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第五話 豪華絢爛! 美食の宴

「しぃるぅこおぉー……」

「なんなの朝っぱらから」

「あんたがいない所為で昨日は大変だったんだからね! 危うく初黒星を喫するとこだったよ!」

「幽霊屋敷で何かあったの?」

「何かどころか大アリだ! 馬鹿力の暴君は和食の効かないお嬢様と思った矢先に天真爛漫破天荒で妖怪じじいが乾布摩擦なう!」

「わけがわからないわよ……」


 言いたい事がありすぎて何から言ったらいいのかこんがらがっててわけわからん! 昨日の疲れをもろに引きずりホームルームで爆発し、その後一日うだうだくどくど発散し続けあっという間に放課後を迎える。なんて早さだ。自分でも呆れるほどに今日という日が記憶にない。


「いやぁ相変わらず一日が過ぎ去るのはあっという間ですなぁ」

「…………疲れた」

「どうしたしる子! 元気がないぞー。若いモンは元気が一番!」

「あんたが奪っていったんでしょ……はぁぁ。悪かったわよ。せっかくお詫びにと思って素敵な知らせを持ってきてたのに……こんな状態じゃとてもむ」

「なに! お詫び!? どんな知らせなんだい!」


 食い気味なあたいとは対照的に若干引き気味なしる子が取り出したのは豪勢な料理の数々が印刷された招待状だった。和、洋、中はもちろん特筆すべきはそのスイーツの量。一流シェフにより丹精込めて作られた珠玉のスイーツたちが紙面上で踊っている。煌びやか過ぎて異世界への招待状かと見紛うようなこれは。


「ここ! こここ、これはもしや!」

「世界が認める極上ホテル、『リモネクーヘン』のビュッフェ招待状」

「ぬぁんですとぉぉ!」


 リモネクーヘンと言えばあらゆる美食系雑誌で十年連続五つ星を獲得している超有名なホテルだ。各界の著名人はもちろん一介の女子高生ですらその名を知る、一流中の一流ホテルの招待状をどうしてしる子なんかが持っているのか。文字通り世界が違う、夢の架け橋的チケットだというのに。


「父さんが和菓子連盟の会合でここのオーナーと意気投合しちゃったんだって。それで頂いたはいいけど仕込みやらなんやらで忙しいから代わりに行ってこいって渡されたのよ」

「父さん! あたい父さんの娘に生まれてよかった!」

「あんたの父さんじゃないわ!」

「しかもタダ! 無料! 招待状だから無料! うわぁお!」


 タダとはなんと怖ろしく甘美な誘惑であろうか。甘いときめき。刺激的でスパイシーな罠。ああ無料。無料よ。この世に無料と食べ放題という言葉をもたらした神様をあたいは崇め奉ります。アーメン。


「それは素晴らしいビ! 魔法のレパートリーを増やす絶好のチャンスビよ!」


 興奮したエビカツが弁当箱から飛び出して、ここは教室だってのに構わずまくし立てる。


「四天王に一度克服させた魔法に二度目はないビ。あらゆる種類の料理を食べて手持ちの技を増や」

「くぉら出てくんな!」


 ばちこーんと弁当箱にフタをして閉じ込める。喋るエビカツが新しい学校の七不思議の一つにでもなったらどうすんだ! あんまり怖くないし! 関係ないけどどうして学校の七不思議って怖いイメージがあるんだろう。ただ七つの不思議があるだけじゃ都合の悪い何かがあったんだろうか。怖くしないと流行らない、とか? まぁなんにせよそれこそがすでに一つの不思議だとあたいは思っている。


