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王都編 Ⅴ ~ラングトン大学の一室にて~

読んでいただければ幸いです。


評価していただいた方、ブックマークして頂いている方、ありがとうございます。

これからも頑張って投稿したいと思いますので読んでいただけると嬉しいです。

薄ぐらい部屋だった。四方が10メートル位は有りそうな部屋に、蝋燭だけが燈されていた。

天井は一般的な部屋としてはかなり高く、この明かるさでは、天井部分がどんな風になっているのか確認も出来なかった。

ただ、その明かりで所々に見える装飾品や家具が年代物ので価値のある物ばかりであることは判る。

その部屋の奥の壁一面に書籍が並べられた本棚を背に、一人の少女が重厚な机と椅子に座り、机の上に置かれた魔灯スタンドの明かりの下で、幾つかの書類を睨みながら、何かを書き込む姿があった。


ガチャ。


大きな黒光する扉が静かに開きこの部屋とは似つかわしくない顔がひょこっと覗いていた。


「ヴェルデ、居る!?」


この部屋には似合わない明るい声が響き渡った。


「居るに決まってるでしょ。新入生の割り振りや、新学期の教育メニューの作成で超忙しいんだから!」


少し疲れているのか、怒っている様だが言葉には力が感じられなかった。


「大変だね。ラングトンの主任教師ともなると。」


「気楽に言ってくれるわね。そんなに大変だと思ってくれるなら代わってくれる?フラム。」


「それだけは勘弁して! 私、本を読むの苦手だから。」


フラムは両手を顔の前で合わせて、ごめんポーズで必死にアピールしていた。


「冗談よ。で、どうだった? 今回の旅で何か情報掴めた?」


書類整理を休める事なく、質問する様は出来る女といった雰囲気だが、その容姿はそれとは全く似つかわしくない可愛らし姿を、していた。

銀色に所々新緑の様な鮮やかな緑色が混じるストレートの髪を後ろで2つに分けて束ね、白く透き通る様な肌とエメラルドグリーンの瞳が相まって美しさをさらに加速させていた。ただ、フラムより大きな瞳と少し丸みのある輪郭が幼く見せていた。


「全然、駄目だったよ。それらしい子を見つけては当たってみたけど光と闇の属性を持つ子は見つけられなかった。」


フラムはそう言って肩を巣簿ませて見せた。ヴェルデは、報告を聞いてフラムのおっとりとした喋り方にちょっとイラつきながらも思案する。


あの神の言っていることが正しければそろそろのはずなんだけど、まさか魔境大陸の方に転生なんて無いわよね。そうだったら今度こそあのエルカシアをぶちのめしてやる! 握り締めた拳をフルフルと震わせながら怒りを噛み締めるヴェルデ。


「とにかく、残りの私達とタクミ君を必ず探すわよ!」


決意を新たにと言った感じのヴェルデに対して、あっ?と気の抜けた声と共に手をポンと叩くフラム。


「そうそう、私ねクラスAの昇格試験受けれるようになったから、週末はちょっと留守が多くなるかもしれないから。」


「やったじゃない! これでフラムがクラスAになれたら、各国への出入りがかなり自由になるわね。」


ヴェルデはフラムのクラスAの昇格に目処がたった事を素直に喜んでいた。この世界にも例外なく幾つもの国が存在していたが、その行き来にはかなり制限が設けられていた。魔物や魔獣が整備された街や街道以外の森や土地に多く存在している事が主な理由なのだが、実は国同士の情報流出を避ける為とかスパイ活動を制限する為とか色々面倒な事が実際は影響しているためだった。友好国同士はそれ程でもないが、大抵の国同士は入出国を制限していた。

ところが冒険者ギルドは、ほぼ全ての国に存在し、ネットワークを形成していた。

その為、依頼があれば自由に行き来が出来るよう、全ての国とギルドが条件付きで約束を交わしていたのである。それがクラスAの冒険者か、パーティーの中に一人はクラスAが居る事であった。


「楽しみにしておいてね。物凄く才能ありそうな子供達を見つけたんで、簡単に昇級試験パス出来ると思うよ。」


フフン!とか言ってそうに腰に手を当て、胸を張り出し踏ん反り返るフラム。


「へー、良かったじゃない。どんな子なの?」


「えーとね、男の子と女の子でどちらも7才で、女の子は、カーリー・マリガンて言ってた。」


「え?マリガンって、もしかしてジェナ・マリガンの娘じゃない?」


「そうなの?」


驚くヴェルデに対して何も判っていないフラムはキョトンとした顔をするだけだった。


「ばか、あの深紅の鬼姫と言われている人よ。」


「あ、あの有名な人だ。へーその人の娘さんなんだ、へー。」


本当に驚いているんだろうかと疑うヴェルデだがあえて突っ込まないでいた。以前あまり突っ込みすぎて怒らせた事があり、その時の恐怖がトラウマになりそうになった事があった為だ。


