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不器用な初恋  作者: まほろば
出逢い~イファ
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街を見下ろせる小高い丘に、馬に跨がる黒いマントの4人の姿があった。

マントの中は目立たない黒の鎧。

4人はここまで走ってきた痩せた土地と、丘の下の街を重い気分で見ていた。

「あれがイファの王都か。病人で溢れていそうだな」

茶髪で医師のラルフがため息混じりに言った。

「情報で貧しいとは聞いてたけど、ここまでとか思ってなかったな」

金髪で4人の中では最年少になるハロルドも、嫌そうに言った。

「再生は難しいでしょうね」

金髪の軍師アランも頷いていた。

3人の前にいる黒髪の青年だけは表情を変えない。

「マーズ。取り敢えず行ってみよう」

ラルフが促した。

マーズと呼ばれた黒髪の青年を先頭に、丘の下の街へと走り出した。



街に入るとまず4人は宿の看板を探した。

先に面倒な仕事を1つ片付けて来てからの更なる遠出だから、全身が埃まみれだ。

風呂の贅沢は言わないが、体を拭く湯は欲しかった。

大通りの宿は満室だった。

他の宿を探そうと路地を見るが、浮浪者で溢れていて通れるかも怪しい。

馬を進めながら、マーズは行き交う人の服装や並ぶ店や扱う品を注意深く確かめていた。

街に騎士や兵士の姿が目立つ。

そのお陰で4人も怪しまれず街の中を歩けた。

後にいた内の1人がマーズの横に並び話し掛ける。

「モルグの兵士には見えないね」

「国を知られないよう装備も印の無い物だ」

「調べれば直ぐ分かるよ」

マーズは後ろのハロルドを目で指して、横に並ぶアランに指示を出した。

「ルディに街を観察するやり方を教えてくれ。見て回るだけでは意味がない」

「分かったよ」

アランは馬を止め、後ろの2人が追い付いて来たら一緒に並んだ。

アランが歳の若いハロルドと話してるのを横目に確かめてから、街の中心へ向かった。

砦に近い城が街の中心にあり四方に道が別れる。

後ろからラルフがマーズに並んで話し掛けた。

「あの前の広場にいてくれ。宿を見付けて来る」

ラルフは馬から降りて、手綱をマーズに渡した。

「頼む」

後ろの2人にもラルフが何をしに行くのか分かり、離れていたマーズとの距離を詰めて後に従った。

中央横にある水飲み場で各々馬に水を飲ませ、1欠片の岩塩を舐めさせた。

この10日馬を酷使しているから、今日はゆっくり休ませてやりたいと馬の腹を撫でながら思っていた。

「宿が見付かると良いなぁ。もう夜営と干し肉にはうんざりだよ」

ハロルドが口を尖らせて言った。

「仕方無いでしょ。途中で合流したルディより私たちの方が疲れてるんだよ。それを分かって我儘言うの」

アランの冷たい視線と反撃に、ハロルドがしまったと言う顔でマーズを見た。

「そもそも伝令に預ければ済む書類をわざわざ持って来て一緒に行くと言ったのもルディだよ」

アランに叱られて、ハロルドが小さくなった。


ハロルドを外した3人は、マーズの指揮で国内の暴動になり掛けた芽を2ヶ所潰してきた後だ。

連れていた兵を戻し。

指揮のマーズと軍師のアラン、治療の知識のある医師のラルフにハロルドが混ざって、このイファまで書類にあった追加の仕事を片付けに来たところだ。

「わざわざ護衛をマーズに頼むのってさ、父上が綺麗だって噂されてるアリアンヌ第1王女とマーズをくっつけさせたいからだよね」

無邪気を装ったハロルドがズバッと聞いた。

「国王は領地を増やしたいんでしょうが、この国はお荷物にしかなりませんね」

アランが冷静に返した。

「ねぇマーズ。マーズは1度父上とこの国に来た事あったよね?」

「3年前にな」

「その時もこうだったの?」

「少なかったが、まだ畑には作物があった」

淡々としたマーズの返事に、アランが聞いてきた。

「たった3年ですか。いくら雨が降らなかったとしても水を引く術は知ってるだろうに」

「あってもしなかった、って事?」

ハロルドが驚いた顔でマーズを見た。

「見てきた畑に水を引く工夫は無かった。知らないか知っていてやらないか、結論は確かめてからだな」

マーズの視線は通ってきた道の方向を見ていた。

「兎に角話は宿を取ってこの汚れを何とかしてからにしましょう。この格好ではフィアの騎士だと名乗っても信用されませんから」

アランが人並みにラルフを見付けて言った。



ラルフが見付けてきた宿は街の外れにあった。

この1ヶ月ほど、街に留まる騎士や兵士の数が急に増えて宿に収用出来ないほどになってるらしい。

町外れの宿なのに、料金はフィアの3倍もした。

「暴利だね。部屋も汚いし」

ハロルドが怒って不平を吐く。

4人は並びで2人部屋を2つ借りた。

自然にハロルドとラルフ、マーズとアランに別れる。

4人ともフィアの国の聖騎士だが、マーズは第2王子でハロルドは第4王子だ。

アランとラルフはマーズに付く聖騎士で、普通ならハロルドの警護はしない。

今回ハロルドが自分の聖騎士を連れてないから、自然アランとラルフが各々の警備に付く形になった。

「湯があるだけ有り難いと思え」

マーズに言われてなおハロルドがむくれた。

