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長浜ラーメンを探し求めて!!

長浜ラーメンですか? いいえ、長浜らぁ~めんです!!



長浜ラーメンを求めて



「あれ~おかしいな」 


 俺は、駅前にバイクを停めラーメン屋を探す。

が、”長浜ラーメン”がなかなか見当たらない。



ソロツーリングの醍醐味は、ズバリ ”出会い”である。

(人だけではなく、モノとの出会いも含めて偶然の出会いが楽しい)


ネットで下調べをしてしまっては、旅の楽しさも半減してしまう。

確かに口コミや評判をあらかじめ調べれば、簡単においしい店にたどり着けるだろう。

だけれども、それになんの価値があるというのだろうか?


 失敗を恐れ無難に人生を過ごしている俺にとって、ソロツーリングだけは別格である。


失敗してたとえ”まずい店”に当たってもイイと思っている

と云うか、それこそが俺の望む旅の姿だ……。


うまいものを食うのは確かに魅力だが、それだけでは旅として些か面白みに欠ける。

『思い出に残る旅』といったものは、

むしろ失敗をやらかした時の方が、はるかに感慨深く記憶に残るものなのだ。

だから俺はソロツーリングではネット・スマホを使わない主義なのだが……。



「おかしい」


街中にラーメン屋ののぼりが全然見当たらない。

途中で何件か目にしたが、チェーン店だ。


しかたがない、俺は道路標識を頼りに駅前へとバイクをはしらせて来た。



駅に行けば、”長浜ラーメン”のラーメンマップとかあるだろうと思ったのだ。

バイクを近くにあった駐輪場に駐め、駅のエスカレータを登る。


観光地ならば必ずあるハズだ。


(観光客と案内のボランティアガイドの姿がちらほら見える)




 案内所に行ってみるが、不思議とラーメンマップは無かった。

名物なのだろう”焼き鯖そうめん”とかいう、そーめん屋のマップがあるのに解せぬ。

他のチラシも結構ある。

というか、やたら多い。

年間の行事の予定も、大きな掲示板に大々的に宣伝されている。


ふむふむ


盆梅展、馬酔木展

長浜曳山まつり

大通寺夏中法要

ゆかた祭り

花火大会

長浜出世祭り

アートイン・長浜

着物大園遊会

日本の祭りinながはま

etc.


一年を通して、結構なイベントをやっているようだ。


駅に案内のボランティアが居るというだけでも、観光地として賑わって居るのがわかる。



少々人見知りのけがある俺だが、ここは意を決して聞いてみることにした。

これも旅のスパイスだ。





 現地の観光ボランティアのおじさんに尋ねてみたら、いささか苦笑いされた。


「学生さん?」


「はい」


「そっか~、近場だとラーメン◯◯か長浜ラーメン、それと麺屋××、あと▲△かな?」


一応、近くのラーメン屋を何件か教えてもらったのだが……少し気になる。


穴場の店は郊外の方にあるのだろうか?




 確かに、活気があって好い町だと思うが。


長浜ラーメンの聖地なのに、『ラーメンMAP』が無いとは……些か不親切では無いのか?

俺はバイクだし、アクセスが不便で少々遠くても食べに行ってみたいのだが……。


とは云えそれほど社交的ではない俺は、それ以上の情報をおじさんからは聞き出せなかった。

折悪しく観光客がたくさん改札から出てきたからである。


「ありがとうございます」


とりあえず礼を言い、再び駅前広場へと降りて行った。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 



 西口の長いエスカレーターを登り、駅のコンコースに出る。

何やら観光案内のおじさんが、苦笑した”えもいわれぬ表情”で観光客らしい男の子を見送っていた。


何だろう、気になる。


「おじさん、どうしたの!」


私は気さくに声をかける。(もちろん顔見知りである)


