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小谷城は、堅固な山城です!!

小谷城は、日本屈指の山城です。

なめてかかっては、痛い目を見ますよ。

かの織田信長でさえ、攻略に足掛け四年かかりました。


『長浜ものがたり』  歴史探訪、小谷城編



 田園風景の中を走る。

稲穂が、実りの季節を待ちわびている。


その中に、見慣れない物がある。


「あれ何?」

「たぶん、大豆ね。 減反げんたんで作っているんでしょうね」


よくわからなかったので、説明を聞いた。


「……。へえ~、米を作らないんだ」

「大豆の若採りは、枝豆よ」


「枝豆ね。あ~、ビール飲みたい、さっきのソーセージ買っときゃよかったなぁ」

「山に登るのに、何いっているの?」


「へいへい、すみませんねぇ~」

「もう~」


くだらない掛け合いをしながら、ねねとの会話を楽しんだ。



 どこも渋滞が無く、スムーズにクルマが流れる。

かなりの道のりを高速道路も使わずに、わずか1時間足らずで到着してしまったことに驚いた。

途中でいろいろと止まってた時間の方が、長いんじゃないか?


「東京じゃ考えられない」


「なに変な所に感心しているのよ」


バイクが速いのは実感していたが、軽自動車もなかなかやるではないか。



《小谷城址》


ちゃちゃ・初・お江、浅井三姉妹が生まれた所である。


少しばかり早く着きすぎたのか、資料館はまだ開いていない。

残念、しばらく待つしかないか……。


ねねはクルマから降りて、大きく伸びをしている。

たいした時間ではないが、彼女も初心者だし疲れたのだろう。


「運転ありがとうな」




軽くストレッチを終えたねねに、感謝の気持ちを伝えた。


「さ、乗って!!」


「え」


「えっじゃないわ。まさか歩くつもり?」


「どこへ行くの?」


「小谷城よ」


「へっ?」


「いいから早く乗って!!」


言われた通り、再びシートにおさまる。



「よ~し、行くわよっ」

なぜだか、ねねが気合を入れている。


そして、しばらくしてその理由が解った。解ってしまった。




”ぎゅい~ん”

唸り声をあげて、ねねの軽自動車が山道を登ってゆく。


急斜面の道は、お世辞にも観光用に整備されているとは云えない。

が、一応舗装はしっかりとしているし問題ないはずだ。


しかし、初心者の女の子の運転は怖い!


何度か、崖から転がり落ちるのではないかと思ってしまった。

こんなことなら、クルマの免許をとっておくべきだったと後悔した。


そんな恐怖もやがて終わる。



 眼下に見下ろす長浜の街、はるか向こうにあるはずの琵琶湖が手に取るように見える。


「あそこに見えるのが竹生島ね、綺麗でしょ」


「うん綺麗だ!!」


「ここが大河で、おのだめが立っていた場所かもね」


「そうなの」

そういわれれば、ありがた味がでてくる。

なるほど、どこかで見たことがある景色だと思った。




「こまかい時代考証はともかくとして、お江が小谷にいた時はまだ赤ん坊のはずなんだけれどね」


「へぇ~」

(じゅり、むっちゃ大人じゃん!)