冷静過ぎるマーズと末っ子我儘のハロルドは、一見兄弟には見えない。

言わなければ誰も思わないだろう。

湯を何杯も貰い体を拭いていく。

溜まった汚れは簡単には落ちなかった。

「装備の汚れは夜にでも落とそう」

拭いただけだからさっぱりとはいかないが、湯があるだけ由とした。

「夕飯を食べに行こうよ」

空腹のハロルドが先頭で食堂へ行った。

食堂は4人掛けが5つ。

隅の1つに5、6歳の男の子が大人しく座っていた。

おそらくこの宿の子供だろう。

食堂には他に客は居なかった。

出されたスープは味がなくて、パンもかたい。

ハロルドは眉をしかめて席を立った。

不味くても食べたそうなラルフの代わりに、アランがハロルドの後を追った。

「すみません。今日は女房も具合悪くて寝てるし、市場に何も無くて」

料理場から出てきた店主が頭を下げてきた。

店主の「も」が気になったが、マーズは耳を閉ざす。

「良ければスープをあの子供に食べさせたいが」

マーズが端に座る子供を指差した。

「勿体無い事で」

軽く遠慮が返ってきたが、嬉しそうに子供を見てる。

持っていってやろうとして、テーブルの高さが子供の目なのに気付き身軽に立って子供を抱き席に戻った。

子供を膝に乗せてスプーンを持たせ、ハロルドの残したスープを子供の前に移動させた。

「食べろ」

子供はスプーンとスープの皿とマーズを何度も見て、恐る恐る食べ始めた。

「ありがと」

ラルフが子供がパンを取りやすい位置にずらす。

1つ手に持たせるとむしゃむしゃ食べた。

ラルフは食べ終わっていたが、マーズが立たないのでそのまま座っていた。

その子供の手が半分ほどで止まる。

まだ欲しそうな様子でスプーンを置くと怯えながらマーズを振り返った。

「あ、あの…残したスープを母さんに食べさせたいんですが良いですか?」

「母親に?さっき店主が具合が悪いと言っていたが、病気なのか?」

子供が違うと首を振った。

「赤ちゃん産んだばっかりで…」

おずおず話す子供に頷いていた店主を呼んだ。

「あの皿をこの子の母親に食わせてやってくれ」

アランの皿を指して言った。

店主は何度も頭を下げて急いで奥へ運んでいった。

「これで心配ない。全部食べていいぞ」

「ありがと、ます」

動いてずり下がりそうな子供の膝を押さえたら、ギクッて反応が返ってきた。

そっと子供の膝を触る。

腫れてかなり熱を持っていた。

「ラルフ」

マーズが目で子供の膝を指す。

ラルフが席を移って子供の膝を触って、難しい顔をマーズに向けた。

そこへ店主が戻ってきた。



「子供も足を痛めてるようだが」

「へぇ、買い物に行かせたら馬車にぶつかって…」

店主は目を揺らしこの場をゴマかそうとしていた。

「隣の者は医師だ、治療できるならしてやりたい」

「家にはお金が…」

中世の初めに似たこの世界には、医師は少なく治療の知識も少ない。

それなのに、取られる硬貨は高額だった。

「心配するな、金は取らない」

食べ終わった子供を抱えてマーズたちの部屋に運ぶ、ラルフがアランに簡単に事情を話し医療鞄を持って部屋を代わった。

ラルフが子供の膝を診察してる所にハロルドが来た。

急いで来たらしく、行儀悪く手にはチーズと干し肉を持っていた。

「馬車に跳ねられたらしい」

ラルフが手を動かしながらハロルドに答えた。

その間子供の目はハロルドの手元に釘付けだった。

「アラン、干し肉とチーズを持って来てやれ」

アランは素早く干し肉とチーズを持って戻ってきた。

マーズは1切れづつ子供に持たせた。

口に運ぼうとする子供の手を捕まえてゆっくり言う。

「ゆっくり噛むんだ、柔らかくなったら飲み込め。まだたくさんある。好きなだけ食わせるから急ぐな」

「…はい」

子供はマーズの言う事を聞いて必死にしゃぶった。

「アラン、少し任せていいか」

ラルフはマーズとハロルドに目配せして部屋を出た。

廊下で声を落としてラルフが言った。

「馬車じゃないな。あれは折檻された傷の付き方だ」

打撲は全身にあるとラルフが説明した。

「親がやったの?」

ハロルドが怒った顔で聞いた。

「違うな、あのひ弱な店主じゃあの傷は無理だ。大男か騎士か兵士って所だろう」

「僕が話を聞いてくるよ」

「アランに行かせろ」

マーズに止められて、ハロルドがぷくーっと膨れた。

「ルディ。お前は子供の話し相手でもしていろ」

「分かったよー、だ」

ハロルドと交代してアランが来る。

ラルフから話を聞いて、食堂へ戻って行った。

「膝が砕けてる。熱がかなり高いから、体力が持てばいいが。明日明後日が山だろう」

ラルフが「シド老人」が居ればと悔しがった。

「ラルフの見立ては」

「生還1割」

残りの9割は死に振れてるとラルフもきつそうだ。

「兎に角、熱を下げるのが先決だ。あと食い物だな」

栄養の足りてない体じゃ熱に勝てない。

「アランが戻ったら市場でも覗きに行っていいか?」

ラルフがマーズに聞いた。

「出来る事をしてやってくれ」

母親の食事の心配をする子を助けてやりたかった。




ファンタジー

ではなく

恋愛小説です


多分…


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