「……それでこの招待状、一枚で四人まで有効らしいからあぶりたちを誘ってあげようかと思ったんだけど、なんだか疲れちゃったしどうしようかな……」

「いく! いきます! しる子ちゃんとあたいは大親友だもんね! ささ、ご主人様、お肩をお揉みいたしやす! あっしがパシリでもなんでもいたしやす!」

「じゃあ売店でコーヒー牛乳買ってきて」

「御意ー!」


 風のように走り去るあたいの背中に冷たい視線なんてものは感じない。もう何も感じない。

 どっかの使用人の如き暴風を巻き起こしながら校内パシリ新記録を叩き出す勢いでご主人様の元に駆け戻ると、ラユ子が招待状に見入っていた。


「あ、おかえり。ご苦労だったわ。ラユ子に声かけたら一緒に行くって」

「日本のご馳走! 満漢全席ネ!」

「よっしゃこれで三人! あと一人だね!」

「そう、あと一人誰にしようかしら……」

「うちのじっちゃは風邪ひいてるネ。年寄りに無理は禁物ヨ」


 あれか。半裸で乾布摩擦してた所為か。豪快な行動の割に案外虚弱なじじいらしい。というよりそもそもじじいは頭数に入ってないから! 女子会に男はいらねえっての。


「なーんかお前ら楽しそうだなあ。先生にも教えてくれよー」

「げっ。女子会っすよ女子会! センセには教えられない乙女の事情ってやつ!」

「ふーん。まあいいや。あんまり太ると男が逃げてくぞー。早く帰れよー」


 がははと笑いながら大股で教室を出ていく。余計なお世話だっての! 食べ盛りの乙女たちのデリケートハートは不可侵! 男子禁制!


「女子会ねぇ……あと一人女の子のあてでもあるの?」

「ちゃーんと考えてありますって!」


 怪訝そうな二人の前で大見得を切るのだった。






「ここが例の幽霊屋敷なわけ?」


 あたいの先導でやってきた幽霊もとい妖怪屋敷、否否ラビオリ邸。すっかり庭園共々修繕されて以前よりも更に一段と風格を帯びているように感じるのはおそらく気のせいではないだろう。事情を知らない人からすれば通常とは逆に新しくなっていく(経年劣化ならぬ経年……まあいいや)幽霊屋敷なんてもはや気味が悪いどころの騒ぎではない。知ってても気味悪いし。


「ラビー! いるー?」

「あぶりぃ! 待ってたよ!」

「ワオ! テレポーテーションネ!」


 セバスチンに運ばれてきたラビは初見だとさながら瞬間移動をしてきたように見えることだろう。ラユ子もしる子も目を丸くしてあたいに抱きつくラビを見ている。


「この子がラビ。昨日魔法女子……魔法少女になったばっかなんだ」

「ラビです! 十歳です! 初めまして!」

「は、初めまして」

「ワタシラユ子ヨ! 可愛い子どもネ! 仲良くするアル!」


 早速ラユ子ときゃっきゃしているラビ。人って一朝一夕でここまで変わるもんなんだなぁ。子どもの成長ってはえー。しっかしいくらなんでもやっぱり変わりすぎだよなぁ……。


「最初は大人しい子だったんだけどねぇ。打ち解けたら実はとんでもない破天荒だったわけで」

「へぇ……ここに一人で住んでるの?」

「使用人が三十人くらいいるよ! お姉ちゃんも仲良くしてねー!」


 腕をぶんぶん振り回され、しどろもどろなしる子の周囲を取り囲むように吹き荒れる風。使用人たちが挨拶でもしに来ているのだろうが、その姿を捉えることは不可能なのでただただ突風に飲み込まれるばかりだ。


「……なるほどね。幽霊屋敷、なんとなく理解したわ」


 まさに空気を読んだその発言に思わず感心しそうになるが、そういえばそれどころじゃなかったことを思い出した。


「ラビ! 食べ放題に行きたいかぁーっ!」

「行きたぁい!」

「よっしゃ着いてこい!」

「ふあぁーい!」

「ちょっとそれ私が持ってきた招待状なんだけど!」

「細かいこと気にしないネ。しる子、急がないと置いてかれるヨ!」

「ちょ、待ちなさいよ! 場所わかってんのぉ!?」


 ラビが加わりすっかり大所帯となったあたいたち。目指すはホテルリモネクーヘン! 夢の扉が今開かれる!







