001 自由と平凡と夢
伝説も勇者も楽じゃない第一話です。
理解しにくい部分が多々あると思いますが、お暇でしたら。
注意事項。作者の本業は絵であり、ろくに小説を読んだことがない状態で書いています。
文法などもっての外、テンポはわざとひどくしてあるほどですのでご容赦。
今回は確実に現実を突きつける描写がありますので現実逃避したい方は2話待機してください。
「夢…」
ルテオは慌てていた。自分と同い年の友人がそんなことを語り始めるなんて、と。
そう、もう自分が、将来について考えなければならない年だということに。
「ルテオ、お前の夢って何だ?あんまり聞いたこと無くて気になるんだよなぁ?」
「あァ確かに。ルテオ、聞かせてくれよ!」
「ルテオ君の夢かぁ、想像つかないねぇ。」
ルテオの脳内はさっきからずっと、この言葉が脳内を回り続けている。
夢…平凡に暮らすこと。それ以外、何もないのだ。
友人の夢は違った。城の兵士、騎士。もしくは、家を継ぐこと。
周辺にいた子供は皆、夢は何かという問いにそんな言葉を返している。宿屋、武器屋という答えもあった。
試しに妹に聞くと、そんなことを人に話すのは才能持った気取りの馬鹿だ、とバッサリ切り捨てられる。
こういうところで平凡に暮らすことなどと答えるのは正直…友人に対するメンツなどどうでもいいけど、そんなことを言うのは恥ずかしい。
夢って、持ってなくちゃいけないものなのかな…。
「…さ……さん……兄さん?寝てんの?…返答ないなら入るよ…。はぁ…起きてたの兄さん。晩御飯だからとっとと降りてきて」
「あ…うん、ごめん」
また考え事をしていたのか、とあきれたような表情で暫く睨まれたのち、さっさと妹は降りて行った。
昼間夢について聞いたから、頭がおかしいとでも思われてしまったか?
ルテオはそんなことを考えながら、家族が集うリビングに向かう。
廊下途中にある大きな鏡にうつる自分の顔。ルテオは脳内でぼやく。…あぁ、冴えないなぁ。
別に、冴えたいわけではない。人気者になりたいわけでも、また目立ちたいわけでもない。
ただ自分の顔が嫌ではあり、特に笑ったこともないこの口、無駄に大きく黒い目。良いものではないだろうが、変えたいとは思わない。
変わったところでもはや不釣り合いなのは、言わずもがな…
「やっと来たのねルテオ。今日の晩御飯はとれたての野菜も入ってるわよ。さあ、いただきましょう」
よく言えば平凡、悪く言えば平凡…という、妹にいつだか言われた言葉。
嫌味というか皮肉なのはわかっているが、否定はしない。ルテオはむしろ全力で肯定しようと思っている。
「そういえばルテオ、こづかいはもう使ってしまったのか?」
「え、何で」
「いや、欲しいものがあると言っていたから使ったのかと思ったんだが、別に何も買ってないじゃないか?」
「…ああソレ、別にどうでもよくなったんだ…今は貯金してあるよ」
「ルテオはえらいな。こづかいをちゃんと取っておくとは…こんど父さんが直々に何か買ってやってもいいぞ。」
「あなた、生活費困っちゃうでしょうが…」
「まぁそれもそうだな。ハハハ。」
ルテオは褒められたくてこづかいを貯めてはいない。
僕には別に欲しいものは無い。無くてもいいものならいらない。欲しくなっても、すぐに欲は消える。
お金で買えるもの以外にも、欲しいものは無い。
今の生活でもう十分だと、欲に関する思考は放っぽってしまった。
平凡なのはこれが原因…、ルテオはそれも理解している。
だからといって、変わりたいわけではない。平凡なことは、不正解でも正解でもない。ただただ単に「平凡」、平凡にあるのは平凡だけ。
…これこそ、いつもの言い訳。いつも何かを考えるとここにたどり着き…
そう、だったらそのまま生きればいい。
夢とか気にせず普通に生きて、老衰してなんやかんやで死ぬ…、
僕はそれでいいや、平凡でいるから、無駄な幸せも、無駄な不幸もないんだ…よね。そうだよね。
取り敢えずこうして生きてるし、どうでもいいんだ、そんなこと。
…そうして、考えていたことは記憶に残ることなく消える。
新鮮な野菜とやらの入ったいつもより美味しいらしいスープを飲み干す。
食器を片付ける途中、妹にはやはり睨まれた。あぁ変なこと聞いたのか、謝らなくちゃいけなかったかな。ひとまず片付けを終わらせ、2階へ戻ろう。
「兄さんはわかってないね。別に腹を立ててるんじゃないんだってのに」
いきなり暗い廊下で後ろから声をかけられたので、板がガタガタの床で躓きそうになる。
「……え、どういうこと…?」
