伝説が息づくまち
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伝説が息づく町
『長浜ものがたり』 歴史探訪、余呉・西浅井編
楽しく食事を済ませ、ドライブを再開する。
琵琶湖を離れ、北へと向かう。
余呉湖を目ざしドライブだ。
余呉湖は、周囲約6.4km 三方を山で囲まれた、美しい湖だ。
別名「鏡湖」とも呼ばれているらしく、なるほど湖面が穏やかである。
琵琶湖は波もあるし、知らなければ海と間違えるからな。
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「余呉は、伝説が今なお息づく町よ」
古くは、琵琶湖を大江、余呉湖を(伊香の)小江と称したんですって。
天女の羽衣や龍神・菊 石姫の伝説が残る神秘の湖なの。
古代には、都から近い淡水の海として近淡海で、近江に。
近淡海に対し、都から遠い淡水の海として浜名湖が遠淡海と呼ばれ、遠江国
なったらしいわ。
ちなみに、『近江国風土記』に書かれている羽衣伝説が日本最古の羽衣伝説よ。
遠江の美保の松原の羽衣伝説は有名だけれど、余呉もしくは丹後の伝説のパクリね。
『近江国風土記』 に書かれている羽衣伝説はこんな感じ。
八人の天女の姉妹が白鳥に姿を変えてやってきて、水浴びを楽しんでいたの。
そのうちの末妹が、伊香刀美に羽衣を取られちゃって天に帰れなくなり、夫婦となって2男2女をもうけたという物語。
何だかスゴく勝手な話よね……。
他の伝説は、またの機会にね。
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レンタサイクルを借り、湖畔を周遊する。
感じのいい場所で、自転車を止め散策した。
湖畔を吹き抜ける柔らかな風
柳の葉がゆらゆらと揺らめいている。
”ぴゅ~るるる”
鳶だろうか? 笛のような鳴き声が、ときおり聞こえてくる。
長浜は、自然が豊かである。
さすがにここら辺まで来ると、人が少ない。
湖畔に整備された遊歩道を歩きながら、二人は話に花を咲かせる。
ねねは近くにあった柳の木に、羽織っていた薄手のカーディガンを掛ける。
「あはは、長政くん! さあ、取ってご覧なさい!!」
まるで水浴びに来た 『天女』 のように戯れる。
「あははっ」
「それっ」
俺が手を伸ばすと……ねねは、笑いながら”パチン”と猫パンチを食らわしてくる。
「よ~し! そっちがその気ならいくぞ~っ!!」
俺もムキになってフェイントを織り交ぜ、猫パンチを回避しつつ必死に手を伸ばした。
「それっ」
「あはっ」
二人で、じゃれ合いを楽しんでいた。
一瞬吹き抜けた風が、まるで天女に届けるかのようにカーディガンを運び去ろうとした。
「あっ!」
「やべっ!!」
二人慌てて手を伸ばす。
イタズラな風は、羽衣を舞い上げ、ねねが伸ばした手をすり抜ける。
そして、やさしい風がふわりと俺の手に届けてくれた。
「えっ?」
「よし!! (とったぞ~)」
「ありえな~い」
ねねもあまりの偶然に驚いている。
(神様ありがとう、これでねねは俺のものだ!)
俺は密かにガッツポーズを決めた。
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湖国の味覚
ラパンにて。
「エアコンで冷えるといけないから」
そう理由付けして、ねねに上着を返そうとした。
「いいも~ん。誰かさんに一生面倒見てもらうし……」
「そういわずに、ねっ」
「む~っ」
ソッポを向きながらも、カーディガンを受け取ってくれた。
ふう~、やれやれ。 照れ隠しが可愛いじゃないか。
しかし、天女さまのご機嫌取りも大変だな。
きっと伊香刀美とかいう奴も、天女にいろいろと気をつかったに違いない。
男はいつだって、惚れた女には弱いもんだ。
なんて、彼女いない歴=年齢の俺が、偉そうに考えるのも。
隣にねねがいてくれるからだろう。
わが天女さまが運転する車は、『あじかまの里』へと向かっている。
『あぢかま』とは、塩津の地域をさす枕言葉だそうで、びわ湖の水辺で冬を越す鴨に由来しているらしい。
「でも、なんで 『あぢかま』 何だろうな?」
「さあ、判んないわ」
「ねねでも知らないの?」
「あぢかまの里が出来るまで聞いたこともなかったし、一応調べたけれど訳わかめだったの」
「ふ~ん」
「あ~その態度、腹立つわね~。今度までに調べておくわ」
何気なく今度なんて、また会うことを当然に思ってくれているのがうれしい。
(羽衣効果かな?)
思わず顔がニヤけてしまう。
さて到着だ、意外と混んでいる。
ツーリングに立ち寄るには、絶好のスポットだものな。
とはいえ、所詮は田舎の混雑だ、東京のような煩わしさはない。
俺はというと……。
観光客用に設置してある椅子に腰掛け、テーブルに片肘をつきながら夢想していた。
(もしも、ねねが伝説の天女なら……俺って彼女をゲットしたんだよね。)
「何ニヤニヤしているの?」
そういいながら、売店で買ったお土産を俺に差し出す。
「何か、よからぬ事を考えているんでしょ」
「まさか~」
「じゃあ、宇気比、審判しましょうね!」
「えっ?!」
「あなたが無実ならば、これはおいしく食べられるわ。そして、有罪なら死ぬほどマズいでしょうねぇ!」
「そんな、卑怯だ!!」
これは良くない、絶対に駄目なパターンだ!!
