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第十一話 肉会

「それでさもぐもぐ。なんでもぐもぐ。ちゃっかりあんたも着いてきてるわけもぐもぐ?」

「いいじゃなあいもぐもぐ。私もちょっと小腹がすいてたのよおもぐもぐ」

「喋るか食べるかどっちかにするビはしたない! もー! トルテラの分は出さないビよ! お小遣いが悲鳴を上げてるビー!」

「あらあエビカツちゃあん、いいのお? ほっぺに口紅が付いちゃってるわよお? だあれのかなあ?」

「ビビひーん! お、おねいさん! ここは僕に任せてじゃんじゃんお食べ、ビ……」

「ありがとお! エビカツちゃんだあいすきよお!」

「ビひひ……はぁーぁ」


 祝勝会と称して訪れた「肉」専門店「和牛の助」だが、倒すべき敵と一緒ってのはいかがなものか。謎の呪いらしきものが解けたトルテラはすっかりあたいらの中で馴染んでいる。


「にしてももっとぱぁーっと豪勢にしてくれても良かったんじゃねえかなー。肉は肉だけど安物の食べ放題って……」

「ケチね」


 和牛の助は安さが売りの食べ放題レストランだ。「肉」専門店だから品揃えは豊富で、鶏肉、豚肉、牛肉、ラム肉、変わり種で熊肉、桜肉、ぼたん肉など、とにかくあれこれ勢揃い。ただコストを下げるために産地が不明の謎肉を混ぜているとかいう噂もある。


「文句言うなビ! おごってもらえるんだからありがたく思えビ!」

「まぁそれはそうなんだけどね」

「そう言えばさー、なんであの時二人は一緒にいたの? お出掛け?」

「あぁ、私とラビオリはショッピングに出掛けるところだったの。途中でトルテラに遭遇してそれどころじゃなくなっちゃったけど。そうだラビオリ、結局買えなかったからまた今度行きましょうね?」

「ううん、もういいよしる子お姉ちゃん」


 力無く答えるラビ。なんだか先ほどから元気が無い。肉嫌いだったっけ? もしかするとさっきの事をまだ引きずっているのかもしれない。


「いつまでも気にすんなよーラビー。ちゃんと戦いには勝てて、こうしてトルテラとも仲良くできてるんだしさ」

「そうじゃないの。……あのね、あぶり。……はぁ」


 溜め息をつきながらウェイターを呼ぶラビ。ほどなくして現れたウェイターに「ローストビーフ」を注文する。運ばれてきたローストビーフはでっかい塊で、テーブルについてから切り分けるタイプのようだ。


「おお。早速こないだ克服したローストビーフを食べるんだな」

「……私ね、嘘ついてたの。この前は食べたふりしてセバスチンに下げさせてただけ。でもね、あぶりとしる子お姉ちゃんの活躍を見て、また今日みたいに私が足手まといになるのは嫌だったから……今、ここで克服する。見てて、あぶり」

「……そっか。ラビは偉いな。ちゃんと正直に話してくれてありがと。無理すんなよ?」

「大丈夫、今なら。あぶりたちに負けてられないもん」


 切り分けられた一枚を目をぎゅっと瞑って勢いよく口に放り込む。皆が見守る中、小さなラビは懸命に咀嚼を繰り返す。


「あ……美味しい」

「でしょ? うちの自慢のローストビーフっスから。他所とはソースが違うんだよソースが」


 若いウェイターがにこやかに親指を立てる。つられてラビも笑顔で親指を立てる。


「や、やったビか? これでラビも克服できたビか?」

「美味しかった? ラビオリ?」

「……うん! 美味しかった! 食べられるようになったよ!」

「やったな! おめでとうラビ!」


 皆が歓声を上げる。その輪にウェイターも混ざり、誕生日か何かと勘違いしたのか、他のテーブルの客達も拍手喝采で讃えてくれている。小さな少女の頑張りは、しっかりと報われた。


