また会えるって本当ですか?
さっきまでは何も見えなかったはずだった。
でも今は白い壁に白い床、そして天井は真っ青の青空?
「なんだここは?」
上に見える青空のおかげで白い空間の大きさを把握できるが、上も白一色だったら何もかも判らなかったと思えるほど白しか無い床と壁だった。20帖程の広さはあるだろうか?
そして私はちょうど真ん中辺りに立って・・・・いるのか? 此処に居るのは意識出来る。でも、身体というか実体を感じられない。
「一体どうなってるんだ。」
「申し訳ない。鷲尾殿。」
不意に上の方から野太い男性の声が降って来るように聞こえてきた。物凄く響く声だ。
そしてゆっくりと男性が空から降りて来た。傍らには女性が一人一緒に降りて来る。というより、女性の方はその男性に首根っこ捕まれた状態でだ。
「鷲尾 匠殿、改めて謝罪したい。このエルカシアが度重なる粗相をいたし、匠殿と奥方に大変ご迷惑をおかけした。」
大柄の男性は白いスーツ?いや海軍とか海兵隊とかそういった類の正装に近い上下に、短めのマントを纏いシルバーの髪色に薄いグレーの瞳をもった美しいおじ様といった感じだろうか。
その大柄の上半身を大きく曲げ、匠に向かって頭を下げていた。
女性の方は、その男性の大きな手で頭を押さえ付けられる形で同じように頭を下げさせられていた。
「あのーそちらの女性がエルカシアさんという事は、あなたは?」
「はい、自己紹介が遅れ申し訳ありません。私、パデュロスと申します。」
エルカシアさんの言うところの全能神様ということになるのか。
「不躾で申し訳ありませんが物凄い神様なんですよね?」
「物凄いかどうかはわかりませんが、これら各世界の管理神を統括する仕事はしております。」
やっぱり物凄い人、じゃなくて神様だった。
「その神様自らどうしてここにおられて、私に謝られるのかが判らないのですが」
「その辺りを順を追ってお話いたします。貴方の奥様、鷲尾 紬さんの事ですが、こちらの書類ミスで1年近く早くに亡くなられております。」
ん?今聞き捨てならない言葉が出たぞ。
「1年早くですか? もしかして後1年は長く生きられて一緒に過ごす事が出来たと?」
「そうです。奥様、紬さんは、亡くなられた後、別世界への魂の転生は以前より決まっておりました。その転生先世界の管理神がエルカシアなのですが、予定死亡日と転生日の日付を書き間違え、本当は11月11日死亡のところを1月11日と書いて書類を回してしまったようで。」
決まりの悪そうに神様が話している横でエルカシアは正座させられ、シュンとなっている。
「それで、彼女はどうなったんですか?」
エルカシアの事務ミス?は置いとくとして、紬がどうなったか、の方が気になる。
「それはもう、悪魔の如く怒られましたよ。匠殿と1年近く早く別れさせられた事が本当に悔しかった様です。その後、アイダールの時間で3日3晩、エルカシアは正座させられて怒られ続けたようです。管理神とはいえ、一神をあそこまで恐怖させられる人間はそういませんよ。」
感慨深そうに語る神様の横でエルカシアも大きく相槌をうっている。
「それで私が仲裁に入り、異世界への転生を承諾してもらうために色々と譲歩させてもらいました。本来なら私が直接人間の転生や転移には関与しませんが今回は特別ということで対応いたしております。」
「つまり、彼女はアイダールという世界に転生しているということですね。」
「はい、前世の記憶を残したままの状態で、です。」
「それはつまり・・」
「はい、貴方が来られるのを待っておられます。」
その言葉を聞いて、胸が熱くなった。いつだったか、二人が生まれ変わったらと云う話をした時、紬が迷うことなく「また結婚してくださいね。」と言ってくれた事に私も迷い無く頷いた事を思い出した。今思えば結構恥ずかしいが、でも彼女はそれを守ってくれたんだ。なんて言うか、自分で言うのも恥ずかしいが、私の奥さん全世界で一番良い女なんじゃないだろか。多分?いや絶対だな。
