驚き そして思案
さて、今は冒険者ギルドの応接室で、アルカレ(副ギルド長)から話を聞いている。悪いことが起きなければいいのだが。
アルカレが光で髪を反射させながら俺に聞く。
「……というわけなんだ。わかったかい?」
「は、はい。なんとなくですけど」
彼は満足気に頷き、呟いた。
「うんうん。なかなか良いね」
当然その言葉は三人の耳には入らない。
ビルダーさんがまた新たな質問を投げつけた。
「騎士団が腐敗していることは分かったし、アルカレや町長が手を焼いていることも承知した。ならば後は俺たちをここまで連れてきた理由だな」
他に聞きたいことは有るが、俺もこの質問の答えがの方が重要だと思う。
俺は椅子から身を乗り出して耳を傾けた。途端その場を静寂が支配した。
アルカレは何度も考え込むような表情をしたり、俯いていたがやがて、重い口を開いた。俺たちはその間全く動かなかった。
「ふぅ、分かった。君たちに全部話すとしようか。しかし、それより先に他の疑問を解消させてあげるよ。話はそれからにしよう」
ようやく一番の謎が明かされると思ったのに……
彼の表情は固く、何を言っても前言は翻さない、と言っているかのようだった。
仕方ない。向こうにもそれなりの事情がありそうだし。
「多分、君たちも疑問に思っているだろう魔物の大群を瞬く間に殲滅したであろう人物。その正体は〈異世界の殲滅者〉とギルドの上層では言われている」
〈異世界の殲滅者〉⁉︎僕以外にもこの世界に来た人がいるのか?
ビルダーさんも顔をひそませ、怪訝な表情だ。
「市民階級の間では、身にまとう艶々しい銀白の鎧と盛り上がった胸部から女騎士とも呼ばれているそうだが」
俺はまだ先程の驚愕から離れられずにいた。
その時何処からか透き通った声が聞こえた。発音ははっきりせずなんと言っているかわからないが確かに女性の声だ。二十代ぐらいだろうか。
しかし、その声に意識を傾けすぎていたようか、ビルダーさんに声をかけ掛けられているのにも気付かなかった。
気付いたのは頭を軽くはたかれたためだ。突然の衝撃にはっと顔を上げると、ビルダーさんが呆れた様子で俺を見つめていた。首を振るとアルカレも苦笑して見つめていた。
俺は反射的にそれらを見て謝った。
「あ、すみません、話をしている最中に」
まず最初にビルダーさんが叱責した。
「今日はいろいろあって精神的にも疲れているのは分かるが、少し我慢しろ」
続いてアルカレが口を大きく開け笑った。
「あははは!ビルダーくん、そこまでにしておいてあげてよ。クゼルくんも奥に仮眠室が有るからそこで休息するかい?」
アルカレはそう言って、なにか思いついたように提案した。
「そうだよ、今日の話はここまでにしようか。明日もあるし丁度いい。宿屋は僕が用意するから寝食は安心していいよ。直ぐに手配してくるからここで休んでて」
口早にそう言い立てると早足で扉まで向かった。そして、そのまま扉を閉めるのも忘れて外へ出て行った。
ビルダーさんが怪訝そうな顔をして呟きながら、扉を閉める。
「なんだあいつは? そんなに気まずい話だったのか?」
俺も同感だ。扉も閉め忘れるし何か言いづらいことでもあるのだろうか?
