きにしてカーリーをお前の魔の手から救ってみせる!!」
「おい!何を言ってるんだ! いつの間に、カーリーを襲った事になってるんだ!」
「当たり前だろ!そうでもないとカーリーが許すはずがないだろ!」
「カーリーからもちゃんと言ってやってくれ! そんな事は無いって!」
「え?でもタクミ君に襲われるなら、私は良いよ。」
あー!そんな赤ら顔でモジモジしながら、ボソッとそんな事言わないで。
向こうで先生達も鬼の形相で怒ってるよ。
「くそー!絶対殺してやる! 今の俺はこのクリスタルのおかげで世界最強になったんだ! お前なんか一瞬で殺してやる!」
そう言うと右手の甲に輝く鶏の卵程のありそうなどす黒いクリスタルを見せつけてくる。
「ミッシェル、それは何だ? 今まではそんなものして無かったよな?」
僕が尋ねると、フフンとか言って得意げな顔になり僕を見下ろして来た。
「これは、ある方が僕の真の才能を発現させる為に授けて下さった魔憎器だ。これがあれば僕は世界最強になれると言ってくれたのだ。実際、ここの教師でさえ僕の相手にも成らなかったからね。」
「こらー!私達の攻撃で動きが止まったクセに何言ってんのよ!!」
ヴェルデ先生が喚いてらっしゃる。
「チッ!あれは手加減してやったんだ。」
止められたんじゃないか。
「とにかく、俺を止めれる奴などこの世にいないんだ!! まあ、土下座でもして命乞いでもすれば生かしておいてやっても良いんだぜ? 当然、カーリーの前でな! ハッハッハッハ!」
ドッガ!!
ミッシェルが高笑いしていると、僕の横の方で地面が爆発した様な音と砂塵が巻き上がりその中心に拳を地面に叩き込んだ姿のカーリーが見えた。
「黙って聞いてりゃ言いたい放題言うわね! 友達だからと思っていたけどこれ以上タクミ君を侮辱するのは許さない! 生きて帰れると思わないでよ!!」
「ちょ、ちょっと!カーリー待って!!」
「召喚陣展開!!シロ!おいでー!!」
カーリーは僕の制止も聞こえなかったのかいきなり召喚陣を展開してしまう。
発動と共に一瞬でカリーの横にシロが現れた。
『主!お呼びで?!』
『シロ、目の前の馬鹿野郎を叩きのめすよ!』
『ハッ!!』
あーもう、一度火が着いたら止まらないんだよねカーリーって。
その上にシロが真面目だからな、一緒に乗ってしまうみたい。
「こうなりゃ仕方無い。力押しで行くか。召喚陣展開!エル!来い!」
カーリーと同じ様に召喚陣を展開し一瞬でエルが姿を表す。
『タクミ様、ようやく出番ですよ、凄く待ちましたからね。』
あ、出番が少なくて拗ねてるのか?
とりあえずそれは置いとくとして、カーリーと連携取ってと思っていると事態はどんどん動いていた。
『シロ!聖獣形態解除! 神位形態へ移行!!』
「あー!!それは待って!カーリー!!」
カーリーの形態解除でシロが聖獣としてのカテゴリーから外れ、神獣へ変わり、体が元の2倍近く大きくなり、額の毛が一部赤く染まり星を形作っていた。
あー先生達の前で神獣化しちゃったよ。
後で言い訳できるかな?無理だろうなあ。
「とにかく今は目の前の事を片付ける! エルは結界の維持と、多分あの黒いクリスタルが原因だからあれをひっぺ剥がし封印するんで聖封術の準備を頼む。」
「タクミ様了解しました。」
「カーリーもシロも良いね?」
「えー、そんなんで良いの?もっと痛い目に合わせた方が良いんじゃない?」
「あれでも友達なんだからね? 手加減してあげて。」
カーリー案外過激なんだな。
あんなに怒ったカーリー初めて見たよ。
ブーブー言うカーリーを宥め、ミッシェルと相対する。
「何だ!その獣は!卑怯じゃないか!!」
そんな変なアイテムに頼ってどっちが卑怯なんだか。
ミッシェルの言葉は無視しカーリーに念話を送る。
『一気にかたをつける!行くぞ!!』
僕の合図でまずシロが突進する。
結界がまだ完全に壊れていない為、まだその場から動くことが出来ないミッシェルと悪魔の形をした黒い物体。
シロはミッシェルの右手にあるクリスタル目掛けて突進する。
すると何を思ったかその右手でシロを殴りつけようと大きく振りかぶった。
ただ、行動範囲の狭い結界内ではうまく動けなかったのでシロに簡単に避けられ、その手首に噛み付くことが出来た。
そのまま力任せに噛むと、細い手首はちぎられてしまった。
痛みに堪えられないミッシェルは大声で叫び結界内でのたうち回る。
ミッシェル君の腕から引きちぎられた手を、シロが加えてカーリーの所へ戻って来た。
そのまま手首ごと漆黒のクリスタルをエルが準備していた浄化魔術と結界魔術の二重魔法陣の上に置き浄化を施して行く。
僕は、ミッシェルの取れた手首の付けねに止血と痛み止めの光属性の聖魔術を施す。
するとあれだけ痛みで地面を転がり大声を出していたのが、急に静かになり息は荒いものの落ち着きを取り戻し始めていた。
ただ、ミッシェルの背後に立つ黒い悪魔みたいな形をした物体はピクリともせず動かなくなってはいたが、消える様な感じはしなかった。
浄化が完了すれば消えるだろうと、この時は安易に考えていた。
次回も読んでいただけますよう頑張ります。