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不器用な初恋  作者: まほろば
城からマーズの領地
14/30



夕食でマリアは自分の美しさを十二分に見せ付けた。

この席に居るのはみな招待された王子と王女らしく、衣装も凝って美しかった。

そのままサロンに移り、取り巻きを集める。

自分の見せ方を知り尽くしてるマリアに、面白いほど男たちは騙された。

然り気無い会話から、ターゲットのグリフィアの王子は誰かを探った。

残念だけどここには居ないらしい。

取り巻きになったうちの1人が、グリフィアとは国交があり王子も顔見知りだと言った。

見たら紹介してくれるよう頼むと拗ねたので、特別に飲み物を持ってきて欲しいと可愛らしくおねだりして優越感を満足させた。

今日から舞踏会までは15日。

その間にグリフィアの王子を虜にすると決めていた。

翌日からは昼でもサロンは賑やかだった。

話で速い者は1ヶ月前から逗留していると聞いた。

もっと速くイファを発っていればと思ったけど、遅れはもう取り返せている。

翌日、モルグの王子アムロがフィアの城に到着した。

婚約者のように手を取ろうとするから断った。

「モルグとイファは1つになるべきなんだ」

「すっぱりお断りしたはずです。付きまとうなら人を呼びますよ」

ただのいとこだと取り巻きに強調した。

立ち去るアムロを横目に、取り巻きをふるいにかけ条件の良い王子だけを残した。

もし、万が一グリフィアの王子に婚約者がいた時のために、取り巻きの中に順番を付けておいた。

取り巻きから外した者たちが、あちらこちらで他の王女と会話しててそれが目障りだった。

マリアは自分が一方的に選ぶ方だと思っていたから、ここが婚活の場だとの意識が欠落していた。

日を重ねる毎に取り巻きは減っていく。

遅れてきた者の中にもそれなりの王子は居たが、取り巻きが減るのが我慢できないマリアは離れないよう思わせ振りな態度を取る。

自然そんなマリアは周りから八方美人に見られるようになっていった。

5日目に、グリフィアの王子が着いたと取り巻きの1人が教えてきた。

皇太子が来ると思い込んでいたマリアは、来たのが次男の第2王子と聞いて落胆した。

長男の皇太子は公式の場に殆んど顔を見せず、始終各国を周り情報を集めていると言う。

それなのに、戦争の時にはその皇太子の率いる軍が出てくるらしい。

グリフィアは皇太子が支えている、とグリフィアを知っている者は口を揃えて言った。

それならば、第2王子を取り巻きにして皇太子に接触すれば良い。

間に合わなければ、この舞踏会は第2王子で我慢して体面を保とうと思っていた。

残念だけど、その日はグリフィアの王子と話せないで終わった。

取り巻きが紹介を渋ったのもあるし、夕食の後部屋に引き上げサロンに来なかったからだ。

翌日も、その翌日もそうだった。

政略的に話したい者とは部屋に招いて話をしたしているらしく、取り巻きも呼ばれて話して来たと言った。

その時に話をしてくれたかマリアは聞いたが、政治の話しかしないと先に釘を刺されたと言われた。

そのグリフィアの第2王子がサロンに来たのは舞踏会まで残り5日の夜だった。

グリフィアの第2王子アレスは、見た目可愛い子供みたいで同じ歳には見えなかった。

取り巻きから彼がそうだと教えられて目が会うのを待っていたが、意図的に避けられてる気がした。

なのでこちらから挨拶に向かう。

取り巻きがアレスを紹介する。

「初めまして」

アレスは形だけの挨拶をして、それ以上は近付いて来ようとはしなかった。

「お兄さまは今回おいでにならないとか」

「兄は派手な場所を嫌いますから代わりに僕が」

アレスの真っ直ぐな黒髪は女が羨むほど綺麗だった。

「喉が渇きましたわ」

アレスは紹介した取り巻きに言うだけで動かない。

マリアを美しいと誉めるが、そこで線を引いていた。

言葉を変えてもアレスは乗って来なかった。

舞踏会まで時間が無い。

アレスを諦めて次の候補のエスコートを受けた。

グリフィアとの縁を繋ぐ者や利益のある者は取り巻きから外さなかった。

そして、舞踏会当日。



話を巻き戻して。

ベルをハンナに預け、マーズはバルスの内情を手の者に探らせていた。

伝書鳩の運んできた情報で、バルスはイファを足掛かりにモルグを落としフィアを狙っているとあった。

バルスはこの2年凶作で、今年も凶作の兆しに国が揺れているらしい。

それの打開策が戦争だ。

あるところから奪えば良いと、王と大臣の号令で国が戦争に傾いていた。

バルスの国にグリフィアの兵を多く見ると報告にもあって、フロルの話を裏付けしていた。

「やはりバルスの後ろにグリフィアですか」

「繋がりが掴めない。グリフィアが理由も無しにバルスに味方するとは思いにくい」

「グリフィアに利が有りませんからね」

バルスは国の面積だけならフィアの半分ほどあるが、岩山が多く作物を作れる土地が少ない。

「舞踏会にグリフィアもバルスも参加すると返事が着てるので探ってみます」

「そうしてくれ」

マーズは報告を読みながらルシルの事を考えていた。

5年半前、国境を越え潜入したバルスの地で、手負いの騎士に守られた深手の男とルシルに出会った。

