ラングトン大学 試験編 Ⅰ
大学編に入ります。
ようやく辿り着きましたラングトン大学。ここに来るまで長い道のりだった気がするのは気のせいかな? とにかく今日は入学の為の確認試験と説明会がある日だ。頑張るぞーと気合いを入れていると、袖を引っ張られるので横を向く。
「ねぇタクミ君、本当にこれだけの人が今年度の入学生なの?」
不思議そうな顔をしているカーリーが僕に尋ねて来た。
「そうらしいね。これだと1000人位、居るんじゃないか?」
そう、今このラングトン大学の敷地内に設けられた、とてつもなく大きな運動場の一角に1000人を超える子供達が集まっていた。メインの大きな運動場は僕の記憶にあるプロ野球のホームに使われる様な球場を5個位は入りそうな広さがあり、それに隣接するように幾つかの小さな競技場の様な広場が設けられている。僕達がいるのはその1つでテニスコート6面位かな?その中に詰め込まれているので人と人との間が思ったより狭い様だ。ただし僕とカーリーの周りには誰も近付こうとしないので結構な空間が存在していた。みんな、シロの迫力に近づけないようだ。
「はい!ちゅーもーく!!」
突然、大音量の声が広場に響き渡った。あまりの大きさに多くの少年少女が耳を塞いで堪えている中、その声の主は正面に設けられた簡易の式台に乗り、大きな拡声器を手に持つ一人の少女だった。緑色の混じる銀髪に、透き通る様な白い肌とエメラルド色の瞳が印象的な美少女だ。ふんわりとしたスカートに紺のジャケットと赤のクロスタイを結んだ姿はお人形さん、という言葉が妙にしっくりくると思えた。ただ、その上から黒に金糸、銀糸で刺繍された立派なローブを羽織っていることからこのラングトン大学の関係者だと判ったが、それを除けば10才位の女の子としか見えなかった。
「私は、このラングトン大学の主任教師を勤める、ヴェルデ・カーナインだ!」
もう少し拡声器のボリュームを下げてほしいと思うのは僕だけじゃないようだが、皆堪えて聞いている。というよりこの女の子がヴェルデ・カーナインさんか。思ったイメージとちょっと違うな。もっと、凛としたいかにもキャリア的な感じかと思ってたけど、近いと言えば魔法少女かな?とにかく後で話す機会を作らないとな。
「ちょっと待って欲しいな、お嬢さん。」
僕がヴェルデ先生について考えていると、最前列の女の子の集団の中から、長い金髪の前髪を手でファサっと軽やかに、髪をかき上げる9~10才位の男の子が前へと歩き出し登場してきた。そんな少年を怪訝そうに見入るヴェルデ先生。
「あなたの様に可愛らしい女の子が嘘をついてはいけませんね。」
「は?」
いっそう険しくなる顔に、何言ってるんだこいつ、という文字が浮かび上がっている様に見える。
「大人の様に振る舞いたい年頃なのは解るが、お嬢さんみたいな幼い子が教師などと嘘はついてはいけないよ。」
僕の見間違いか、白い歯がキラーン!と光った様な気がした。ヴェルデ先生とカーリーは悪寒が走ったのか、ぶるっと振るえていたが、一部の女子からはキャーキャーと黄色い声が飛び交っていた。
「おい!そこのキラキラ坊主! 私はこれでも16才だ!」
「「「「えー~~ー!!」」」」
たぶん、1000人が一斉に驚いていたと思う。ヴェルデ先生は、仁王立ちで手や足をプルプル震わせ、涙目になりながら必死に耐えているようだ。
「もー!毎年毎年、同じリアクションしやがって! どうせ私は童顔、幼児体型ですよ! この3年全く身長も伸びないし!胸だってペタンコだし!鼻は低いし、手なんか指が短くて丸いから、まあ赤ちゃんみたいな手だね!なんて同年代の男性に言われるし!この間なんか街を歩いていると子供服のモデルにスカウトされるし!もう!なんだってのよ!!! はーはーはー!」
物凄い勢いで自分から色々暴露されているけど、よっぽど溜まってたんだろう。
別に普通に可愛くて、綺麗だと思うけどね。
「そこの君!! 君も澄ました顔してるけどそう思ってるんでしょ!」
いきなり僕を指差して怒鳴り付けてきたのでちょっとびっくりして思わず答えてしまった。
「いえ、充分先生は素敵ですよ。その可愛らしさは女性として魅力的だと僕は思いますけど?」
ボッ!と音がしたかと思う程に先生の顔が真っ赤になって、湯気が立ち上がっているようだった。
「痛っ!」
左の二の腕付近に痛みが走ったかと思ったらカーリーが僕の左腕を抓っていました。
「カーリー痛いよ、どうしたの?」
「タクミ君、もっと自分を自覚して言葉を選んで喋ってね。でないと、とんでもない事になるよ。」
「え?どうして?」
「い・い・か・ら、判った!?」
「う、うん。」
僕が一体何をしたっていうんだろう?
