脱走 そして開始
「おそらく、ここにいる奴隷達は何らかの方法で都合のいいように洗脳されている可能性が高いです」
俺は聞いた情報から考えたことをビルダーさんとアレンに話した。
「どういうことだ?それは?」
ビルダーさんが聞いた。
「まず、俺が引っかかったのは森の中に狩りに行かされているのを何の疑問にも感じていないということです。
普通は奴隷である私達は檻の中にいなければなりません。ここは売買所であり、私達は奴隷なのですから。しかし私達は昨日や一昨日のように朝から日が沈むまで狩りをしている。これが差すことがわかりますか?」
ビルダーさんに聞いた。
「いや、分からないが……」
「恐らく狩りをさせて、食料を持ってこさせその肉は実際に売買される女奴隷の方に回し、私たちにはそのあまりなどでつくった粗末な飯を与えられる。そして次の日も同じようにして。要は都合のいい道具のように使っていたんですよ!そして更にたちが悪いのが洗脳です。ビルダーさんが罠のことに気づかないわけがありませんし、過去に逃げ出そうとした人がいなかったわけもないですよね。そうしたことから推測して、なんらかの方法で俺たちの精神を操作して思考をさせないようにしたんです。叛意を抱かないように」
ここまで言って、ビルダーさんは驚きの表情をしていた。
それもそうだずっと洗脳されていたと知ったからな。
しかしビルダーさんはまだ、疑問があるらしく問うて来た。
「もしその話が本当でそうだとしたら、いやそうなのだろう。ならば何故坊主はその洗脳の影響下から逃れたんだ。坊主も三日前までは普通に俺たちと狩りをしていたのに。
もしかしてよみがえりが関係しているのか?」
「それは俺が」
異世界から来てこの体に憑依したから。だから精神に効いている魔法のようなものが効いていなかった。
そういおうとしたが言えなかった。もしも、僕が異世界から来たと知ったら僕を忌むだろうか?そのことが頭から離れずに言えなかった。その日はそのまま言葉を濁して寝た。
翌日、朝早くから起きて今日も狩りに出かける。昨日と同じように檻から出てリア森林の入り口辺りで並ぶ。号令を受けたら皆各々武器をとり、班で散らばっていく。
僕も同じように短剣を手に取りビルダーさん達と昨日つくった罠まで移動する。
三十分程でそこに着いた。
しかし、現実は甘くない。そこには肉を食い散らかされ、落とし穴も発動はしているが槍のような鋭い枝には魔物がいる気配はない。
外したな。
「残念だが罠にはなにも引っかかっていないようだ。どうする?坊主」
「獲物は意外に知性が高かったようですね。これだといくら同じ手でいってもかかりませんね。と言っても新しいいい案も昨日出し尽くしてありませんし。仕方ないですね、今日はおとなしく普通に獲物を狩りましょう。」
「あぁ、そうだな。じゃあ、罠は使わないから放置でいいか」
「そうですね、早速行きましょう」
俺がビルダーさんに同意して狩りに行こうとした時遠くから大きな音がたくさんした。
「なんでしょうか。この音は」
ビルダーさんも考えている様子だったが何か気づいた様子で言った。
「こりゃ大変だ。魔物の群れだ。みんな、みをかくせ!」
ビルダーさんが顔を強張らせて指示して、身を伏せた。
俺も直ぐに反応して近くの木に隠れて動向を伺っていた。
少ししてその全貌が見えてきた。それはビルダーさんが予想した通り魔物の群れだった。その中には俺もよく知る銀狼や小鬼、更には小鬼の二倍はありそうな体躯の小鬼のような魔物も現れた。その群れはそのまま売買所まで向かっている。
なんだあれは!ざっと二百はいるぞ。それに売買所に向かっているということは今、別離されている女奴隷達があの群れの餌食になるということか⁈
しかし僕はあまりの数の多さと威圧で動けなかった。
そのまま数分後、魔物が見えなくなるまで身を隠していた。
恐ろしくて身を必死に縮ませていた。しかしもっと怖かったのは女奴隷達がもしこのまま売買所までいったら殺されてしまうことだった。
「早く行きましょう!じゃないと別離されている奴隷達が食われてしまいます!」
必死で言い、僕は行こうとした。だが、
「もう無理だ。今更行ったって間に合わない。それに行ったところでなにになるんだ?いくら魔物の一、二体は倒せてもあの数は流石に対処しきれねぇよ。諦めな。」