その後三人(アレンが全く喋っていないので実質二人)で先程聞いた話をビルダーさんが簡単にまとめて、それについて思ったことを言い合っていた。
「……ってことだがクゼル?か、どう思う?」
ビルダーさんがまだ不慣れな様子で俺の名前を使う。
さっきからこの調子だ。『慣れないなら前までと同じように坊主でいいですよ』と言っているのに『いや、折角名前を教えてもらったんだからその名前で呼ばないのは失礼だ!』とかなんとか。顔を赤くして真顔で言うのでこちらも恥ずかしくなってくる。しかしそのままじゃ話が進まないのでそこはスルーして答える。
「そうですね。やはり、アルカレさんが俺たちに言い出せない事情もそうですが、異世界の殲滅者の存在も気に掛かります」
ビルダーさんは頬の赤さも消えた真顔だけの状態で言った。
「確かにな。売買所に収容された時期はは数年ほど前のことだが、少なくとも俺はそんなことは聞いたこともねぇ。それに〈異世界の〉ってどういうことなんだ?」
ビルダーさんの純粋な疑問。
俺の心からの見解を答えてあげたいがそうすると辻褄が合わない。なので聞いた情報のみで考えた見解を述べる。
「数年ほど前から出現した、ということは異世界の殲滅者とやらは向こうの世界の体でこちらの世界、ネームにやってきたことになります」
ビルダーさんは腕を組んで頷いている。
「更に殲滅者と呼ばれる程の実力を持っていて、今回魔物の大群を殲滅して見せました。これは、恐ろしいことです。それ程の力を持つ者が自信を付けて驕ることは明白ではないでしょうか。」
ビルダーさんは話を素早く理解し、その続きを予想して顔を歪ませ、体を震わせている。
「その力は早ければ一番近いと思われるこの町へ及び、場合によってはそれ以上かもしれません」
震わせていた体を無理矢理止めて言う。
「なるほどな!更に異世界人はそれだけではないかもしれない」
再び肩を震わせる。
「お前の考えは分かった。想像に過ぎないが可能性はあるな」
俺も考えていたら背筋がひんやりした。
そこへ突然、バンッと扉をを開く音がした。
「うわ〜っ! なんなんだ!」「わーっお!」
体を縮ませていた二人だったが、ビルダーが先にその正体に気付いた。
「アルカレか」
その声を聞き顔をあげる。
そこには逆に俺らの悲鳴を聞いて目を大きく開けている、アルカレさんがいた。
彼はしばし硬直していたがやがて口を開き言った
「なんなんだは僕の方だよ〜。扉を開けただけなのに、いきなり大声を出して、どうしたの⁈」
ビルダーさんが申し訳なさそうに片目を閉じて謝罪する。
「す、すまん。いきなりだったから……」
「だからってその反応は大袈裟じゃない?」
「さっき、異世界の殲滅者の話をしてて、それで襲いに来たのかと」
「話が飛躍しすぎだよ?まぁ何を話していようが別にいいけど。それで宿が取れたから報告に来たんだけど。」
あぁ、それで出て行ったんだっけ。
ビルダーさんがほっと胸を撫で下ろし言う。
「じゃあ、早速その宿に行かせてもらっていいか? 金はそっち持ちだろうな?」
「えぇ、当然です。こちらの事情で付き合ってもらってるわけだからね」
アルカレはその後に小さく誰にも聞かれない大きさで呟く。
(明日言いにくいなぁ)
その言葉の意味を知るものはここにはアルカレ以外にいない。
「じゃあ僕は仕事があるから案内出来ないけど、代わりに受付嬢が案内するから心配無用。じゃあね」
彼がそう矢継ぎ早に言い立ち去った。
「アルカレの奴最初とキャラ変わってねぇか?」
ビルダーさんが呆れた様子で言った後、受付嬢の方が扉をノックする。
コンコン。
「副ギルド長より案内役を申し付けられた者ですがよろしいですか」
「あぁ、すまない。直ぐに行く。ほらお前たち行くぞ」
ビルダーさんが扉までさっさと行ってしまうので急ぐ。
扉を開けるとこれまた、ロングヘアーの銀髪美女が現れた。妖艶な雰囲気を身にまとった美女はマミという名前らしい。日本でも通じる名前だ。
マミは美しい所作で挨拶をする。
「先程伝えた通り、案内役をいたします。よろしく願いします」
「あぁ、そんな堅苦しい挨拶は良いから宿まで連れてってくれ」
ビルダーさんは顔を顰めていう。
「了解致しました。では私の後ろに付いてきてくださいね」
マミが優しく微笑む。まるで天使だ。それに何故か懐かしい感じがする。???
その後、マミの案内に連れられて外へ出て、宿へと向かう。
途中にはたくさんの屋台などがあり、焼き鳥のような 鼻孔をくすぐる香ばしい匂いが漂ってくる。
最近はまずいものばかり食べていたため余計に腹の虫が抑えられない。が、宿では料理が出されるというので我慢をするしかない。
更にはもっと興味深いことがあった。
猫耳だ。ねこみみ、ネコミミ…………ごくりっ。
煩悩よ滅せよ!!
他にも犬耳の獣人などとすれ違った。どれも質素な洋服であまり煌びやかさはなかった。
煌びやかさといえばマミさんの服装だが上下ともに制服である。上は黒を基調とした上品な制服で下は、黒色のミニスカートだ。歩くたびにゆらゆら揺れてる様子がギャップ萌えだ!仕立ての良さそうなものだ。
そんなこんなで二十分程で宿屋についた。
目の前の建物を見る。
「スゴイ」 「スゲェ」 「……」
ビルダーさんと被る。いいやどとってくれたんだな。
マミさんとは一体???