第五話「空」
黒猫をお供につけることとなった俺だが、今はそんなことで悩んでは居なかった。
悩んでいることは、三つの願い事について悩んでいた。
どんな願い事でも良いのだから、有効活用使用とは思っているものの、実際のところ何かにするとかなどの具体的な例が見当たらなかった。
(やっぱり見た目と・・・・勇者の剣と・・・回復能力だよな・・)
チートなどの能力は確かに魅惑的な能力ではあるが、初めからチート能力が備わっていれば俺のことだ、大失敗に終わってしまうだろう。
(天才と馬鹿は紙一重、どんなに優秀であろうと、性格や見た目などの欠点は誰にでもあるんだから。)天は二物を与えず。だろう。
ヒトはいきなり天才や優秀になってしまうと調子に乗りかねない。それがまさに俺だと思う。
小説の主人公などはチートで培った能力を最大限に利用しているが、それは主人公になるだけの才能がもともとあるのだろう。
俺の場合はたまたま主人公みたいな展開になっているだけなのだ。調子に乗って人生を台無しにはしたくない。
「決めました。」
「えぇ、なんでもいいでわよ?」
「まず一つ目は見た目なんですけど、良い感じの男にしてください!二つ目は聖剣と出会えるようにしてもらうので、三つ目は普通の人より体力と回復能力を少しだけ上げてください。」
これでいいだろう。
おかしな程強ければ、変な陰謀に巻き込まれるのは目に見えている。
(小説の主人公の苦労が見える・・・。お疲れ様です!主人公の皆様に敬礼!)
頭の中で、日々陰謀やら暗躍やらで苦労していらっしゃる先輩勇者たちに敬礼の形をとった。
そんな俺の言葉を聞いた神様は驚いているようだった。
「え?いいのよ、なんでも。チートでも、美麗秀才でもよ?」
外見については、ちょーイケメンの幼なじみが居る俺には分かる。
(女子は好きだが、囲まれすぎるのも、ストーカーもお断りなのだ!!純粋純白、これが正義!!)
「はい、良い感じの男で良いんで。チートはいらないです。俺、頑張るの好きなんで。」
頭で思っている言葉と言っている言葉に少々違いはあるが、これも仕方ないことだと思って許してくれ。
「わかったわ。じゃあ、大変だろうけど頑張ってね。少し乱暴な送り方になってしまうのは仕方ないので気をつけて。」
(乱暴な送り方?まぁ、いければいっか。勇者召喚に参りますかねぇ!)
待っていろ俺の勇者時代!!
しばらくして神様が壺をどこからともなく取り出したかと思うと中身から白い粉を少し握り、地面(?)床(?)に投げつけた。
するとどこからともなく白い扉が現れた。人が一人とおるくらいの大きさで、ドアノブだけが金色だった。
「この扉を通るんですよ。ここでボクはお別れですけれど、通信はボクが承りますので寂しくて泣かないでくださいねぇ♪」
「あぁ、ぜってぇ泣かないから安心しろ!」
親指を立てて返してやった、さっきの(笑)のお返しだ。これで我慢してやろう。
「見た目や能力はこの扉を通ると変化するわ、通路を越えた先にあるからね。あぁ、あとシニガミもよろしくね。鞄もどうぞ。」
「はい!ありがとうございます!よしっ、シニガミ行くぞ!!」
「名前くらいつけてくれ・・・、じゃあ行くか。」
言っておくが、猫のシニガミは神様に頂いた鞄に入っている。顔だけは出せるようにしといてやった。鞄に入っていれば後ろからの女の子との出会いの確率が上がると思ってのことだ。
居心地は悪くなさそうなので安心した。
気分は悪いというか、落胆に近いようだが。
ギィ扉が古くさい音を出してゆっくり開いた。
ゆっくりと右足から入れる。白い光っている通路がある。
天井がまあるくなっているようだ。
「いってきまーす!!!」
元気よく通路を歩く。
扉は俺が入ったと同時に消えてしまった。きっと戻れないようにしたのだろう。
まぁ、戻りはしないが。
ずんずんと歩いていた俺だが、うれしさやワクワクが胸をざわざわと騒がすものだから、途中で走り出してしまった。
「あ!!」
白い光が開けた場所が見えてきた。水色の世界が見える。きっと到着するんだろう。
(勇者召喚の儀に立ち会うはずだから、格好良く登場せねばいけんな。)
格好をつけて開けた場所の一歩手前で前転をして飛び込んだ。まさに、飛び込み前転をする18歳だ。
そのとき自分の身体は重力という名の力によって落下していったのだった。
そう、空からのこんにちわ。人生初のスカイダイビングを果たしたのだった。
一度は挑戦したいと思ったことはあるが、安全装置なしでの飛び込みは自殺行為だとおもう。
とにかく
(顔の肉が空気によってブルブル揺れている!!俺の、顔がぁぁぁ!!)
だった。
『りゅーちゃん!顔よりも、性格よ!!』
偉大なる母よ、どちらも間違っている、と今更思った。
男はハートだ!!!だが、今、偉大なる母が今現れても、落下していく俺の状況は何も変わらないのだ。
俺の身体は風を切って真下へと落下していった。