ラングトン大学 試験編 Ⅴ
ちょっと遅くなりました。
すいません。
ラングトン大学試験編Ⅴ、投稿致します。
ヴェルデは異様雰囲気を出す少年と相対し違和感を覚える。
「人のそれとは全然違う魔力の質、まさかこれって・・。」
「誰かと思ったら、最初に説明とかしてた先生じゃないですか。よく、俺の魔力放射を防ぎましたね。」
自分の力を防がれたと本人も言っているのに、それを意に介した様子もなく普通に話すミッシェル。
「さすが、ラングトンの主任教師といったところでしょうか。見た目はただの小さい子供にしか見えないのにね。」
「小さい言うな! それよりも、なんだその魔力は? 人の魔力とは随分と異なるようだが。」
「解ります? 俺は選ばれたんですよ。この強大な力の持ち主として!」
愉悦に浸る彼の言葉はヴェルデにとっては不快なものに感じ胸の鼓動を早める。
こいつは、ヤバい。
昔これとよく似た力と対した事を思い出す。
その時に比べて数分の一にしかならない力かもしれないが、今のヴェルデも当時の5分の1の力しか発揮出来ない。
それにあの時は精霊王の力の加護があったからなんとか相打ちまで持って行けたけど、このままでは私の方が消滅しかねないと、ヴェルデは確信する。
「まさか、こんな所で悪魔と会うとは思わなかったわ。」
「悪魔?なんですそれは? 僕はミッシェル・ヘイズ、悪魔なんて知りませんね。それよりも先生、俺の力を認めて入学させて下さいよ。認めてくれるなら殺さないでいてあげますから。」
そう言って口角を吊り上げ不気味な笑みでヴェルデを凝視してくる。
「私を脅して入学させろなんて初めてだわ。」
「そうでしょう。俺は他の雑魚共とは違いますからね、へ、へ」
皮肉が皮肉にならない。
今のミッシェルは自分の世界に浸りすべてが自分の都合の良いように聞こえているようだ。
「自分が何を言っているのか解っているの? 貴方の様な危険な人間を入学させるわけにはいかないの。ここで拘束し、その力をどうやって手に入れたか言ってもらうわよ。」
ヴェルデの言葉に驚いたような顔をしたかと思うと頭を垂れ下げ肩を小刻みに上下に震わせ始めた。
「どいつも、こいつも。どうして俺の事を認めてくれないんだ。くそーーー!!」
ミッシェルが雄叫びをあげると同時に、体から幾つもの黒霧が物凄い勢いで噴き出しはじめた。
その黒霧一つが渦を巻き始め、どんどんと大きくなり直径が10メートルを超える黒い球体へと形を作っていく。
その他の黒霧は凄い速さでミッシェルの周囲を駆け巡り霧の壁となってヴェルデからの攻撃等を全て弾き飛ばしていた。
一方黒い球体は、表面が波打つ様にうごめき次第に人の様な形をとりだし始めた。
体が作られ大きな腕が2本と突き出す角の様なものを付ける頭、上半身だけが宙に浮き、ミッシェルの動きに合わせて黒の物体も合わせて動き出す。
黒一色の中にあって目だけは白く光るその姿は悪魔そのものを現しているかのようだった。
「これは駄目かも・・。」
小さく呟く。
その圧倒的な力を前に諦めかけたヴェルデだったが次の瞬間、ミッシェルと黒い物体の真上からこの2人を飲み込む業火が突き落とされた。
「ごめーんねー。遅くなっちゃった。」
ヴェルデの前にスーと降り立ったのは炎を身に纏うフラムだった。
「この状況に似合わない気の抜けた登場の仕方しないでほしいわね。」
緊張感の無いフラムの表情になぜか安心感を感じるヴェルデ。
「でも、良く間に合ってくれて助かったわ。」
「ううん、まだだよ。あれは、悪魔。私の業炎烈火の火でも焼き尽くせない。」
フラムは自分が放った最大級の攻撃魔術で焼かれているミッシェルと黒い悪魔を見ながら呟く。
「まさか、まだ生き残ってたとわね。全部道連れにしてやったと思ってたのに。」
ヴェルデも炎に焼かれる二つの影を見ながら忌ま忌ましそうに呟く。
「でも、どうするこの炎で焼き尽くせないんだから、今の私たちには手の打ちようが無いよ。」
フラムの問いに考え込むヴェルデだが自分も行動を阻害する事は出来ても魔力が底を着けば終わってしまう事くらい解っていた。
「でも、どうすれば。せめて光属性の聖魔術が使える者が居たらね。そんな都合良くいかないか。」
そろそろ、炎が鎮火し始めてきていた。
それと共に顔を上げてヴェルデ達を睨みつけてくる。
「来るよ、フラム。さっき引かせた教師達が王宮魔導士部隊を呼びに言ってるはずだから、それまでは踏ん張るよ!」
「了解!!」
気合いを入れ直す二人はそれぞれ魔術を展開し、剣を構えて相手の出方を待つ。
炎が弱まりミッシェルと黒い悪魔の目がヴェルデ達を捕らえ、獲物でも見つけたかの様に薄気味悪い笑みを浮かべる。
「ふ、ふ、はははは!! なんだこれは? これが炎だと、本物の炎というやつを見せてやるよ! 魔術展開!ノアエクスプロー・」
ドッガアーーーー!!!!!
