004 村人たちの暴走
伝説も勇者も楽じゃない第三話です。
注意事項。作者の本業は絵であり、ろくに小説を読んだことがない状態で書いています。
文法などもっての外、テンポはわざとひどくしてあるほどですのでご容赦。
今回、ご都合主義展開です。というか、ご都合主義の思考を持った村人が出てきます。
無理矢理すぎる展開でもありますが、どうか次の話を待っていただきたく存じます。
今回も現実を突きつける描写があります。
またまたまた!この話でもまだルテオ君は村を出ません。
字数が…字数が9000超えてしまう…ということでここで切りました。
「……え」
「もう私は確信しているのだよ」
「あのだからどういう…」
「君こそが、まさにこの世界の勇者だということだ!」
相変わらず、村長はとても明瞭に答える。
この人ってこんなに早計で直情径行な人だったろうか。ルテオはやっぱり、ハルル村を疑ってしまった。
「えーっと、あの、僕は特に何も…」
「ルテオ…お前……それ、ほんと?」
「本当に勇者の…血筋でも引いてるのか?」
「…ってことはエスカも!?」
さりげなくエスカの話題も出ている。
「エスカちゃん、そんなお話聞いたことある?」
「私は何も知らんわ。だって勇者なんて馬鹿げてるし第一にこの村にそんな伝承ないでしょ?私は信じるつもり無しだね、面白いっちゃあ面白いけども…」
エスカはやはりいつもの勢いで否定した。ただ、半ばからは自分の兄を嘲笑するようにして。
だが、それでも周りのざわめきは続く。
「すっげー!やっぱ、お前ん家すげぇよ!お前のお父さんとお母さんの名前も知らねーけど!」
違う、ただそれだけを言いたいのに言えない。否、言えないというより周りの雰囲気が言わせてくれない。
自分の意見など主張したこともないルテオには、「違う」を言うことは到底出来ないものだったのだ。
しかもそれが村長の口から出たものなのだから、余計言いづらい。
村長のひと声で村全体がまた湧き上がってきた。
_子供たちの言っていたことは間違っていなかったどころか、正解だったのねぇ。
_まさかあの子が勇者さまだとは…そんな子が知り合いにいるというのが誇りに思えるな!
苦笑いしていた大人たちが次第に勇者の誕生を喜び始める…。
_ここ最近魔物も増えている。魔物を倒して突き進んで、勇者さまはすぐに救世主となってくれるだろう。
こんな風に、ハルル村の住民、が。
ルテオはようやく理解した。
住民たちは今、「世界を平和にしてくれる人」を作り出す、絶好の機会だと思っているのだということを。
村の平凡は侵されたくない故、そうやって一人に期待を無理やり押し付け、自分達は応援するのみ…。
なんて酷い事なんだと思いつつ、自分ももしかしたらそうしていたかもしれないと思うと、ルテオはなんだか複雑な気持ちになった。
でも、恐らく子供たちは純粋にルテオを期待しているのだろう。平和な日常に、かつてないほどの興奮を訪れさせてくれたのだから。
しかし、そんな期待でも期待は期待。
ルテオにとっては迷惑極まりなく、ただの負担になるだけだ。
「えぇっ…少し待ってくださ」
「さぁ、勇者よ前へ」
村長の優しい笑顔はもはや狂気にしか見えず、後ずさってしまいそうになる。
「ここに勇者あり!」
いきなり右腕を掴まれ、そのまま上に上げられた。
『おぉー………』
住民たちの感嘆。続いて拍手。
どうして自分が勇者なんかにされるのか…は、ルテオは依然分からないままだ。
勿論、平和への期待のなすりつけというのもあるとは思うが、村長がそんな判断をしている事は無い…と、思いたい。
__ハルル村に、言い伝えや伝説などはないはず。
せいぜい村の外れに小さい遺跡っぽいものがあるだけで、そこについての言い伝えも聞いたことがないし、もしあってもこういう所に神殿的な何かを作る必要はないだろうから、きっと誰かの作った嘘の伝説だろうし…。
ルテオはこの状況がおかしいということを主張できる所を必死になって探し、自分を落ち着けていた。
勿論考えたところで主張はできないし、確信もない。
これ以上何も起こさないでほしい。その一心なのに―
―勇者さま、勇者さま、勇者さま…。
魔物が多くなり、おかしな現象の数多起こる世界を救ってください。
伝説の勇者ならば勇敢に旅に出なければ、さぁ旅のご準備を…。
この村に勇者さまが存在されるなど、何たる名誉…。
素晴らしかったと言われる世界を取り戻してください…。
なのに…。事は、どんどん発展していく。
「どうしたんだルテオ君、浮かない顔をして…ああ、旅に出るような年ではないと気にしたか?確かに若すぎるような気もするが、年は問題ない。現に今魔物を追い払えたのだから、何か神や血筋のご加護があるに違いない。自信を持って行けば良いのだよ。」
血筋なんてあるはずがない。そもそも、自分が勇者の子孫だったのなら両親も勇者の子孫ということになる。
