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不器用な初恋  作者: まほろば
城からマーズの領地
15/30



約1週間で、ベルを王女に仕立てるのは大変だった。

ハンナとマサラが違ってたのは、ハンナは誉めて伸ばす教え方をする事だ。

1週間の服用が効いて、短い会話なら理解できるようになったベルを、ハンナはレッスン室に誘った。

ベルの顔が緊張する。

ハンナはベルの手を優しく握って歌いながら、ゆっくりステップを踏んだ。

「真似してみましょうね」

ゆっくりゆっくりステップを踏む。

「上手よ。習ったの?」

ハンナが聞くとベルの顔が歪んだ。

「レッスン大変だったのかしら?」

ベルが泣きそうになって頷いた。

マサラの怒る声が聞こえる気がするのか、ハンナが手を握っているのにベルはしゃがみそうになった。

「ダンスは楽しいわよ」

ハンナは無理をせず、ベルをピアノの椅子に座らせ自分は軽くステップを踏んでいた。

ちょっと太目なハンナなのに、そのステップは優雅で美しかった。

ベルが目で追うようになってから、手を差し伸べて中央へと誘った。

にこにこと笑いながらハンナがステップを踏む。

自然にベルも口許が緩み笑顔が浮かぶようになった。

ハンナはぶれなく1つのステップが踊れるまで続け、上手に間に休憩を挟む。

「お茶にしましょうか。美味しいお菓子もあるのよ」

ベルの手を取って隅のソファーでお茶にした。

初めて見るお菓子にベルの目が輝いた。

「こうして食べるのよ」

ハンナが綺麗に食べて見せる。

「頬張ると噛むのが大変でしょ。だからこうしてフォークで切って」

教えながら口に運んだ。

ベルも抵抗無くフォークを使ってお菓子を食べた。

「お茶のお代わりは?」

ハンナが手を伸ばすと、迷いながらベルがカップを渡してきた。

渡し方を間違えてるけど、今日は目を瞑る。

ハンナがお茶をそそぐのを、ベルが必死に見ていた。

「ベルベットさまもそそいでみます?」

ベルは慌てて嫌々をした。

ハンナは先を急がない。

お茶の後もう一度ステップをお復習をして終わる。

今日は仲良くなるのが目的なので、ベルの部屋で2人で夕食を食べる事にした。

ベルがビクッて緊張する。

気付かない振りでテーブルに着いた。

全然マナーを知らないベルの食べ方に最初目を見張ったが、ハンナは少しずつ教えていく。

内心食堂で食べさせないはずだ、と納得していた。

「こうして切ると食べやすいでしょ」

対面で座って、ベルに見せるように食べる。

それを、ベルが真似ながら食べた。

徐々にベルの緊張も溶けていき、柔らかい表情も出るようになってきた。

「美味しかったわね」

ベルがコクンと頷いた。

「食後のお茶にしましょうか」

ハンナのそそぐ動作をベルがじっと見ていた。

「そそいでみる?」

ベルは泣きそうな顔で嫌々をした。

「はい、どうぞ」

カップをベルの前に置いた。

「この城は住みやすいかしら?」

ベルは考えるように宙を見た。

「明日はお城の中を案内しましょうね」

ベルは嫌だと首を振った。

ハンナも首を傾げてベルを見た。

「…マリア…ンヌさまに」

「ああ、お姉さまね」

ハンナの返事にベルの顔が歪んだ。

「苦手なのね?」

ベルがこくこく頷いた。

「大丈夫ですよ。マリアンヌさまの通らない場所を通って行きましょう」

ベルが不思議な顔をした。

「綺麗な絵や美しい庭を見せたいんですよ」

ハンナはにこにこと言った。



翌日からダンスやマナーのレッスンの合間で城のあちこちにベルを連れ出した。

ベルはたった3日でハンナのピアノに合わせてステップを踏めるようになった。

「上手になりましたねぇ」

ハンナは嬉しそうにベルを誉めた。

ベルも恥ずかしそうにする。

「明日からはパートナーと組んで踊りましょうか」

そう言ったらベルの顔が恐怖で歪んだ。

「それでは私が踊りますから。付き合って下さいね」

少し強引だけど、ベルにうんと言わせた。

翌日の昼から、ハンナがベルとステップを踏んでいるところへマーズが来た。

ベルが緊張する。

「後からアランとルディも来る」

ベルが泣きそうになりながらハンナの後ろに隠れた。

ベルに見えないようマーズとハンナが目配せする。

「マーズさま、お待ちしておりました。ピアノを御願いできますか?」

マーズがピアノの椅子に座る。

ハンナが曲を選びマーズが弾きハンナとベルが踊る。

2曲目を踊っているとアランが来た。

一瞬驚いた顔をしたベルだが、直ぐに立ち直る。

「こんにちは」

「お待ちしておりました」

ハンナはマーズの座ってる椅子の端にベルを座らせ、アランに片手を出した。

ベルが緊張しているのに気付かない振りをする。

アランがうやうやしくハンナの手を取り踊り出した。

「いつ踊ってもお上手ね」

「ハンナと踊るのは緊張します」

アランが本気で言った。

マーズと一緒に、ダンスもマナーも1からハンナから教えられた。

厳しいマサラより優しいハンナの方が、採点ははるかに厳しい。

お陰でどこに行っても恥はかかない。

「アラン。手のホールドの位置が高いですよ」

「はい」

顔はにこやかなのに、言う事は厳しい。

1曲終わったらマーズと交代した。

ベルがギクッと固まるが気付かない振りで弾いた。

やはりマーズも直される。

