王都での初日(夜)
第10部目投稿いたしました。
『エルは、どう思う?』
僕は監査官の話を終え僕とカーリーが今晩泊まる部屋の中でエルに問い掛けていた。
『よく解りませんが、そのヴェルデという女魔導士がなんらかの事情は知っている可能性はあるでしょうね。』
監査官の話だと15才の時に現れて魔導士試験をトップで合格。16才の時には王宮魔導士の試験にもトップで合格。18才の現在では、王宮主任魔導士で研究の傍ら、ラングトン魔法大学の講師も受け持っている才女。
『テレジアが行方不明になったのが15才の頃だったよね。』
『はい。』
『そのあと16、7年してヴェルデが現れた、時間的には弟子だと言ってもおかしくないし、テレジアの事、本当に知っているかもしれないね。』
よし、取り合えずそのヴェルデ先生ってことになるのかな?会って話してみよう。そう頭の整理をして結論が出た時、部屋の入口の扉が開いた。
「あーさっぱりした! 2日ぶりのお風呂は気持ち良かった~!」
髪を少し濡れた状態のまま、満足げな顔でカーリーが入ってきた。
「タクミ君も風呂してきて良いよ!」
カーリーが僕に風呂をしてくるように言う。そう、してくるなのだ。あくまでも、入るじゃないんだよこれが! 底が浅く、口が大きい、洗濯とかを洗う木で出来たタライにお湯を張り、それに体を浸けるのだが、浅すぎるので足とお尻程度しか浸かれない。後は体をタオルで洗う程度、所謂、行水といった方が解りやすい簡易お風呂だ。まあ、それでもしないよりは全然ましなのだが。とにかく僕も身体を洗おうと着替えとタオルを準備して部屋を出た。
『エル。』
『はい、ここにいますが?』
『身体洗うから一緒に風呂行くぞ。』
そう言いながらエルの身体をガシッと掴み上げる。
『!! い、いえ!私は大丈夫ですから、お構い無く!!』
ジタバタと動いてなんとか逃れようとするが、その辺は僕も慣れたもので、上手く逃げれない様に抱き抱える。
『じっとしてな。この2,3日ちゃんと洗って無いんだから、汚いぞ。』
『いえ、私は、か、神ですし、よ、汚れませんから!』
『そんなの関係無いの! ほら、着いたぞ。』
畳3帖程の広さの洗い場に入り、エルを抱えながら、服を脱ぐ。この辺も、毎回エルが手こずらすから慣れたね。観念したのか、黙ったままのエルを抱えながら、大きめの釜戸に用意してあったお湯を手桶でタライに入れて、横に置いてある水瓶から水を足し湯加減を調整。そこにエルを浸からせて身体にもお湯をかけてやる。
『は~あ~、』
『エル、変な声がでてるよ。』
やっぱり気持ち良いんだろうな。本当ならお湯をいっぱい溜めて肩まで浸かりたいところだが。いつか、叶えてみせるぞ!
『エル、今から洗うからね。』
『!!い、いえ・!』
というエルの声を無視して、着替えと一緒に持って来た小さな木箱から、固形の石鹸を取り出し、手に着けて泡立たせ、エルの身体を隈無く洗ってやる。時々、『あ、』とか『そこは』とか変な声を出して来るけど聞かなかったことにしてミッションを完遂する。タライの縁でグテーとなったエルは置いといて、自分も一通り身体を洗いお湯で流す。
「やっぱり大量のお湯を溜めて肩まで浸かりたい!」
この世界では水といえば井戸から汲むしかない。なので日本の様に大きな風呂桶に水を溜めるのが大変なのだ。魔術で水を出す事も出来るが一般の人には風呂に水を溜める程の魔力が無い。もし、しようとしたら魔力が枯渇し一日は動けなくなってしまう。お湯を出すのはもっと大変で魔力もそうだがその術式を構築出来る技量が必要となる。その上、元素魔法は大抵の人が一つしか持っていないので水元素の人でしか、それなりの水量を出すことが出来なかった。など色々条件が必要なので個人で風呂を持っているのは王侯貴族か、それなりの商人とかの金持ちくらいだろうか。
「でも!この王都には、公共浴場があると聞いている。」
その上、学生寮にも浴場があると説明書に書いてあったのだ。これだけでも王都に来た意味があるというものだ。お風呂のこれからの展望を考えながら、着替えを終わりエルを抱えながら部屋に戻る。
「おかえりタクミ君。」
出迎えの言葉をかけてくれたカーリーはベットの上で・・・
「って!なんて格好してるんだ!」
ベットの上にシロと一緒にちょこんと座っているカーリーの服装がネグリジェというかベビードールというかそういった寝間着なのだが、その素材が薄過ぎる!しかもかなり長けが短めなので色々と見えそうで目のやり場に困ってしまうぞ。いやまてよ、よく考えたらカーリーは僕と同じ7才だぞ。まだ子供だぞ。
なんで意識してるんだ僕は!?前世も含めると70才を超えてるはずなんだが、精神が今のタクミの年齢に近くなっているのか?