「それで私もその世界に転生させていただけるという事ですか?」
「はい、奥様の要望の一つですのでそれは確実にです。ただ、」
「ただ?」
何か嫌な予感しかしません。
「重ねてのこちらの落ち度で、問題が発生しており、匠殿にご迷惑を掛けてしまいました。」
問題?私に対してと言うことは、奥さんに対しては問題なく転生出来たんだろう。
「それはどういった問題なんでしょうか? やはりそちらで正座して冷や汗流しているエルカシアさんがらみでしょうか?」
「御明察の通りです。」
神様と私の視線がエルカシアに重なり見る間に顔が青ざめていくのが判った。
「もうしわけございません!!!」
エルカシアさんて多分普通にしていれば絶世の美女と言っても良いだろう。シスターのような衣装で少し薄手のせいか身体に密着するようで、身体のラインもはっきりわかり見事なプロポーションなのだろう。だが、今は半ベソ泣きで額を地面?床かな?に擦り付けるように土下座している姿はただ、情けないお姉さんくらいにし見えなかった。
「エルカシアさんから説明していただけますか?」
匠の言葉に顔をあげるエルカシア。横に立つ神様にちらりと視線を送ると、神様がコクりと頷いた。
「は、はい! ご説明させていただきます。彼女、紬様は私を罵り、罵声を浴びせつづけた後、
「今、何か言いました?」
匠がエルカシアの言葉を遮り、彼女のこ、と、ば、を確認する。それに気づいたのか、真っ青だった顔が紫色になりかかり、また土下座スタイルに戻ってしまった。
「す、すみません!! その私を戒め、導いて下さいました後、異世界への転生について色々と取り決めさせていただいたのです。一つ目は、匠様が亡くなられたら、匠様の意思を確認した後出来たら同じ異世界へ転生さるという事。」
「二つ目は、匠様が異世界に来られるとしても自分達が死んでしまっていたら元も子もないので、無事に生きて行けるだけの力を授かる事。」
「これは神様とも相談いたしまして、アイダールの世界での元素魔法属性の7つの内5つを授けさせていただいています。その他、有害毒耐性とか有害細菌耐性とかいくつかの加護も付けさせていただきましたので、アイダール世界ではちょっとやそっとでは死なないはずです。」
うーん我が奥さんながら、えげつなくチート体質を手に入れてるなと感心してしまう。そういえば結構一緒にゲームとかして遊んだ事があったな。
「エルカシアさん、一つ質問していいかな?」
「は、はいなんでしょう?」
エルカシアさん何か微々ってませんか。
「いえ、アイダールというところは魔法とかのある世界なんですか?」
「はい、人の生活基盤に魔法が存在し、魔物に魔獣もおりますし、異人種族も多いですよ。」
「異人?ですか。」
「はい、エルフにドワーフ、魔人に獣人等などです。」
おー!良くある小説や漫画のパターンそのままだな。でも、そんな世界だと奥さん本当に大丈夫なんだろうか?そんな事を考えていると、エルカシアがそれえを察したのか言葉を続けてきた。
「国同士の戦争も結構ありますが、地球でいう中世から近代に入る前くらいの世界ですし、奥様の力は飛び抜けて強いですから大丈夫ですよ。」
「それで問題というのはなんですか? 今まで聞いていて特に問題無いように思いますが。」
「えーと、ですね、匠様が亡くなるのは、奥様が亡くなられてから18年後は予定表で確認されていました。ですので、本来なら奥様の転生を極限まで遅らせて匠様の転生と時間差を少なくする必要があったのです。」
確かに、別世界でも同じように時間は流れるのだろうから、紬が亡くなって直後に転生したら私が転生する頃には奥さん18才になってしまうのか。
「しかし転生を凍結するためには魂そのものを神の管理下に置き凍結するのですが余りに長期間ですと劣化が発生し、たとえ転生しても五体満足で生まれない可能性があるのです。ですので、限界ぎりぎりの最長の15年間凍結して転生させる手筈でした。」
でした?