「いやーよかったよかった。あたいにもちょうだい! お、うまいなこれ! しっかしなんでこんなうまいものが嫌いだったのかねぇ」

「レアの部分が血まみれに見えて苦手だったの。目を瞑って食べたら大丈夫だったよ! 皆のおかげだね! ありがとー!」


 しばらくして喧騒は収まったが、気のせいかそれまでよりも店内が少し賑やかになったように思える。ラビの笑顔に他のテーブルの会話も弾んでいるのだろうか。







「私はねえ、洗脳されてたのよ、あいつに! 憎ったらしいブッシュ・ド・ノエルに!」


 着いてきたついでに内情を教えてくれるようトルテラを促したら、思いの外面白い話が聞けそうな展開になった。


「それは誰? あなたたちの親玉?」

「親玉って言うより諸悪の根源! あいつのせいで私たちはスイーツ四天王なんてふざけたことをやらされてたのよお! 元々私たちはあいつを倒すために生まれた魔法少女だったんだからあ!」

「まじで!? いやでも少女……ねぇ」

「うるさいわねえ! ほっといてよ! 言うなれば私たちは先輩なのよお? 敬語を使いなさい!」

「それで、どうして洗脳されてしまったの?」

「……ノエルとの最終決戦で、負けちゃって食べられたのよお。そのまま十年お腹の中。それだけの長い期間お腹の中で教育を受けさせられたら、いやでも洗脳されるわよお……。あ、でもお腹の中は意外と快適だったわあ。家や娯楽施設なんかもあったしい、十年なんてあっという間よお」


 腹ん中パラダイスかよ!


「辛い思い出なのかなんなのか……。とりあえずノエルってのがとんでもない化け物なんだなっていうことは伝わってくるぜ……」

「そうなのよおまさに化け物! 一緒に食べられたエクレアちゃんは胃液にやられて溶けちゃうし……」

「エクレアパイセーン!」


 ここまで聞く側に徹していたエビカツが唐突に素っ頓狂な声をあげて飛び上がる。


「な、なに、どうしたの」

「びっくりしたあ!」

「あわわ何もかも思い出し、思い出しちゃったビ! え、エクレアパイセンは、と、溶けちゃったビか! なんということビ……」

「お、おいエビカツ、思い出したんなら教えてくれよ! そもそもお前とそのエクレアってなんなんだよ!」

「い、いいビか、落ち着いて聞くビ……。僕とエクレアパイセンは、実は神様によって生み出された妖精なんだビ!」

「神様?」

「この地球、この宇宙を創った神様だビ! 神様は地球の危機を察して、まずエクレアパイセンを生み出すんだビ。そしてスイーツ四天王……ややこしいビね。トルテラ、ショコルテ、ザッハザッハ、Z・ガトーの四人を魔法女子にして、ブッシュ・ド・ノエルに立ち向かわせるビ! でも結果は失敗。ノエルは四人を飲み込んで、十年の眠りについたビ。そして十年後、再びノエルが復活して、洗脳したスイーツ四天王たちを引き連れて地球を征服しようという年に、僕が生まれたんだビ!」

「はぁ……裏にはそんな壮大なストーリーが……」

「ということは、よ。元々私たちと同じ目的で生まれたスイーツ四天王たちは、洗脳を解いたら一緒に戦ってくれる味方になるのね?」

「そういうことビ! 僕はなんという大事なことを忘れてしまっていたんだビ……。神様に使命を与えられた時に全部聞かされていたというビのに……」

「とんでもねえポンコツだな! このエビカス!」

「んなっ! な、なんてひどい呼び名だビ! 確かに悪かったとは思ってるビ! で、でもいくらなんでもその呼び名はひどすぎるビ! 僕はひどく傷付いたビよ!」

「難しくてよくわかんないけど、とにかくしっかり食べて次の戦いに備えとけって話でしょー?」

「そうね。今私たちにできることは、魔法を強化して万全の態勢を整えておくことだけだわ」

「じゃあがっつり食べるぞみんな! 来たるべきラスボス戦のためだ! カルビ十皿追加ぁ!」

「ちょ! それは多すぎるわ!」

「ラビは頑張って食べる!」

「エビカスなんて……ひどいビ……あんまりだビ……」

「こんな子たちで大丈夫なのかしらあ……」


 一人不安げなトルテラとうなだれるエビカツをよそに、ペースを上げて肉を喰らう。気付けば随分とでっかい規模のストーリーに参加しちゃってたみたいだが、あたいにできるのは食べることだけだ。この後残った三人のスイーツ四天王戦へ向けた作戦会議が繰り広げられた。

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