この普通な家で暮らしている人間の先祖が勇者だったなどあり得ないことだし、もし本当に自分が勇者の子孫の一家なら、まだ子供の僕よりも父さんが旅に出た方が絶対いいはずだ。
…もし子孫が母さんなら母さんかもだけど。
ルテオはまだ、状況をなんとかするための主張を言えもしないのに考え続けていたが、こうでもしないととても正気を保ってはいられない。
「それに、勇者はいま必要なのだよ。進んでいくうちに強くもなるし年もとる。きっと大丈夫だ」
「……は、はぁ…」
やっぱり。ルテオは確信がつく。この村の住民と常識は本当におかしかった。
今まで普通だと思って平凡を続けてきたのに、この村が好きだったのに――本当に疑っていなかったか好きだったかどうかはよくわからないけれど――。
「神の加護だって!カッコイイ!」
「……」
「ルテオやっぱ勇者だな。どうだよ、勇者ってことがわかって」
「……」
「魔王みたいなの倒して帰ってくる、世界の勇者さまだぜ!?」
「……」
応答する気力など、もはやルテオに残っていない。話しかけないでほしい、と顔を下に向けるが無意味なようだ。
もうこの村嫌。そんな感情が、頭をよぎる。
だが、いくらおかしい村でも故郷は故郷。
旅に出るのとこの村に住み続けるのとどちらがいいか訊かれたら、葛藤一切なく喜んでこの村に住み続ける。仮にも、平常時は平和で平凡で良い村なのだ。
ルテオはそう考えたが、「村に居たい」と口にすることはしない。
それは「平和に加担しないと」という建前の「もし断ったら居づらくなる」という本心の考えもあるからだ。
普通に考えて、旅か村かを選ぶなら、死ぬという危険が日常よりも数十倍はあるであろう旅になんて出たくもないし出る必要がないだろう。
それに、出させる側がいる…つまり、それが子供であったなら出させる側はたまったもんじゃないはずだ。
しかし、住民と村長の勝手半ば強引な判断で勇者にされ、その上喜ばれてしまっている。勿論、ルテオには選択肢などは端ッから無い前提の状況である。
つまり…この状況で、断ったら居づらいということと村に居たいという考えは、葛藤せざるを得ない。
だがその葛藤も無意味だ。ルテオに「選択肢などは端ッから無い」のだから。
そこでルテオはふと気づく。そうだ、両親や家族は止めてくれないのだろうか。
何となく希望を持って顔を上げる。
何気なく両親の方に目を向けると、母親は近隣の住民に囲まれて泣いていた。勿論、遠くから見てもわかるほど嬉しそうに。
父親はというと、こちらは無言で空を仰いで、感慨に浸っている。しかし、涙を堪えようとしている姿は何となく受け取れた。
エスカは人だかりを外れた後ろの方に逸れて、家の壁に寄りかかっている。
…やっぱり誰も助けてはくれないらしい。希望を持って顔なんて上げるんじゃなかった。
「あぁ、そうだ。早速、旅の準備をしなければならないな。しかし…」
まだ何か言うことがあるのかな。出来るなら僕に了承を聞いてほしい。
「実は…ここでは、言えんことなのだよ。ルテオ君に少し話がある。ついてきてほしい」
「……はい」
断るわけにも行かず…否、断る術を持たず、言われるがまま村の奥に進んでいく村長の後を追う。
後ろではまた感嘆の声が少し起こっているのが分かって、何となく嫌になった。
―
「おーい、お前たち。少し来てくれ」
「はい、何でございましょう」「おや…村長。その少年は?」
「あぁ…」
紛れもなくルテオのことである。
村長に肩をぽん、と叩かれた。
ここは村長の家。入ると直ちにリビングのある造りになっていて、やはり結構大きい。豪華な…とまでは行かないが、調度品は普通よりは高価そうなものだ。
奥のテーブルで数人、男たちが話し合っているようだった。
また、上の階からはバタバタと足音が聞こえる。今はけが人の看病をする救急の病院になっていると、ルテオはここに来るまでの道で村長から聞いた。
「…この子は勇者さまだ」
「へぇ」「そうなのですか、つまり魔物は…」
「この子が村の危機を救い出してくれた。しかも魔物に対しての慈悲で、倒さずに逃がしたそうなのだ」
それは何もかも誤解だと、もう今更言える空気ではない。
「そうでしたか!それは勇者さまと呼ばれるに値しますね。で…ご用はなんでしょう?村の方は、もう収まったのでしょう?」
かなり感心した口調だ。いきなり勇者にされたルテオのことは疑っていない様子だった。
「あぁ、もう収まっている。あと、これから少し遺跡に用があるのだよ。数人、ついてきてくれ。遺跡の扉を開けたい。」
「遺跡の扉…!?あ、はい、分かりました。遺跡の扉となると…男手5人ほど必要か?よし、看病役から二人ほど連れて来よう」
男たちは階段を上がっていく。すぐに談義の声が聞こえてきた。
一応は見覚えのある顔だったが、勿論自分の顔はあちらには覚えられていない。有り体に言うと覚えられたくもない。
ルテオは思う。
ああいう大人を旅に出そうとは思わないのだろうか。武芸経験もない、力など到底大人には及ばない子供よりも絶対にましじゃないのか…?