「まさか凍結の時間を間違えて転生させてしまって、身体に異変が起こったのか!?」
「い、いえそれは大丈夫です!!転生先で無事にお生まれになっておられます!!」
エルカシアさん、だんだんと喋り方が敬語化されて来てないか?一応神様なんだろうに。
「では何があったのです!」
「そのですね、凍結されている魂は色々な理由で結構保存されていまして・・つい他の凍結中の魂と間違えてかなり早く凍結解除してしまいまして・・」
「どれくらいなんですか?」
「えっと、凍結開始してから・・1」
「1年?」
「いえ、1ヶ月・・です。す、すみません!!」
う~ん、このエルカシアさん、管理神とか言ってたけど、この人に管理されているこのアイダールっていう世界大丈夫なのか? それよりも紬の現況の確認が先か。
「それで彼女は現在どうなっているんですか?」
「は!はい!転生されたのが18年前となりますので、」
「現在18才ということですか?」
「いえ、27才になります。」
「へ?27?」
「はい!地球の時間軸とアイダールの時間軸では1.5倍ほど差がありますので、27才となります・・」
はあ~ため息しか出ないな。エルカシアさんにドジっぷりもここまで来ると才能なのかな?
それにしても現在27才、つまり27才差か。
私がこれから転生して成人している頃には40才は超えているということだよね。
「なってしまった事を修正する事は神様なら出来るんですか?」
「いえ、さすがに現世に生まれてからは個人に干渉することは出来ませんので申し訳ありません。」
全能神のパデュロスさんが本当に申し訳なさそうに謝ってくる。こんな不出来な部下を持つ上司も大変何だろうと返って同情してしまう。
「それじゃ仕方ありませんね。」
「え?!宜しいのですか?」
あまりに私が簡単に許した事が以外だったのか聞き返されてしまった。聞き返されてもこまるんだが・・
「宜しいも何も、今の最善は一刻でも早く私が転生する事しか無いじゃないですか。彼女が30才だろうと40才だろうと彼女が私を待ってくれているのなら関係ないですよ。」
「そうですか。そう言っていただけると、こちらとしても助かります。早速、紬様の言い残された通り、匠様に元素魔法属性の2つとその他の加護を授けて転生の準備に入らせていただきます。」
「お願いします。それでその元素魔法とか、加護とかは説明していただけますか? 何も知らないというのは、さすがに心配なので。」
「あ、それなら大丈夫ですよ。このエルカシアを匠様の眷属として使わしますから、転生先で説明を受けてください。」
神様がごく普通に言われるので、あ、そうですか、と簡単に答そうになって思い止まる。あ、エルカシアさん、驚きすぎて神様の方を向いて固まってしまってますね。
「あの、神様? 神というのは現世では個人に直接関与出来なかったのでは?」
「それも大丈夫です。さすがにここまで失敗しますと、それなりに罰を与えないと他の神に対しても体裁がつきませんので、土地神まで降格させます。土地神は自分の縄張りの土地を直接管理する地域神ですので人との関わりも問題ないです。」
「そうですか。」
でもこの子が付いて来るのは考えものだぞ。
「そんなあああ~~! パデュロス様!!お考え直しいただけませんか?」
あー泣きながら神様にしがみついてるよ。
よっぽど嫌なんだろうな。
「大丈夫ですよ、エルカシア。一度再研修もしたかったですし、もう一度世界を自分の目で見て勉強してきなさい。なあに500年もすれば神域界に戻って来れますよ。」
優しく促すようにエルカシアを説得する神様の目は笑っていない。その目の力に負けたのか黙ってしまうエルカシアさん。う~んこれは決まりのようですね。私としては嫌なのですが、断るとエルカシアさんの処遇も変わって心配ですし、仕方ありませんか。
「それでは、このまま転生いたします。どうか奥様にも申し訳なかったとお伝え下さい。」
全能神パデュロスは、姿勢を正し匠に向けて深くお辞儀をする。
すると私の身体はすーと光の粉に変わり青空の先に飛んでいく感覚を最後に意識が途切れた。
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「行かれましたか。」
「はい、たった今。」
匠が去った後、聞こえてきた声はエルカシアと同じ様な綺麗な女性の声だが、その妖艶さと迫力は桁違いだった。
「エルカシア程度の力で大丈夫ですか?」
その女性がパデュロスに問う。
「判りませんが、これ以上は不自然ですので、仕方無しです。」
パデュロスの言葉を聞いた女性は少しの間を置いてつぶやき出す。
「後はあの子達にこの世界の行く末を託しましょう。」
そして二つの意識はその場から少しづつ消えて行った。
引き続きがんばります。