本当に頭が上がらない。

「遅くなっちゃった」

ハロルドは軽い口調で入ってきた。

「お待ちしておりました」

ハンナが目で呼んでも、ハロルドは気付かない振りでベルに手を差し伸べた。

「踊ろう」

おどおどするベルを引っ張って、強引に踊り出す。

「逃げるな」

マーズが言うとハロルドがくるりと回転した。

「逃げてないよ。踊ってるじゃん、ね」

ハロルドに「ね」と言われてベルが目を見開いた。

曲が終わると、アランが直ぐに次の曲を弾き出す。

マーズが体を入れ換えてベルの手を取り、ハロルドをハンナの前に押した。

心臓が跳ねた。

ゴツゴツしたマーズの指にベルはそっと手を重ねた。

「うわっ。マーズ酷いよ」

「ルディさま」

「はい」

観念したように、ハロルドがハンナの手を取った。

1曲終わるまでの間、ハロルドはハンナのダメ出しに半泣きな顔をした。

マーズとアランが笑う。

次はアランとマーズが交代して、マーズがハンナと、ハロルドはベルと踊った。

5曲踊ったところで休憩を挟む。

いつもはハンナが煎れるが今日はマーズが煎れた。

ベルの目がマーズの手の動きに吸い込まれる。

優雅なマーズの所作に思わずベルがため息を着いた。



舞踏会当日。

ベルのエスコートは仮面を付けたマーズだった。

ハンナがいそいで支度した薄桃色のドレスと髪飾り。

緊張してるベルの顔を見下ろしてると、初めて会ったあの宿が嘘のようだった。

怯えられて、泣かれて、なのに昨日のアランもハロルドも嫌だとすがるベルの目にはっとした。

ベルの手を取って、最後の方に入場する。

父と母の後にロナルドが皇太子妃と入ってきた。

ファーストダンスはロナルドと妻の皇太子妃。

続いて全員が踊る。

この1曲が終われば後は踊らなくても良い。

ギチギチのベルはどうにか踊り終えて、隅に寄った。

「終わったな」

「はい」

ベルは胸を押さえて深呼吸した。

「マーズ」

呼ばれて振り返れば愛妻同伴のカインがいた。

一瞬緊張したが、ベルもカインの愛妻とはドレスの時話したからか笑顔で話せていた。

4人で話していると、妹のシルビアを連れたアランとハロルドも来た。

「マーズ、アランに言ってよ。僕とシルビアを踊らせてくれないんだよ」

「合格点貰えてないんだろ」

「酷いの。良いや、ベル踊ろうよ。マーズから取っちゃうからねーだ」

マーズがぎょっとした。

そんな仲じゃない。

否定する前にハロルドはベルと踊りの輪に消えた。

「え?マーズあの子が好きとか言う気?」

カインが驚いて聞いてきた。

「好き、とは違うな。妹がいたらに近いな」

「庇護欲をそそりますからね」

マーズに被せるようにアランが付け足した。

「確かにな。3週間足らずであれほど変わるとは想像してなかったよ」

カインが踊ってるベルを見て言った。

「イファの第3王女だ。考えてみる事も」

マーズが笑ってカインを止めた。

「結婚は当分考えてない」

マーズがスパッと切った。

そこへハロルドがむくれて戻ってきた。

「戻ろうとしたら、ベルがダンス申し込まれたから置いてきたよ」

全員の目がダンスの輪の中からベルを探した。

「あれは」

アラン声が硬い。

「あれ誰?」

ハロルドが聞いた。

「グリフィアの第2王子アレスだと」

アランがマーズに報告する口調で言った。

曲が終わり、ベルとアレスは次の曲も踊り続けた。

周りの目がアレスとベルに集まる。

アランとハロルド、カインがマーズを見た。

一拍置いてハロルドが言った。

「びっくりだね。マリアより先にグリフィアの王子捕まえたよ」

誰も先が続かない。

マーズを除いた3人に幸運だったのは、マーズがベルを妹だと例えていた事だ。

1曲目は社交の挨拶。

同じ人と2曲続けて踊るのは求婚を受けた証。

グリフィアの第2王子アレスはイファの第3王女ベルベットに求婚して、ベルベットは受けた。

一瞬にして会場にいる全員がそう理解した。

マーズの目に屈辱に顔を歪めたマリアが見えた。

マリアの視線の先はベルだった。

「アラン」

マーズがマリアを顎で指した。

ハロルドもマリアを見た。

「あれ本気で怒ってるね。本命を妹に持ってかれたってね、周りも思ってるよ」

マリアとベルが姉妹とは誰も思わないだろうが、これでマリアのプライドはズタズタだろう。

「アラン。ベルの警備を強化しろ。マリアがどう動くか予測出来ない」

「分かりました」

曲が終わり、アレスがベルを伴って歩いてきた。

「素敵なお嬢さんですね。これが終わったらサロンで話す約束をしたんです」

誰も何も言わなかった。

会って直ぐ求婚して受けたのか。

呆れてマーズが太い息を吐いた。

「ベルの保護者はあなたですか?」

「俺じゃない」

「え?」

アレスがキョトンとした顔をした。

「ベルベット姫は15歳。保護者の必要な年齢ではありません」

アランが事務的に言った。

アランを連れて先に会場を後にする。

部屋で待っていたハンナに会場の一件を話した。

「本当の話ですか?」

さすがのハンナも驚いていた。

「ああ、会場にいた全員が見ていた。明日からベルの警備を厚くする。この1件でマリアがどう動くか予測が出来ないからな。ハンナも注意してくれ」




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