追っ手に追い付かれ応戦するうちに騎士は倒れ、男に止めを刺す前にルシルを刺し殺そうとするのを見て、我慢出来ずにマーズが追っ手を倒した。

男は死ぬ前に畳んだ書類とルシルをマーズに託した。

ルシルの傷は浅傷で手当てをしてマントにくるんだ。

その後、追っ手を調べたが身元の分かるものは1つも無く、鎧も国を表す印は削り取られていた。

次に調べた騎士はバルスの印の鎧と、その中に王の警護の命令書を挟んでいた。

最後の男の服は血まみれで色も分からなかったが、質の良い高価な物だった。

マーズは男が手渡した書類を広げた。

それには身の危険を察し書き残すとあり、大臣の裏切りで王妃を殺され自分も殺されるだろうとあった。

皇太子のセシルを、この手紙を持たせて王妃の兄の元へ逃がすとあった。

最後に蝋印が押されているのを見て、死んだ男がバルスの国王だろうと推測できた。

見付からないよう王の遺体だけ埋め、セシルと書類を持って待っているアランと合流した。

シド老人に聞けばセシルの母の里は分かるだろうと安易に考えて、セシルを兵士を付けてシド老人の元に送らせ、マーズは前線に戻った。

その時、シド老人は妹の不幸でフィアの城を離れていて、セシルの治療は残っていた弟子が受け持った。

それが後々セシルに不幸を呼んだ。

マーズがその事実を知ったのは、シド老人が憔悴して戻った3ヶ月も後だった。

シド老人がセシルを診察して、怪我した時とその前の記憶が消えていると知らせてきて、マーズは初めてシド老人の不在を知った。

「もっと早く。速い段階でわしが診ていれば」

シド老人は記憶を取り戻す手立てもあったと手紙に書いてきていた。

全てが後手後手に回った。

マーズは前線から離れられず、シド老人に書類を見せる事も叶わず時間は過ぎた。

書類を兵士か伝書鳩に託す事も考えたが、無事に届かなければどう悪用されるか分からないし、肝心のセシルの記憶も戻らない。

もっと悪い事に、シド老人の見立てでは持って半年、もし運良く命を拾っても虚弱なセシルの体では仕事は無理だとシド老人は言った。

小さい時から多忙な両親を見て育ったマーズの目には王の激務が勤まるだけの体力がセシルに有るのか、疑問だった。

そこへ、バルスが王と皇太子も王妃と同じ病で亡くなったと発表した事も踏みとどまらせた1つだった。

どうするか決めかねていた時に、セシルの弟がバルスの王位を継いだと発表があった

懸念されていた病弱な皇太子より、健康な弟王子の即位を国民は喜んだ。

そこまで、この時代では信じられない速さで進む。

普通なら1年か1年半掛かる事を、バルスは半年で終わらせ発表した。

セシルに王となる力が有れば、フィアが力になる事も出来るだろうが、シド老人が見立てたセシルには到底王の重責は無理だろう。

全ての条件を考えて、 マーズは沈黙を選んだ。

シド老人にセシルの名前をどうするか手紙を貰い、一文字変えてルシルにして返したのだ。



ベルがシド老人の元へ通い始めて、3日目くらいから表情が変わってきた。

奥庭までの道を、手を引かれながらも自分から歩くようになった。

薄皮をはぐように、翌日には飛んでいる鳥に、次の日には木の枝に付いた花に。

意識が向くようになっていった。

マーズがシド老人からベルの容態を教えられたのは、預けてから8日後だった。

「昨日は笑ってお茶を飲んでおった」

「そうですか」

「昨日マサラが来ての。ベルを舞踏会に出せるか聞いてきたが、参加させるつもりなのか?」

マーズが驚いて否定した。

「とんでもない。申し込んでもいない」

「ならば良いが」

シド老人の顔を見てマーズが言った。

「念のため、アランに確認させます」

結果として、カインの城からマリアとベルの舞踏会申し込みはされていた。

「どうします?当日急病と届けますか?」

アランが耳打ちしてきた。

「それしか無いだろう」

「そう手配します」

それが、事情が変わった。

ハンナがマサラと廊下で会った。

「ベルベットさまのドレス楽しみにしてますよ」

「ベルベットさまが舞踏会に?」

ハンナは何も聞いてなかったからそのまま返した。

「あら、ご存知無かったんですの」

ハンナはその時マーズが申し込んだと思って、にこやかにマサラの挑発を受けた。

「いいえ、びっくりさせるつもりだったんですよ」

頭の中でドレスや小物の手配を忙しく考える。

ハンナがマーズに苦情を言いに行くのと、マーズがハンナを探すのが同じタイミングだった。

「マーズさま」

「ベルが舞踏会に申し込みされてる」

「え?」

マーズが見せてきた申し込みの書類には、マサラのサインがあった。

「まぁ…」

「カインの所から申し込んでる。カインたちの出席の書類と一緒に届いたそうだ」

ハンナは静かに怒っていた。

同じ乳母の立場なのに昔から色々あった。

それなりに悪意は交わしてきたし、状況では勝ちを譲ってきたりもした。

それなのに、またこれだ。

カインからやり込められ、マーズからも叱られ、だからと言って八つ当たりされては叶わない。

「当日、体調不良でベルは欠席させる」

「いえ。ベルさまのご様子次第ですが、このお話受けさせていただきたく思います」

「もうマサラとやりあったか」

マーズが苦笑した。

「ええ、先ほど」

ハンナの笑いが怖かった。




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