リア森林の命がけの飯捕り そして戦闘
俺たちは奴隷売買所のすぐ裏にあるリア森林で、今日の飯を獲ることになり森に入っていこうとしたのだが......
「おい、坊主。早く自分の武器をとれ」
とビルダーさんが僕を急かす。
僕は促されるがままかに目の前にあった武器を手に取る。それは、短剣だった。
ビルダーさんは大剣を担いで、アレンは弓を手に持ち、矢筒を肩にかけていた。
この体の俺は短剣を使っていたらしい。当然短剣、よもや包丁すらも握った経験のほとんどない僕はつかみ損ねてしまい、武器を地面に落としてしまう。
そうすると、アレンが静かに歩いてきて短剣を渡してくれる。
「ん」
「坊主、早く行くぞ。でないと、今日の飯は抜きになるからな。それが嫌だったら早くしろ」
ビルダーさんがまた僕を急かす。だけどご飯がないのは嫌だから僕はアレンに感謝の言葉を告げてビルダーさんの元へ走っていく。
「今行きます!」
しかしさっきは急いでたから、気にしなかったけど売買所ということは奴隷を売り買いするんだよな?こんなことしてたら客が来ても僕達を見せることができないし、もし、死んだら損になるんじゃないのか?............
まぁ、あとでビルダーさんにでも聞いておこう。今はいかなくちゃ。
その後ビルダーさんが先導して森の中に入っていく。
ちなみに一番前にビルダーさん。その後ろに俺。俺の後ろにアレン、という順番になっている。
恐らく大剣を持つビルダーさんが敵の注意を引き、俺がそのアシスト。アレンが後方から弓で狙うということなんだろう。
数十分経ってもまだ目的の場所に到着しないので、目的地とか、狙う魔物を聞くことにした。
「ビルダーさん、ちょっといいですか?今から向かっている場所ってどこなんですか?それと何を狙っているかまだきいてないんですが?」
「あぁ、それはだな……静かにしろ。獲物だ」
「えっ。獲物ってどういうこ」
とですか?と聞く前に驚きのものが目に入ってきた。
二十メートル先に二メートルはありそうな大きな狼が一心不乱に肉を貪っていたのだ。色は銀白色をしていて血まみれでなければきっと太陽の光に照らされ輝いていたのだろうが、今は何かの血でどす黒くなっている。
なんなんだあれは⁈というか獲物ということはあれを狩るってことか⁈とてもじゃないが僕にはあんなの倒せそうにない。
「ビルダーさん!あれを狩るつもりですか⁈僕無理ですよ。あんなの、絶対に!」
僕がそう言うとビルダーさんは口元に人差し指を当てて小声で言った。
「しっ。静かにろ。銀狼に気づかれる。話は後だ。狩らなきゃ、今日は腹ペコで夜を明かすことになるぞ。それが嫌だったら言うことを聞け」
ビルダーさんに脅され、僕は少し冷静になる。
確かに腹ペコは嫌だ。それに腹が減っていたら明日の狩りにも支障が出る。いやだけど、怖い。もし今は肉に貪りつくあの牙が僕に向かってきたら?そう考えたら冷や汗が出てくる。
しかしそんな僕なんか気にせずビルダーさんが指示を出す。
「よし!行くぞ。まず俺が奴の注意を引き付ける。坊主は奴の逃げ道を塞ぐようにまわり込め。アレンはいつも通り後ろで援護だ。」
ビルダーさんが銀狼をまわり込むように駆ける。
僕は気づいたら銀狼の逃げ道をふさぐように立ち回っていた。
アレンはここで援護をするようだ。
まず銀狼がビルダーさんに気づき、戦力差を悟ったのか、僕とビルダーさんの間を抜け逃げようとする。
意外と早い。
僕のからだは脳で反応するより早く動いて銀狼を立ち塞いでいた。
銀狼のギラリと光る目と、牙に威圧され怖気づく。
銀狼がこちらへ襲いかかってくる。体が震える。しかし、それは錯覚だったようで僕のからだは見事に反応して敵の攻撃を防いでいた。
そこからは直ぐだった。こちらへ来たビルダーさんが大剣を振り下ろし、銀狼の首がはねて奴は呆気なく死亡した。
しかし、僕は自分が何をしたのか未だに分からず。ぼうっと突っ立っていた。
そこへビルダーさんが話しかけてきた。
「おぉ、やっぱり腕はあんまりにぶっちゃいねぇよぉだな
。まぁ、いくらそのことを忘れててもからだってのは意外と覚えてるもんさ。」
ビルダーさんが僕の心情を察したのか言ってくれた。
からだは覚えてる、か。確かに、今の戦いは本当にそうだった。まるでだれかに操られているかのように勝手に体が動いた。まだ敵の攻撃を防いだ感触が手に残っている。
しかし、その余韻に浸る前にビルダーさんから指示が飛んだ。
「おい、早くこいつの解体作業すっから、こっちきて手伝え」
どうやら先ほど全く戦いに参加していなかったアレンはもう解体作業をしているようだ。なんで影の薄さだ!