「いやぁなんという事でしょう!」


 眼前に広がるゴージャスな料理! 料理! 料理! 日常じゃとてもお目にかかれない高級料理がわんさか並び、まるで水底に沈む海賊船の財宝でもあるかのようにギラギラと輝いてあたいを誘う。よだれの溢れ出そうな肉の塊、活きの良さが見てとれる程に艶めく寿司、刺身、活け造り、雫弾ける青々とした採りたて有機野菜の数々、重箱に詰めるのにすら気が引けそうな色とりどりの和食小鉢、眩しく照明を反射する大皿に盛られた中華、世界各国のデザートは専用のコーナーが用意される程充実し、魅惑色に煌めいてとてつもない吸引力を放っていた。


「ももももう辛抱たまらぁん!」

「ワタシも食べる! 食べるネ!」


 我先にと宝の山に飛び掛かる。あたいたちは飢えた猛獣さながらに両の眼を爛々と輝かせながら猛進する。高級ホテルだろうがなんだろうが関係ない。マナーもへったくれも知るもんか! 据え膳食わぬは魔法女子の恥だ!


「はしゃぎ過ぎ! もう子どもじゃないんだから少しは落ち着きなさいよ……」

「そーいうしる子お姉ちゃんもさっきからそわそわしてない?」

「そ、そんなことないわ! ……あの、ら、ラビ? 悪いんだけど、その、席を取っておいてくれないかしら……」

「あいあいさー。いってらっさーい」

「ごめんね! ありがとう! い、行ってきまーっす!」


 しる子も小走りであたいたちの後を追ってくる。


「みぃんな子どもだなぁー」

「なんか言ったぁー!?」

「ううん! なんでもないよあぶり!」


 白い一輪挿しの添えられたお上品なテーブルの上は、瞬く間にずらりてんこ盛りのお皿で溢れ返った。野生的にがっついたステーキからほとばしる肉汁。しる子の啜るペペロンチーノはニンニクの嫌みな香りも無いし、ラユ子のカレーやカツ丼も見た目からしてファミレスのそれとは天と地ほどの差がある。何から何まで徹底的に五つ星な出来映えだ。スタッフたちの苦笑いにさえ目を瞑れば、何もかもが完璧だ。


「ん!? さっきから全然食べてないじゃんか! ラビって普段からそんな少食なわけ?」

「ラビはこーいうの食べ慣れてるからさぁ」


 生意気な事を嘯きながら音も無く冷製スープをひと掬いするラビ。ブルジョワめ。まぁ今のあたいはそんな生意気を言われてもなんとも思わないけどね! 何か他のこと考える余裕なんてないからね! あたい、食べる、それだけ。


「美味いネ! 尋常じゃないネ! この世のものとは思えないアル!」

「あーあーそんながっついちゃってはしたないなぁ」

「しる子だって食べる手が止まってないじゃん! 料理は逃げたりしませんぜー?」

「好き勝手食べちゃ駄目ビ! ちゃんと和食なら和食、中華なら中華で自分の使える魔法のタイプに合った物を食べないと意味ないビよー!」


 あれ、エビカツがいる。そうだそういえばホテルに入る前にしる子だか誰かが話してた「食べ物を隠すなら食べ物の中」的な理屈で自由にさせてるんだった。


「固いこと言うなよエビカツー。はいあーん」

「ビあーん。おいし! ……じゃないビ! ちゃんと真面目にやるビ!」

「お代わり行ってくるわ!」

「ずりーぞしる子! あたいもおっかわりぃ!」

「ワタシデザート行っちゃうネ! クロカンブッシュ制覇するまで帰らないヨー!」

「これじゃどっちが年上だかわかんないビね……」

「賑やかでいーんじゃない? 食事はやっぱり皆でするのが楽しいし!」


 喧騒と熱気に包まれた眠らないホテルリモネクーヘン。幕引きを忘れた狂乱の宴はまだまだ始まったばかりだ。

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