王都編 Ⅱ
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六日亭を、後にした僕達はものの30秒で冒険者組合の扉の前に到着した。僕たちは分厚く大きめの扉を開き、冒険者組合の中へと足を踏み入れる。建物の中は結構広くて100人位が入れそうな大きなフロアーがあり、中央の奥に受け付け用と思われるカウンターが設置され、数ヶ所で受付をする窓口が等間隔に並んでいた。ただ、時間も遅めだったせいか、フロアーの中には十数人しかおらず、受付にいる人も窓口の数の半分くらいしか居なかった。その中の左端に座っている受付の女性職員さんの方に僕とカーリーは向かった。
「あのすみません。冒険者の登録を御願いしたいのですが。」
カウンターが結構高く、僕とカーリーは爪先立ちでようやく頭が出る状態で女性職員さんに話しかける。その女性職員は視線を前に向けたが、誰も居ないので小首を傾げていた。あ、見えてないなこれわ。僕も、カーリーも身長は120センチを切るくらいしかない。この世界と前世を比較すると全体的に身長や体重は今の世界の方が大きいと思う。魔獣や魔物が多く存在しているこの世界では人もそれなりに強くないと生きていけないのだろう。そう考えると僕の身長はこの歳としては低い方に分類される。まあ、そんな事はどうでもいいや。とにかく気付いてもらわないといけない訳だしね。
ちなみにジュードとラモナさんは、別件で他の受付で話をしているので、今この場には居ない。。
「あのーすみません、ここです!」
僕は限界まで背を伸ばし、片手をカウンターに掛けながらもう片方の手を大きく振ってアピールした。
「あ!!す、すみません!気付かなくて!」
受付の女性は、僕に気付くと慌てて謝ってきた。別にそんなに謝らなくてもいいのにと思いながらも、取り合えず気付いてもらえたので話を進めるとしよう。
ガン!!
物凄い音が、ギルドの建物の中に響いた。数人がその音に驚いてこちらを向く。
音の主はあまりにも謝り過ぎで激しく頭を振っていたら、勢い余ってカウンターに頭を激突したようだった。額に手を当てて、声に出さずになんとか痛みを堪えてカウンターの奥で身悶えしている。
「あのー、大丈夫ですか?」
「は?は、はい。なん、とか、無事です。」
いやいや無事じゃないでしょ、それ。目に涙を浮かべながら、愛想笑いをして誤魔化しているが、打った額からは、ほんのり血がにじんでいた。痛いの相当我慢してるなこれわ。
「お、お待たせしました。今日はどういった御用でしょうか?」
お、立ち直った様だ。
「僕は、タクミといいます。彼女は、カーリーといいます。今日は冒険者登録をお願いしたくて伺わせていただきました。」
僕が説明すると、受付嬢はキョトンとしてどこか遠くを見つめていた。おい!大丈夫かこの女性?
「え?あ!え?冒険者登録ですか? 君、何歳です?」
「え?7才ですよ。」
変な事を聞いてくる女性だな。
「7才だと冒険者登録は出来ませんよ? まず、準冒険者に登録していただいて、10才で本登録になりますが宜しいですか?」
あれ?おかしいな。ラングトン魔法大学に在籍している者は、7才でも冒険者登録出来ると聞いて来たのに、おかしいな?
「あのー僕達、今年度からラングトン魔法大学に入学するので登録お願いします。」
「あー!ラングトンの学生さんでしたか。すみませんでした! それでは入学証明書をご提示下さい。」
良かったー、登録出来ないのかと思ったよ。僕は、担いでいたリュックから、ラングトンの入学を許可する証明書を取りだし、受付のお姉さんに手渡す。同じようにカーリーも手渡すと、証明書と僕たちの顔を交互に見ながら何やら確認をしているようだ。
「はい、証明書は本物のようですね。それでは、冒険者のクラス確認をいたしますので、そちらの円盤状の器具の前にお立ち下さい。」
そう言われカウンターの左側を見ると、一段下がったカウンター上に奇妙な形をした物が置かれていた。30センチくらいの円盤状の上に一つが直径2センチくらいのビー玉の様な輝く石が7つ、半分程埋まってる状態で置かれていた。外周に赤、青、緑、金、銀の5つの玉が等間隔に置かれその真ん中の少し間を空けて、白と黒の玉が同じように置かれていた。そしてその中心にメモリが刻まれた銀色の棒が突き刺すように立っている。
「では、この円盤の横に付いている水晶玉に手を置いて下さい。」
手を置くとどうなるんだろう?