「それで、男の子の方はどうなの?」


「え?あー、それがねもう!無茶苦茶可愛いんだよ。目がくりっとしててね、もう私の好みなんだ!」


へーフラムがここまで言うのも珍しいわねって容姿の事しか言ってないじゃない。


「ちょっと、可愛いのは判ったから、力量の方はどうなの?」


「えへ、それがね光属性持ちで、聖獣も従えてたんだよ。凄いよね。あ、でもそのカーリーって女の子も聖獣を使役してたけどね。」


「はあ~?」


ヴェルデは自分の耳を疑った。聖獣?何それ。

魔獣使役でも結構大変なのに聖獣って、それで7才? ちょっと素質があるなんてもんじゃないわよ。


「ちょっと、それ本当なの? 魔獣とかと間違ってない?」


「えー、それぐらい私でも判るよ。どちらも真っ白な体で魔素量が尋常じゃ無かったもの。特に、タクミ君の白狐は凄かったよ。」


「へー、そんな子供で光属性で、聖獣をし・た・・タクミ君? フラム!!」


「なあに?」


くっ、相変わらずのほほんとしやがって。


「今、タクミ君って言わなかった?」


「言ったよ。」


「あ、あんたあねぇー! タ・ク・ミ・君よ!タクミ君! 私達が待ち焦がれている、旦那様の名前を忘れた訳じゃないでしょ!」


「忘れる訳がないじゃない。私、旦那様と会えたら真っ先に濃厚なキスするんだ♪」


あんたの妄想なんかどうでもいいわ。


「それで、なんであんたは平気にしてられるの? タクミって名前と光属性を持ってたんでしょ? 怪しいとは思わないの?」


「え?なんで? だって転生しても同じ名前なんて、まずありえないでしょ? 私達だって(つむぎ)じゃなくて最初はテレジアって名前だったんだから。」


むっ!何か正論言われて腹がたつわね。確かに、名前が偶然でもまず有り得ないかも。


(実は、エルカシアが気を聞かしたつもりでちょっと介入して、名前をタクミとさせたという事実は誰も知らない事である。)


それにしても光属性は持ってる訳だし。


「フラム、闇属性は本当にないのね。」


「うん、自分でそう言ってたからね。」


「ちょっとまってよフラムさん! 自分で言ってた?! 調べたんじゃないの?」


「え?本人が言ってたんだから間違いないでしょ?」


当たり前じゃない、何言ってるの?って顔すんじゃないわよ!


「あんた、馬鹿、じゃないの?」


「えー、馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ?」


うーこれが、元私の中の1人だと思うと情けなくなるわ。泣きそうになるのを我慢するヴェルデ。


「いい!私達の旦那様、タクミ君だったら絶対こういった場合、慎重に見極める為に手駒は隠すはずなの。つまり、闇属性の事を大っぴらに公言しない可能はあるの! 解る?!」


理解力が乏しいフラムに、言い聞かせる様に話すと、少しう~んと唸りながら暫く考え込んでいたが、急に顔がパッと明るくなると、大きく頷き始めた。


「あー!そうだよ。タクミ君ならそうするかもしれないね。さすが、ヴェルデだね。」


誉められても全然嬉しくない。


「それと、一緒に居たっていうカーリーって子はタクミ君とどんな関係なの?」


「ん~彼女?」


「はあ~?!何それ! 私達というものが有りながら何浮気してるのよ!」


「まあまあ落ち着いて。まだ旦那様と決まった訳じゃないんだしね。」


興奮するヴェルデを宥めるフラム。


「それに私達だって人の事は言え無いしね。」


「う、た、確かに。」


身に覚えのあるヴェルデはその件は、棚上げすることにした。もしそうだとしても私達の愛の絆の前に何の障害もあるはずがないわ! もう殆ど少年を旦那様と決めつけているようだ。


「兎に角、私も会ってみないと話にならないけど、どうやって切り出すか?」


「え?二人ともラングトン大学の新入生だよ?」


「それを早く言いなさいよ!! 馬鹿!!」


「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ?」


言い返す気力も抜けてしまうフラムの言葉に必死に耐え、新入生名簿をチェックするヴェルデだった。


お読みいただいてありがとうございます。

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