「なんでですか?見捨てるんですか?僕はひとりででも行きます!」
俺が行こうとするもビルダーさんとアレンが止める。
「なんで止めるんですか?僕は、僕のように理不尽なことに苦しまれるひとは見たくないんですよ」
父さんが死んだ日を思い出した。葬式では泣いて喚いて、父さんがいなくなったのを信じられなかった。
学校では理不尽な暴力やいじめに遭った。
もう駄目……
僕は泣き崩れた。
「多分もう少ししたら売買所まで群れは行くだろう。俺は坊主の事情はしらねぇし、詮索する気もねぇ。泣くな、とも言わねぇよ。だがな坊主はそうやって人のことを思って泣けるじゃねぇか。きっとその想いは届かねぇ。だけど弔うことはできる。な?」
ビルダーさんが優しく言ってくれる。
「ゔはぁい」
はい。僕はそう頷いた。
「じゃあ行くか」
ビルダーさんは手を差し伸べてたちあがるのを手伝ってくれた。なにか見覚えがある気が……まぁいいか。
俺たちは魔物の群れが向かった売買所に向かって走った。
数十分で目的の場所まで着いた。建物はもともとボロボロで古臭かったけど、今は原型を僅かに留めているだけだった。
ビルダーさんを先頭に扉を開き、中に入る。俺たちが入っていた檻のある場所だ。檻はぐしゃぐしゃに潰されて原型を留めていなかった。俺は一旦自分の檻の前で立ちこの三日間を思い出していた。とても感慨深い。
ビルダーさんが進むので狭い通路の中一列で進むとまた、扉があった。
「おそらく、この先に女奴隷達の場所になる。覚悟を決めろ」
ビルダーさんがそう言って待ってくれた。なので一度深呼吸をした。
「開けてください」
ビルダーさんが魔物を警戒して慎重に開ける。
そこはひどい有様だった。まず檻は潰され、中の布団などといったものは血に塗れていて血生臭い匂いがプンプンと漂ってきた。更に驚いたのが魔物の死体が大量に積まれていた。そのせいでもっと匂いがひどい。
「奴隷達はどうしたんでしょうか?まさか、喰われたんじゃ?」
俺が言うと、ビルダーさんは否定していった。
「いや、それはねぇ。もし喰われても骨は残るはずだがここにはそんな様子ねぇ。それに魔物の死体が大量に積まれている。これは誰かが奴隷を逃してこの死体の山を築いたということだろう」
奴隷は逃げたというのを聞いて安心したが、だれかっていうのは誰なんだ?いくら俺でも倒せる魔物だとしても、これだけの量をしかもこのせまい通路で殺すなんて、相当な腕前だ。
「騎士団みたいのが動いたんですか?」
騎士団については最初の日に一緒に聞いた。町の治安を守るためにどの街にもいて、紋章の入った鎧と剣を装備しているそうだ。
「いや、それもないな。騎士団だとしたら、魔物の死体は全て回収して売却するだろうし、誰もいないなんておかしい」
確かにここまで誰もいなかったし、いる気配もなかった。
そこでビルダーさんが先に進むよう促したので、魔物の死体の山を避けて先に進むと更に扉があった。血がかなり付着している。魔物の血が飛んだのだろう。
ビルダーさんが扉を開けると、受付みたいな場所があった。部屋の広さは二十畳程で、向かいに扉があり、そこから外に出ることが分かる。手前には机と椅子が面している。更にその右手前あたりには受付嬢がいそうな台があった。
「恐らく、ここは見たままの受付だな。ここで客を迎えていたのだろう」
ビルダーさんがそう言ういって、扉を開けるが建てつけが悪いらしく、ギギギギーッと音がして開いた。
そこには野次馬らしき人がたくさん並んでいた。窓は木製だったため外が確認できなかったため分からなかった。
その人達は急に出てきた僕たちに驚いた様子だったが、直ぐに押し寄せてきた。
俺は呆然としていて、その人波に飲まれそうになったが、ビルダーさんが手を掴んでくれてどうにかしてそこを出た。途中で殴られたり蹴られたりしたので所々痛む箇所はあるが平気だ。しかし、俺と同様に連れてこられたアレンは全くそんな様子はない。全部避けたのだろうか?
ビルダーさんも安堵した様子で、一体何だったんだ?とつぶやいていた。
野次馬が野次を飛ばしていたのでそれを聞くとどうやら、魔物の集団が訪れてパニックになったようだが突然現れた女騎士が、魔物を全部倒してって、いつの間にかどっか消えたようだ。後、騎士団への批難もあった。
一体どうなっているんだ。
無事脱走できた奴隷君達ですがまた新たな問題が、発生。大変ですね。