「アレで、一気に醒めてしまったわ」


「一話じゃん!!」


「ええ」


ねねは寂しげに微笑んだ。



落城した小谷城から落ちのびる際に、

姉であるはずの『子役ちゃん』に抱きつく、末妹の上野樹里の姿を想像してしまった。


確かにシュールな光景だ。


時代考証は大事だね。



再びクルマを走らせ、こじんまりとした駐車スペースに車を停めた。


お城の概要が、でかでかと書いてある看板がある。


 確かにここからならば、ハイキングにはもってこいの山道だ。

麓の駐車場からだったら、とても登るのがキツそうだ。


昔、この城を攻めた織田信長の軍や秀吉軍の足軽たちは大変だったんだろうなと実感した。

俺だったら正直ごめん被りたい。


健気に山を登ってくれた軽自動車ラパンに感謝だな。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 


山道を登る



おおよそ人が暮らすには不便な所に、戦国期の生活の痕跡がある。


「生き残るのも大変な時代だったんだな」


やがて、城郭部分に差し掛かった。


御茶屋屋敷曲輪、御馬屋敷曲輪。

本丸の石垣や、大堀切りの痕跡も残っている。


正直、何も残っていない城跡の山だとばかり思っていた。


「すごいじゃないか」


堀や石垣が残っているのは奇跡だ。




「雪が降るまで粘ったら、まず負けることは無いわ」


ねねから聞いた浅井軍の歴史は、負け戦の歴史だった。


浅井長政が一躍有名になったのは、『野良田の戦い』で南近江の大名六角軍に勝ったかららしい。


何とも偶然な事に、あの『桶狭間の戦い』と同じ年の出来事だそうだ。


それまでの浅井家は、北近江の国人連合の盟主ではあっても『戦国大名』と云える勢力ではなかったらしい。



 考えてみれば、北近江の守護は『京極家』だ。

その家宰は、『上坂氏』と言うそうだ。

浅井家はそのまた下、根本被官だったらしい。


下克上で成り上がりつつあった『浅井家』と、守護の家系の『六角家』

戦力の差は『それはもう可哀想なくらい』だったそうな。



六角家の当主は、ことあるごとに1万以上の兵を動員し湖北の地を蹂躙した。


「だからこそ、負けないために初代の亮政公がここに城を築いたって訳」


 得意気に語るねねは、上機嫌である。


『歴女』ってやつだね。

長浜の歴史を語るのが、大好きなんだろうな。

すごく生き生きした表情で笑顔が輝いている。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 



《ねね独白》



 長浜が”戦国の聖地”と言われるのは伊達ではない。


浅井長政、豊臣秀吉、織田信長、お市さま、竹中半兵衛に黒田官兵衛が、この地に居たのだ。

他にも、賤ヶ岳の七本槍。

加藤清正をはじめ福島正則、片桐且元、加藤嘉明、平野長泰、糟屋武則とか。

石田三成、大谷吉継たちが、湖北の地を駆け巡った。



そう思うと、なんだか情景が思い浮かびそうでしょ。


 有名な浅井三姉妹を始め、石田三成、遠藤直経、磯野員昌、海北綱親、赤尾清綱、雨森清貞。

片桐且元、小堀遠州、京極高次など。


長浜の地で生まれた武将も数多くいる。

とくに大坂の陣で活躍した二世武将なんかは、あげればキリがない。



姉川や賤ヶ岳といった、教科書にでてくる古戦場だってある。


姉川では、浅井・朝倉連合軍と織田・徳川連合軍が真正面からぶつかって死闘を繰り広げた。

遠藤直経が無念の最後を遂げている。


前田利家や柴田勝家、中川清秀、高山右近が、賤ヶ岳で奮戦した。

秀吉に至っては、大垣から大返しをしている。




 でも、それだけが長浜の魅力だというつもりはないわ。

お寺や町民・農民に焦点を当ててみるのも、また面白いと思うの。


戦国の騒乱を人々はいかに耐え、乗り切っていったのかを知るのもまた歴史の醍醐味ね。


長浜の戦国史を語るだけで、とても時間が足りそうに無い。


 それに他の時代にも、それこそ大和朝廷以前から人々が根付き暮らしているのだ。

戦国時代以外の面白エピソードだって、たくさんある。


ほんと、このまちは魅力的だ。


どうやって、長政くんに伝えよう。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 



 本丸跡の広場で少しばかり休憩をした。

桜や紅葉の木もあり、季節になれば見頃を迎えるのだろう。

昇ってきた夏の太陽が、木々の隙間から容赦ない光線を浴びせてくる。


しかし、一歩木陰にさがれば不思議と涼しい風が通り抜けていく。

エアコンの人工的な涼しさとは違う、爽やかな風がここちいい。


セミの大合唱をBGMに聞きながら、俺たち二人は持ち込んだ飲み物を片手に談笑する。



「さあ~この次はどうしようか? 長政くんどっか行きたいとこある?」


「ねねと二人ならどこだっていいよ」


俺は少しばかり気取って答えた。



「言ったな~、よ~し」



ねねは、意気揚々と車を目指し山道を降りてゆく。


残念ながら、案内のお任せの方に気がいってしまったみたいだ。


次は、どんなところに連れてってくれるのだろうか?


すこしばかりハズしてしまった俺は、肩をすくめ彼女の後をついていった。





『長浜ものがたり』  歴史探訪、小谷城編 おしまい





あとがき


本丸跡までは、意外と近いのでオススメです。


麓からの登山、大獄の方まで足を伸ばされる方は、それなりの装備をしてください。

また季節によっては、混雑を避けるためにバスの運行が優先される時がございます。


長浜の観光は、基本的に地元の人の好意により成り立っております。

マナー違反は、やめてくださいね。


地元の方は、今でも長政公のお墓にお花を絶やしてはいません。



                         ひさまさ


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