ミッシェルが魔術詠唱を唱えているさなかに、横から飛び出して来た黒い影に思いっ切り殴られ、50メートル先くらいまで、黒い悪魔と共に吹っ飛ばされていった。
あまりの突然の出来事に、口を大きく開けて何が起こったのか解らないまま見るだけになっているヴェルデとフラム。
その二人の前に立つのは赤い髪の女の子カーリーだった。
拳闘の構えをとり今までミッシェルが居た場所で身構えている。
「ヴェルデ先生大丈夫ですか?ってなんでフラムさんも居るんですか?」
事情が解らないカーリーが質問してくるが、二人は以前今起こった事に驚き言葉が出ないでいた。
「だ!誰だ!この俺を殴り飛ばした奴は!!」
頭から地面に突っ込んでいるミッシェルが体を起こしながら怒鳴り付けてきた。
「ま、まずい!そこの彼女!ここから早く逃げなさい!」
ヴェルデは悪魔の怒鳴り声で正気に戻り現状を一瞬で把握すると、カーリーに逃げるよう訴える。
「逃げても無駄だ! 今度こそ最大限で魔術でこの辺りを全て焼き尽くいてくれる! 最大魔力!!ノアエクスプロ・」
ガン!!!!
黒い悪魔が術を発動しようとした瞬間、今度は光輝く2~3メートルくらいの大きな球体が上空から悪魔の頭部目掛けて降ってきて直撃した。
あまりの衝撃だったのか悪魔の目の輝きが薄れ体もフラフラと泳ぎだしていた。
そこへ、ミッシェルと悪魔を囲む様に半透明の光の壁が現れた。
「ナイス!タクミ君。」
「カーリーも凄かったよ。」
光の壁に取り囲まれ、身動きがとれなくなる悪魔を前にするタクミ。
そこへカーリーが駆け寄る。
「ちょ、ちょっとあなた達! 今、何したの?! 悪魔が全く身動き出来ないみたいだけどどんな結界を張ったの?」
ヴェルデは、勢いにまかせて捲くし立てる。
悪魔を素手で殴り倒すのも大概だし、その悪魔を簡単に封じ込める結界をこうも簡単に実行してしまう事に驚いていたからだ。
「先生、これも試験なんですか? 結構、上位の召喚獣ですよねこれって。」
「タクミ君、やっぱりこれくらいを倒さないとこのラングトン大学には入れないんだよ。」
「そうか、そうだよね。」
「やっぱり凄いんですね、ラングトン大学って。」
タクミとカーリーは真面目に感心している様子だが、ヴェルデにしてみれば、これをその程度ですますこの二人の強さが異常としか思えなかった。
昔の私なら同じ様に出来たかもしれないけどそれにしても。
「君、そういえば最初に話したタクミ君だったわね。」
「はい。覚えていてくれてたんですね。光栄です。」
「あなた達には後で色々聞きたいことがあるので時間空けといてくださいね。それと多分あなた達は文句なしに合格ですから、先に伝えておくわ。」
「本当ですか?有難うございます! やったねカーリー!」
「えへへ、これでタクミ君との学生生活が送れるんだね!」
ヴェルデの合格の言葉に素直に喜ぶ二人。
そこへフラムが険しい顔で近づいてきた。
「3人共、まだ終わって無いわよ。見て、あの結界を壊そうと壁を殴りつけているし、ほら少しづつヒビが入ってきてるよ。」
よく見ると確かに所々に亀裂の様なものが結界の壁に入りはじめていた。
「先生あれなんです? 普通の召喚された魔獣ではないんですか?」
なんだあれ、僕の結界の中であんなに動ける魔獣なんて今まで無かったのに。
この結界はエルカシアから教えてもらった結構な上位魔獣でも消滅出来るはずなのに。
「あれは、悪魔よ。魔獣では無いわ。」
悪魔と言う聞き慣れない言葉にカーリーは困惑するが、タクミには前世の記憶があるので邪悪な者である認識はあった。
ただこの世界に来てから悪魔という単語は一度足りとも聞いた事は無かった。
「とにかくこの悪魔を消滅させれるのは光属性でも最上位にあたる聖魔術を使用出来ないと完全に消滅する事は出来ないの。そうしないと取り付かれたあの少年は助からないわ。」
ヴェルデはそう言って現状ではどうしようも無い事をタクミ達に伝える。
「あれ?タクミ君あの中で暴れているのミッシェル君じゃない?」
カーリーの言葉にタクミも結界の中で暴れている少年を凝視すると、確かに顔つきは恐くなっているがミッシェルで間違い無かった。
タクミとカーリーは顔を合わせ大きく溜息をつくと、2人揃って結界の方に近づいていった。
「ちょっ、ちょっと、何してるの!二人とも!」
フラムの注意に振り返る二人。
「あれ、僕達の幼なじみなんですよ。」
「そ、自分勝手なお坊ちゃまなんだけど友達だから助けてあげないと。」
「え?で、でもあなた達で何とか出来る訳がないじゃない!」
「先生、一応僕達合格の内諾はいただいたので、ここで使役獣とか出しても問題ないですよね?」
「え?えー問題無いけど・・」
そうか、あの聖獣の力を借りれば或いは?
「わ、解ったわ。私と、フラムも最大限フォローするから気をつけるのよ。」
ヴェルデはそう言ったものの本当は教師としてあんな子供達に任せるべき事では無いと思いながらもこの時点での最良の策が他に無いことも簡単に解る自分が嫌になる。
「やっぱり私達にとって悪魔は天敵だわ。」
ヴェルデとフラムは何時でも力を出せるよう身構え、二人の行動に注視する事に徹する事にした。
読んでいただき有り難うございます。