「こほん。えーっと、話を戻しますね。さっきの金髪の少年。」
「なんだ?」
「言葉使いに気をつけなさい。教師に対してその言葉使いは許されませんよ。」ちゃんと、何でしょうか?と言いなさい。」
ヴェルデ先生が急に先生らしい姿になった。体が小さくても、その威厳というか格の違いというか、かなりの魔力量を持っている事がこうして見ているだけでも判る。
「は、は、何をいってるのですか、たかが一教師が、この僕ブルド辺境伯の次男、キーザ・ブルドに意見すると言うのですか?」
いちいち髪をかきあげて話すキーザ君。鬱陶しそうだから切ってあげたい、というか鬱陶しい。カーリーなんか顔が青くなってる。昔からこういうナルシストっぽい人苦手だもんね。エルやシロも下を向いて目と耳を器用に塞いでいるよ。キーザ君、神獣から見放されたら、良い人生は送れないかも。ただ、一部の女性陣からは、黄色い声が向けられているので、それなりの人気はあるようだ。
「辺境だろうと、魔境だろうと関係ありません。わたくしは王妃様より生徒に関してのあらゆる処罰を執行出来る権限を頂いております。それは公爵家といえども例外無くです。なのでわたくしの言葉は王妃様より発せられる言葉と思って相対するように。」
一気に静まり返った。さっきまでフフンとか言ってそうな感じだったキーザ君も、黙り込んで冷や汗を掻いている。
公爵家でも生徒である以上、ヴェルデ先生には逆らえないと言う事であれば仕方ない。
「それと、君、ありがとう。なんか女性として自信が出てきたよ。」
そう言って僕の方を見ながら微笑んでくれるヴェルデ先生。
「痛いって、カーリー。」
何故かまた抓られてしまった。
「そういえば君の名前は何て言うのかな?」
ヴェルデ先生が、僕の名前を聞いて来た。
「はい、僕はタクミ・カーヴエルと言います。こちらが、カーリー・マリガン、それとこの子が僕の使役獣のエル、こっちがカーリーの使役獣でシロと言います。」
「「よろしくお願いします。」」
僕とカーリーが、自己紹介すると、周りがざわめき出す。あれが使役獣?私達と同い年よね?あれって聖獣なのか?うそでしょ、等など。まあ、仕方がないねこの反応にも馴れないと。あれ?ヴェルデ先生、さっきよりもっと赤い顔してるよ?
それに何故か僕を見つめてるんですけど? 何かした? えっとカーリーそんな顔で僕を見ないの。今回は何もしてないよ?本当だよ?ね、ね。ヴェルデ先生の視線が僕に突き刺さったまま、微動だにしないまま時がながれ、10分位経っただろうか。ようやく息を吐いて、視線を僕から離してくれた先生がもう一度大きく深呼吸すると、拡声器を取りだし口元にもって行く。
「色々あったが本題に戻す! これから君達には入学試験を行ってもらいます。既に入学証明を貰っている者もこの中には全員いますが、殆どは入学希望の者です。」
そういう事か。どうりで予想以上に人数がいると思った。
「入学証明書を貰っているものは基本無試験で入学可能です。でも、私はそんなの好きじゃない!」
おい、好き嫌いで試験しないでほしいんだけど。
「そこで、これよりある獣を数体、この運動場に放ち、それを君達がどう対処するかで合否を決定致します。合否の判定は私を含め、20人の教師や上位冒険者の方々に要所要所に配置していただいて常にチェックし、その集計で判定します。もし入学証明を持っている者でも、あまりにふがいない成績であれば、失格印を押すこともあるので注意するように!」
ここって魔術大学じゃないのか? 体育会系なのりなんだけど大丈夫か?
「それでは、準備はいいかー!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ノリが悪いぞー! もう一回!! 準備はいいかー!!」
「おー。」
「声が小さい!! ラングトンに行きたいかー?!」
あ、転生者かそれを知っている人だ。変なとこで確信してしまった。
「「「「「「「おーーーーーーー!!!!!」」」」」」」
「それじゃー運動場への扉を一斉に開いたらスタートだー!!!」
読んでいただきありがとうございます。