『エル、この道具ってなんなの?』
『さあ、どこかで見たことがあるような気はするんですが思い出せません。ただ、それぞれの玉に色が魔法元素を現しているようですので、その水晶に魔力を流すと何かしらの変化が生じる可能性があります。』
ふむ、さっき魔導士の人がやった観察術の機械版かな? 取り合えず、右手をその水晶玉に添えて魔力を流し込んでみた。
「!!!!! わっ!!」
それは一瞬だった。僕が水晶に手を添えた瞬間、バッ!と盤全体が光った。僕もびっくりしたが、なんとか手を離す事なく光がおさまるのを待つことが出来た。
「何です!今のは!びっくりしたじゃないですか!」
受付のお姉さんの驚き声に、ギルドのフロアーに居たすべての人が注目していた。しまった!目立ってしまったんだろうか?
『エル!今のは何?』
『判りませんが、もしかしたら神器の類いかも。』
『神器?』
『はい、かなり昔ですが全能神様が、人々の魔術向上に役立てようと作られた魔導器かも。』
『もし、そうだとしたらどうなるの?』
『・・・私の隠蔽術では、かなり効力が薄くなりますね。これは、やっちゃいましたね、あははは。』
『あはははじゃないよ!』
こうなったら仕方がない。とにかく、計測器がどうなってるか確認しなきゃ。恐る恐る、計測器の方を見ると、白と黒の玉が盤の上から無くなっており、残りの5つのうち3つが目盛り2つ分の所まで浮いていた。
「あのー受付のお姉さん、これは、どういう事でしょうか?」
盤の見方が判らないので、聞いてみようと訪ねたが、反応が無い。よく見ると、目を見開いて固まっているお姉さんの姿があった。
「あのー大丈夫ですか?」
「え?!え、え?あ、大丈夫ですよ。」
大丈夫には、見えませんよ。
「これは、あれですね。壊れてますね。そうです!壊れてるんです! はい、納得しました! ですよね?壊れてるんですよね?」
必死になって僕に肯定を求めて来るお姉さん。そう言われても困るんですが、何か可哀想な気がして来た。
「そうですね、壊れてますね。」
仕方がない適当に合わせるか。その方がこちらも都合が良いしね。
「ですよねー。そうです、私は大丈夫です!」
本当に可哀想になってきたぞ。
「ちなみに、その3つの玉が浮いてるのはどういう意味があるんですか?」
「え?あ、あーこれはですね、浮いているのは赤、銀、金色ですから、それぞれ火、土、木の属性が2目盛りの力で持っていると言う事です。2目盛りは、平均的な力ですね。」
「え?火と土と木、ですか?」
「はい、でもこの計測器が壊れてるようですから正確では無いでしょうけどね。」
どういう事だ? 転生するときも、村で見てもらった時も火も土も木も無かったはずだぞ。
「あれ、タクミ君その魔法元素って私と一緒だよ。」
カーリーが僕の横から計測器を見ながら不思議そうに言ってくる。
「僕も判らないんだけど、とにかくこの計測器は壊れてるって事にしといて。」
カーリーは小さく頷いて察してくれた。でもそうなると冒険者登録はどうすればいいんだろうか。
「受付のお姉さん、それで僕たちはどうすればいいんですか?」
僕が尋ねると少し思案顔で小首を傾げてみせると、ポンと手を叩き如何にも閃いたといった顔になるお姉さん。
「それでしたら、そちらのお二人は聖獣を使役されているようですので、そちらの使役証明があれば問題ないですよ。」
おい、なら最初っからそうしてくれと、言いたくなったがそれは堪えて、先ほど審査魔導師から貰っていた使役証明の書類を僕とカーリーは鞄から取りだしそれぞれのを受付のお姉さんに手渡した。暫くその書類を眺めていたと思ったら、受付のお姉さんの事務机の上に置かれた幾つものコードが繋がっているタイプライターの様な器具を使って物凄いスピードで打ち込み始めだした。いわゆるブラインドタッチという感じかな。人間何か、取り柄があるものだな。と変な感心をしている間に、打ち込みが終わったようだった。そして、そのコードの先にあった四角い縦20センチ、横10センチくらいのブラックボックスの蓋を開け、その中から2枚のガラスの様な透明なカードを取り出した。