「大丈夫よ、私も一緒に食べるから」
すました顔で、応えるねねである。
そうして、二人の正義を賭けた戦いが始まりを告げた。
~ 鮒鮨ファイト ~
イスに座り直し、テーブルに置いてある袋を見つめる。
「ふっふ~ん」
意気揚々と言った風情で、袋を開けるねね。
お土産の袋から出てきたそれは……鮒鮨だった。
独特の香りを伴っている。
うっ、噂には聞いたことがある。
『日本で一番もらいたくないお土産』の食べ物部門があったならば、優勝最有力候補 『鮒鮨さま』 だ。
趣味の悪いキーホルダーやペナント、クッキーなんて。
これに比べれば、まだかわいい方だろう。
実害がないからな。
「じっしょぉ~く! (実食)」
パキンと割り箸を割るねねに、迷いはない。
俺に先んじて、ニコニコとおいしそうに鮒鮨を食するねね。
本当に食べてるよ、この子。
好きな人には、たまらない美味しさなんだろうな?
『まずい』 というのは、人それぞれの好みだから仕方ないかもしれないが……。
せめて、食べ物扱いだけはしないとな。
少なくとも、吐いちゃダメだ!
吐いちゃダメだ!吐いちゃダメだ!吐いちゃダメだ!吐いちゃダメだ!吐いちゃダメだ!
シソジ君のように追い詰められながら、俺は恐る恐る鮒鮨に箸をのばした。
慎重につまみ、口へと運ぶ……。
鼻先に、なれ寿司の独特の香りが漂う。
「え~い、ままよっ!」
意を決し、口の中に放り込む。
「……大げさなんだから」
「うっ!」
「どう? おいしい?」
期待を込めた眼差しで、俺の顔を覗き込むねね。
意地悪をしているんじゃないんだ、同じものが好きな仲間を求めているんだ……。
勇気を出して、咀嚼する。
「うん普通に美味しい、まあお酒があった方がいいね」
神は俺を見捨てなかった。
ブルーチーズが食えるから、もしやと思ってはいたが。
わりと普通に食べられた。
世間の噂は、あてにならないものである。
最近は大人でも、『味覚が子供』のひとが多いからな……。
イカやサンマのわたを捨てるだなんて、もったいないかぎりだ。
ねねの方はというと……。
”どどどっ” と擬音が聞こえそうなぐらい、勢い良く走り去る。
そのまま売店へと駆け込み、おばちゃんから地酒の日本酒を買っていた。
「はいどうぞ。 今晩の晩酌に飲んでね!」
とびっきりの笑顔で、720ml瓶を俺に手渡してくれた。
ねね主催の長浜検定≪鮒鮨の部≫、合格なのだろうか?
……さすがに、鮒鮨の香りを漂わせていては、雰囲気も何もない。
さり気なく、お茶に誘い口臭を洗い落とすのだった。
天女が鮒鮨臭かったら、100年の恋もさめてしまうわっ!!
これは、晩酌に食べるのが正解なんだ。そう思った。
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~ 賤ヶ岳 ~
「時間が押しているし、リフトを使いましょう」
「そうだね」
小谷城にも行ったことだし、流石に本格的ハイキングは勘弁してほしい。
リフトを使い、賤ヶ岳に登る。
眼下には、先ほど通って来た道が見え、琵琶湖が一望できる。
はるか先には、竹生島が見え絶景のロケーションである。
さらに300mほど登り、頂上を目指す。
余呉湖が見下ろせる。
「本当に、”鏡”みたいだな」
風が収まったのか、鏡にしか見えないほど湖面がとろっとしていた。
湖面に、空がまるまる映っている。
水面に浮かぶ、青い空に白い雲。
ここに月や星空を写したら綺麗だろうな。
写真に目覚めてしまいそうだ。
「こんな景色を見ても、戦いを止められなかったのね」
自分たちは、いい時代に生まれたんだと実感した。
「ここに、名のある戦国武将が居合わせ、天下の行く末を見届けたのね」
「教科書では得られない、戦いの壮大さを感じるな」
戦国のロマンに思いを馳せながら、ひとしきり散策する。
俺のそばには、……あれ?
俺の後ろ、5m。
居合わせたガイドさんの説明を真剣に聞く、ねねの姿がある。
「どんなけ、長浜と歴史が好きなんだよっ!」
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
夕日が沈みはじめた湖岸を、長浜の市街地に向けて走る。
琵琶湖に沈む夕日が、雲を赤く染めまことに綺麗である。
「「明日も晴れるかな?」」
俺たち二人は、また声を揃えてしまった。
~ おまけ ~
余呉湖の後は、『つづらお崎』に行くとか聞いていたが……。
(桜の名所らしい)
ねねの都合とやらで、急遽予定変更になってしまった。
宿に帰って、従業員さんにどんな所か聞いてみると……。
どうやら、そこは 『恋人の聖地』 でもあるらしい。
ねねは、羽衣の一件で、変に意識しすぎてしまったようだ。
別の機会に是非訪れてみたいと思う。
『 奥琵琶湖パークウェイ 』 といえば、ライダーが行くべき聖地である。
異論は認めない。
とりあえず、ねねをバイクの後ろに乗せてしまえば、こっちのもんである。
他意はないぞ。
長浜は魅力がいっぱいで、とても回りきれなかったのだ。
もっともっと長浜の町のことを知りたい、俺は心から願った。
『長浜ものがたり』 歴史探訪、余呉・西浅井編 おしまい
本来身近な味覚で郷土料理であるはずが、ニゴロフナが捕れないため価格高騰、劇高である。
ウナギなんて可愛いもんだ。
それもこれも、ブラックバスのせいである。
安易に放流した人は、反省するべし。
来年から 『カニが食べられない』 とか、想像すれば、
滋賀県民の鮒鮨好きの怒りが、お分かりいただけるのではないでしょうか?