疑わずに受け入れてしまう辺り、やっぱりこの村の住民なんだろう。
その間、村長は何故か本棚を漁っていた。お目当てらしい本を抜き出してはペラペラと捲って、頷いたり、これは違うという顔をしたり…。
最終的には何やら古めかしい、ボロボロで表紙もまともにないような、それこそ紙切れの寄せ集めのような、「本」とは呼べない様のものを持って来て確認し、うむ、と頷く。
広い部屋なのに居場所のないルテオは、そんな様子を一人突っ立って見ることしか出来なかった。
そんな時、階段に複数の足音がし、男たちが降りてきて言う。
「村長、準備が整いました。一応5人連れて行きましょう。他には…何かすることはございますか?」
「そういえば!忘れていた。すまんが、ルテオ君が旅に出られるような一式を揃えておいてほしい。勿論、荷物はご両親と相談して決めてくれ。武器は私が手配するから、その他旅の道具は任せたいのだが…」
「私が行きましょう。一応生活知識は他の者より…4人になってしまいますが、いいですか」
名乗り出たのは、村長の家事手伝いをしている人だった。
「そうかそうか、大丈夫だろう。よろしく頼んだ。では皆、遺跡へと向かおう。」
武器は私が手配する。
…村長はかなり本気のようだ。旅に出ることがどれだけ大変なのか僕は知らないけど、この人も多分知らないんだろう。
そもそもこの村の住民は、そんなこと考えもしない――僕もそうだった――。
そして、僕が「勇者」であると信じているのもあって、旅なんて簡単だと思っているのかもしれない。僕は思わない、そんなこと絶対に…。
遺跡への道はしっかりと整備されてはいないが、とくに険しい道ではなく危険でもなく、ルテオより小さな子供でも歩けるような道だ。
そんな道中でも、ルテオは足が震えて仕方がなかった。
このままだと、勇者扱いされたまま旅に出なくてはならないのだ。今もおそらく両親と家事手伝いの人が荷物を準備しているだろう。
足の震えを誤魔化すために必死に歩くのだが、それに伴って早まる歩行は、遺跡までの距離を余計に早く縮める。そこで歩行速度を緩めると今度は足の震えで倒れそうになる。
なるべく悟られないよう誤魔化したが、まともな歩き方は出来なかった。
「さぁ着いた。皆集まってくれ、この扉を開けよう」
位置的に言えば村からさして遠くないところにある、森に囲まれた細長く小さな石造りの建物。…これが「遺跡」だ。
丘の様になっている場所にそれがあり、遺跡のど真ん中を小川が横切っていた。
遺跡の奥の方からも川が通っているらしく、架けられた簡単な橋の横で丁度合流している。
正確に言うと、その遺跡の奥は少し山の中に入っていて、そこから川が出ているらしい。一体何のためにこんな事をしたのかよく分からない造りだった。
「これだけ人数が居れば簡単に開くだろう。皆、イチニのサンはいで行くぞ。」
全員が扉の前に集まって、僅かに開いている隙間に手をかける。
…つまり、外に引いて開ける扉だ。
正直押すと思っていたのでびっくりはしたが、ルテオもそれに倣う。
『いち、にの、さん、はい!』
ガコッ、という地面が少し揺れるほど重たい響きがした後、結構軽く開いた。
ゴゴゴゴゴ…
あとがき…いや、言い訳タイム。
ルテオ君にはひどいことをしました。まだ旅に出られないなんて…
「あ、大丈夫です出たくないので」という返答があるとは思うけども(笑)
そして村人、超ご都合主義的。なんかこう…自分でやるのは怖いから他人に擦り付けるって日本みたいですね。
実際、ハルル村はそういうところ日本の風刺的に書いてます。やりたくて仕方がありませんでした。
ね、現実って面白いでしょう?
本当は遺跡で伝説を話すシーンから村出るところまでこの話でやろうとしてましたが
流石に…7~9000字になってしまうのは嫌だなぁと思ったんでカット!しました。
次回は遺跡の中の話でしょうかね?(作者が疑問形)
村出られるんでしょうかね?(作s以下略)
それでは。
平凡な少年の明日に、乞うご期待。