「と、とにかく!カーリー何か他に着替えてくれないか?」
「えー!だってお母さんが寝るときはこの格好の方が女の子らしいって言ってたし、特にタクミ君が居るなら時は絶対に着なさいって。」
何を教えてるんですか!ジェナおばさんは!
「そんなにおかしい?」
うっ、そんなうるうるした目で見ないでくれ! 僕には奥さんが待っているんだ! いくらカーリーが可愛いからって、意識しちゃいけないんだぞ!
『そんなに真面目に考えなくても良いじゃないですか。』
エルが復活して、カーリーには聞こえない様に僕にだけ念話を掛けてきた。
『な、何言ってるんだ。奥さんがいるのに他の女の子の事なんか意識したら、どちらにも失礼だろう?』
『大丈夫ですよ。この世界、強い元素魔法持ちの人は大抵、奥さんが複数って事は結構普通ですし。その逆も有りますけどね。』
『え?そうなの? 村ではそんな一夫多妻、一婦多夫なんて見たことなかったからてっきりって、おい!! そう言う問題じゃないだろう!?』
『え?じゃあどういう問題なんですか?』
『そ、そんなの、こう、何と言うか、一人のお嫁さんしか・・』
『強くて魅力のある男性に女が寄って来るのは、どの世界でも同じですよ。』
『そんな事、言ってもだな・・』
あー、エルと話している間もその格好のまま僕を見つめてるカーリーに意識が言ってまともに考えられないじゃないか!
「とにかく、カーリー何か他に着替えてくれないかな?」
「えー、寝る服こんなのしか無いよ?」
「!! じゃあせめてベットに入って毛布を掛けてくれ! それでもう寝てしまおう。」
「うん、じゃあ一緒に寝ようか。」
「駄目! ベットは2つあるんだから別で寝るの!」
その後もカーリーを説得するのに数分費やし、ようやく納得してもらったと思う。たぶん。とにかくカーリーとシロ、僕とエルでそれぞれ別のベットで寝る事に決まった。
「タクミ君、おやすみ♪」
「ああ、おやすみ、カーリー。」
あー長い1日だった。明日は、ジュードに冒険者ギルドに案内してもらって、大学に行くとしよう。
明日の事を考えていたらいつの間にか寝てしまっていた。
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★
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「おーい、タクミ!朝だぞ! まだ、寝てんのか?!」
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「ん?もう朝か?」
扉の向こうからジュードが大きな声を出しながら近づいて来ているようだ。
「検査魔導士の人が来てるから、早く終わらせて朝飯に行くぞ!」
扉の外で、大声で叫ぶジュード。そうか、こんな朝から来てもらってるのか。もう起きなきゃ。
ムニ、ムニ。
ん?なんだこの感触? とっても柔らかいぞ? エルか? いや、毛深く無いし、何だろう? そう思いつつムニムニ触りながら身体をベットから起こす。毛布が開け、そこにいたのは夕べの寝間着のままで僕に胸を揉まれているカーリーが、んっとか言いながらスヤスヤ寝ていた。
「!!!!!!!」
「オーイ、タクミ、入るぞいいな。」
「え?えちょっちょっと待っ・」
バタン! 勢いよく扉が開かれ、ジュードが入って来る。ジュードと、僕の視線が合ってしまう。
「「・・・・・・・・・・・・」」
「やあ、お、お早うジュード。」
周りが騒がしくなって、カーリーが毛布の中でゴソゴソし始めた。
「ん?、あ、おはようタクミ君。あれ?ジュードさん、来てたんだ。おはようございます。」
寝ぼけた顔で目を擦りながら、ジュードの姿を見てあさの挨拶を普通にするカーリー。
「お、お前ら!やっぱりそんな関係にまでなってたのか!? 親御さんは承知の上なんだろうな!!」
「そんな事、あるわけないじゃないか!」
思いっきり否定すると、不思議そうにするカーリー。
「え?承知ならしてもらってますよ?」
な、何を言い出すんだこの子は!
「私のお母さんとタクミ君のお母さんなら認めてるよ? 後は、私のおとさんかな。でも、お父さんはお母さんに逆らえないから大丈夫だよ。」
いつの間にそんな言質取ったんだ?
「そ、それならしょうがないか、うん。」
納得しないで、ジュードさん。あ、ラモナさんジュードさんの影に隠れて親指立てて、good!なんて、あ、カーリーまで親指立ててるぞ。ラモナさんも噛んでたのか?
「タクミ君、姉弟子の私からもカーリーの事宜しくね♪」
もしかして、ジュードをこんな朝早くから来させたのラモナさんの仕業じゃないだろうな。それで既成事実の証人にしようと企んで。ジーとラモナさんを見てると、テヘって言ってるような気がする。
やっぱり。カーリーは、そんなにくっつかないで。
こうして既成事実を無理矢理作られて、カーリーと恋人認定されてしまった。奥さんゴメン!会ったらちゃんと説明するからね!
読んでいただきありがとうございます。