俺も急いでその場へ向かう。が、匂いがやばい。倒れそうになるくらいの異臭だ。鼻がぶっ壊れる。
俺は鼻をつまみながら行った。
「おいおい、なんだそれは?冗談か?」
ビルダーさんが呆れたふうにいった。
「いやいや、冗談なわけないじゃないですか?というかなんでこんな匂いの中平然としてるんですか⁈」
「あぁ?こんなの直ぐに慣れるだろうよ。さっきは震えてたが予想以上の戦いをして見直したっていうのによ」
ビルダーさんの言う通り直ぐにこの匂いにも慣れてきた感じで驚いた。というか予想以上の戦いって、まさかこの人僕が反応しなかったら、助けてくれることもなくあの牙の餌食になってたんじゃ…………?恐ろしくて考えたくもないな。
しかし解体作業をするにもどこをどうすればいいのかさっぱりわからん。どうすりゃいいんだ?
「解体作業ってどうすればいいんですか?」
ビルダーさんに聞くとまたまた呆れたように
「お前、解体作業のやり方も分かんねぇのか。ふぅ、分かった。今からお前は初心者冒険者として扱う。わかったな?」
初心者冒険者?まぁ実際何も知らないわけだから、おしえてもらったほうがいいだろう。
「ええと、はい。よろしくお願いします」
「よし。ならまず解体作業からだ。アレン、こいつに解体作業を教えるからちょっとあっちで待っててくれ」
「……」
アレンは静かに近くの木の幹まで行ってこちらを見るように座った。
よし、早く覚えて迷惑をあまりかけないようにしよう。
「あの、まず何からやるんですか?」
「まずはここからだ」
「ええと、こうですか?」
「いや、こうだよ、こう」
・
・
・
よし、やっと終わった。
ビルダーさんも疲れたようで土で汚れるのも気にしないで仰向けで空を見ている。アレンはずっと動かないで木の幹にもたれかかっている。
空はもう紅く染まっている。もう夕時だ。俺も慣れない作業と戦いで疲れた。はやく家に帰りたい。って家じゃなくて檻だったわ。
「よし、もう日が暮れる。はやく戻らないと罰が与えられる」
ビルダーさんが立ち上がっていう。
「えっ、罰って?」
俺が問うと、ビルダーさんは不敵な笑みを浮かべいった。
「それはだな、すごい恐ろしくいもので、その罰を受けたものは一生そのことが忘れられずその恐怖に身をふるわせているそうだぞ」
「えっ、なんですか!それは!」
僕も立ち上がって言うとビルダーさんは笑っていった。
「嘘だよ。そんなびびるな。ただ逃げようとした時と同じように精神的に苦しむだけだからな」
「っいや、そんなのいやですよ、僕。はやく戻りましょうよ早く」
「はははっ、そうだな。じゃあ戻るか。アレンそろそろ行くぞ」
ビルダーさんがいつの間にか取り出した袋に銀狼の肉などを入れて僕たちはもと来た道を引き返して最初に奴隷の人たちが並んだところへ戻った。
そこには最初と違って静けさがあった。誰もいないせいだ。
そして、檻に戻される前に担当の人に銀狼の肉が入った袋を渡して、俺たちはようやく檻に戻ることができた。
その後は待ちに待った飯だ。今日は狼かな?なんて考えてた僕は出された飯を見て驚いた。それは昨日とほとんど同じだったからだ。固いパンに粗末なスープだけ。
ビルダーさんにこのことを聞いたのだが、僕たちがとってきた狼が対価としてこれが出されているようだ。
まったく釣り合わない。僕がそう不服を申し立てたのだがそういう仕組みだ。我慢しろ。と宥められた。
ビルダーさんに宥められては仕方ない。この日は仕方なくその食事を食べた。
ご飯の後は皿を格子の隙間から外に出して、その日のやることは全て終わった。また明日がある。
自分の寝床に戻った僕はまどろみながら考えてた。
ふぅ、疲れた。今日はたくさんやったな。戦いとか解体作業とか……
って、ダメだダメ。まだビルダーさんたちに聞いていないことがあるし、疑問点もたくさんある。昨日は全く気づかなかったけど森を歩く中で何故か全く知らない言語が理解できてるとか、罠を張ればもっと捕まえられるのに、だとか、他にも女奴隷がまったくいないことだとか….
俺はいつの間にか眠った。いろんな疑問を抱えながら。
一人称の変化(俺 僕)は主人公の感情が恐怖になったときに変えています。虐待されていた頃が思い出されるのでしょうね。