「兄さんがおかしいから、少し観察してただけなのさ。別に昼間聞かれたことについては兄さんに言いたいわけじゃないし」
「え、エスカ、僕変なのか…な?」
「あったりまえだね、兄さんは私から見たらいつだって変だけど、今日は特に。夢なんかについて語りだしたりしてさぁ。でもどうせ今日も頭の中で適当に考えまとめ上げちゃってるんでしょ?普通なのが一番だと、いつだってわかってるんだもんな、兄さんの頭はさ…」
まるで反撃する暇も与えない妹…エスカの言葉は、きついけど正しい。
口喧嘩なんてしたことはないけど、したら多分僕は何も言えないだろう。
いや、言い返すほど怒ったこともないし、言い返す気力もない…。
ルテオはそう思いながら2階へ上る。エスカはその後に続いて、またしゃべり始めた。
「兄さん、いつもと違うことが起きるとすぐパニックになるし悩み始めるし、逃げまくる。日常に溺れすぎなんだよ。毎日毎日、同じことばっかりでつまんなくないの?行動も、考えもさ。」
「あぁ、うん」
ルテオはもう、脳内が問いかけに返答出来る状態ではなかった。自分の感情や考えは一瞬にして悟られ、適確な指摘とともに耳に入る。
反論なんてできない。エスカの言ってることは皆僕が避けて通っている真実であって…。
「ちょっとはこういう普ッ通な生活から抜けようとは思わんのかね?兄さんの頭ってのは。いつも同じ事考えてるのさ。今日みたいにいつも違うことがあっても、結局いつも通りでいいや、って。私の言ったことにも反省だけしかしない。私は反対意見がくるのを、ずっと待ってるというのにさ?」
「反対意見…そんなの、ないよ…」
完全に思考停止。
「そう。私の言ってることが、そんなに正しいのならそれは良かった。兄さんの考えがいつも同じだから私の言ってることも1パターンになるけど、そこを咎めないなんてやるね、兄さん」
エスカがため息をつく。そろそろ終わるだろう。
ガタンと、少し立て付けの悪い部屋のドアを開ける。
また同じ音がガタンと鳴る。エスカの部屋のドアだ。
「じゃ、おやすみ…」
「おやすみ、また明日ね」
そしてまた同じようにガタン、と2回鳴り、今日という日が終わった合図になる。
昨日も、一昨日も、一週間前でも、同じ「今日という日」の終わりをしている。
また明日…。明日も、変わらない一日を望んでいる。
変わるはずがない、そう、変わってほしくないのだから変わるはずがない。
「人は人を変えられないこともあるが、人は自分なら自由にすることが出来る。
しかし、自由は重たい。何故なら、他者の決めたことなら責任は他者が取るが、自分が決めたことは全て自分で責任を取らなければならない。
自由というのは、いつなにで責任を問われるかわからない危険を背負うようなものだ。
しかし恐れてはいけない。本当の自由が、責任を取らなければならないほど危険な事を指しているのではないのだ。
本当の自由は、欲にまみれた者は手には入れられない。素直に心の声に耳を傾けよ、若き希望」
かなり昔、村にやってきた、「偉い人」の話。少なくとも、僕と同い年の村にいる子供は、皆聞いていただろう。
名前だとか、どんな用件で村に来たのかは何にも覚えてないし、10年くらい前でも相当な年の人だったから、もう今は亡くなっているだろう。
「恐れてはいけない」とは言われても恐かったことを、ルテオは毎晩思い出す。
責任重大、この言葉がただひたすらに恐かったから、僕は自由を選んでも、自由にはしなかった。
けれども、本当の自由っていうのは手に入れることはできた。そう、この毎日。
本当の自由は平凡な毎日を送ること、それが僕の自由だということが、ようやくわかって…
眠りにつく。変わらぬ明日を迎える為に…。
だが、ルテオは分かっていた。それがただの戯言であることを。
根拠も自信もない。でも、そう納得する以外に、手段はないということも分かっていた。
「日常に溺れる」のがたとえ悪いことだとしても、自由になるためには必要なことなのだから、と。
つまり「自由は平凡」ということだけは、少年は知っていたのである。
考え込まなくても、毎日を過ごすことによって。
だが、自由は、毎日続くと保証されたものではない。
人に人を変えることは難しいが、人は自分を変えられる。
そして…偶然も人を変えてしまうことを、少年は知らずに寝息を立てていた。
一話目は「重たい、暗い、難しい」が話を描くときのポリシー?です。
沢山考えてるように見えますがルテオ君はそんなに考えてません。
案外そんなもんだと思います、分かっているのは結果だけ、でもそれも一部分だけなんてよくあることかな、と。
平凡な少年の明日に、乞うご期待。