「それでは、このカードをお二人にお渡ししますね。」
そう言って僕とカーリーにそれぞれ渡してくれたので手に持ってみた。透明なカードには自分の名前が印字され、その最後の方にはFと書かれていた。
「まず、お名前に間違いが無いか確認してください。もし確認せず、後で違うと言われてもこちらは一切関知致しませんので。どうしても直して欲しいという事でしたら、登録カードを一旦紛失扱いにして、銀貨2枚で再発行致しますのでご注意下さい。」
結構厳しいな。銀貨2枚だったら1週間は何もせずに暮らせてしまうくらいだな。
「それと、本当でしたら証明書発行の初期費用が発生しますが、ラングトン大学の学生であればタダとなります。」
んーどうだろう? タダより怖いものは無いと、昔前世での婆ちゃんがよく言っていた気がするからな、大丈夫なんだろうか。
「それではギルドについて少しご説明させていただきます。まずFの文字は、冒険者としてのランクになり、上はSから下はIまでの10段階表示で現しています。タクミ様達はFとなりますから、ようやく冒険者として魔獣や魔物を3人以上一緒のパーティーを組めば討伐に行くけるくらいのレベルになりますね。次にカードの紛失は先ほどお話した通りで、銀貨2枚で再発行いたします。」
銀貨2枚といったら大人が一人3週間は食って行けるくらいだから相当に高い設定だぞ。
「その他として、そのカードは今は透明ですが、数日持っているとそれぞれの属性の色に変化致します。例えば、火属性でしたら、赤い色という具合にです。」
だとすると複数持ちはどうなるんだろ? その他にも色々とギルドの規則だの、報酬についての事など説明を受けました。
「他に質問はありますでしょうか?」
取り合えず複数持ちとは公言したくないので特に無いと答えた。
「それでは以上で終了となります。これから、冒険者としてのご活躍をお祈り致しております。頑張って下さい!」
にこやかに手を振って見送ってくれる受付のお姉さん。あ、名前聞くの忘れてた。まあ色々あったが無事登録完了し一安心だよ。
「よう、タクミ登録出来たか? 何やら派手な事してたようが?」
あ、やっぱり気付いていたのか。ジュードの言葉で改めてギルド内では目立っていた事が解った。
「はは、まあ色々とですよ。」
「そうか? まあ、それより俺達、ちょっと野暮用が出来たのでこの後、王都を案内してあげれなくなったわ。」
「カーリーもごめんね。」
「別に良いよ、ラモねえ。また今度お願いします。」
「僕たちでしたらエル達もいますし、このまま学校に行ってすることと言っても手続きくらいですし、問題ありませんから、お仕事頑張って下さい。」
「そうか、悪いな。また連絡するからな、そん時に色々案内してやるよ。それじゃあ。」
二人はギルド本部の建物から出て行った。
「それじゃ僕らも行きますか。」
「ウン。」
僕とカーリーがエル、シロを連れて学校に向かうべくギルド本部を出て行く。昼近くになったせいか、朝より人通りが多くなったような気がした。
☆
「おい、あのガキ共出て行ったぞ。」
一人の男がもう一人の男に耳打ちしていた。
「良い金づるになりそうだからな、見張っておくんだぞ。」
そう言うと、もう一人の男がギルド本部の建物から出て行った。
☆
そしてもう一人。
「タクミって言ってたわね。まさかとは思うけどね。」
そう言ってその女性もギルドの建物から出ていった。
読んで頂いてありがとうございます。
また。感想等ありましたら、宜しくお願いします。