「ああ、長浜ラーメン」


おじさんは、一言そう返してきた。



「ああ、そう」


 私も、正直苦笑した。

テラスの柵から下を覗き込むと、出会いの像の前でキョロキョロしている頼りげない姿があった。


私は思わず、男の子の後を追い小走りにエスカレータ(東口)を降りて行った。





<出会いの像の前>



「お兄さん、どうしたの? ツーリング? 観光?」


 ラーメンの事には触れず、ねねはジャンパー姿の青年に声をかける。


彼は、どう見てもライダーの格好だ。

(デニム地のシャツとジーンズに薄手のジャンパーを羽織った、バイク乗りのスタイル)





「ああ、地元の人?」


 突然声をかけられチョット戸惑ったものの、俺は何とか声を絞り出す。

(女の子に声をかけられる経験なんて、中学校以来だ)


モテなかったのではない、うちの高校は進学校だったからな。

そのおかげで志望する大学に現役で合格できたんだ。


声をかけてくれた女の子は高校生かな?

化粧は薄く素朴な感じだが、笑顔がかわいい……。




「うん、そうよ」


「長浜ラーメンの旨い店知らない?」


ドキドキする胸を抑え、さりげなく言葉を続けた。

(静まれ俺の心臓!!)




「ラーメン? いいよ! 醤油? 塩? 鶏ガラ? それともトンコツ?」


「え? 博多ラーメンて、豚骨じゃなかったの?」


「長浜に九州の”博多ラーメン”を求められてもな~。一応あるけれど」


苦笑せざるを得ないといった表情で、”あはは”と笑う女の子。




そう言われて、俺ははじめて気がついた……。



(やらかした)


思わず顔が赤くなる。


彼女の笑顔の所為ももちろんあるけれども、大学生にもなって俺は何をしているんだろう?


博多は九州だ。



「えへへ、お兄さんみたいに間違って『長浜ラーメン』探す人って結構いるよ!」



女の子はフォローしてくれるが、俺はますます恥じ入ってしまう。




「いいじゃん旅の恥はかき捨て、いい思い出になったでしょ」


「イヤ、黒歴史だから……」

少しばかり落ち込む。


「バイクに乗っているくせに気が小さいな~。よし、おいしい長浜”の”ラーメン屋に連れて行ってあげるから機嫌直しなよ」


「え?!」


「知る人ぞ知る、長浜”の”ラーメン屋だよん!」



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 



≪ねねの独白≫


 町中まちなかで『長浜ラーメン』のことを訪ねられるのは、割とよくあることだ。

もちろん観光で長浜に来られた方々よ、洒落で聞いてくる分にはおもしろいんだけれど。


かなり期待しているひとが多くて、なんだか申し訳なく思ってしまう。

私や長浜市が悪いわけじゃないのに……。


いやはや、なんで博多なのに『長浜ラーメン』て言うんだろうね?

と、思って昔に調べてみたことがある。福岡県福岡市中央区長浜だった。

博多じゃないんだった。

「じゃあ、福岡ラーメンね」と思った。


 さらに驚いたことに……、博多市が、なかった!!

私てっきり『博多市』があると思ってたけれど、福岡県福岡市博多区だったわ。

初めて知った。


「もう~、『博多(と近くの)長浜ラーメン』でいいじゃん!」

地方の人が、他所よその街の”町”や”字”の名前を知っているはず無いのにねぇ。


それか、素直に両方を『福岡ラーメン』と呼んでよ。 


『博多区ラーメン』と『福岡市中央区の長浜ラーメン』ではモノが違うと言い張るのもいいけれど。

現地の若者でさえ曖昧にしか判らないそうよ。

なら、それって”思いっきりカブっている”ってことじゃん。

しっかりとしてよ。

まあ美味しいらしいから、こだわりたいのも判るけれど……。

名前だけは、何とかしてほしいわ。


(あくまで、ねね個人の感想です)



 そういえば、軍師官兵衛こと黒田如水はここ長浜の”黒田の庄”が本貫だし。

早くから(太閤)秀吉に仕えていたから、当然長浜にも来ている。

だから、あながち長浜と無関係ではないんだけれどね……。


もしかして、長浜でラーメンを食べたから九州に赴任した時に『長浜ラーメン』を作らせたのかな?


   「皆の者、長浜”の”ラーメンを作るのじゃ!!」

   下知を下す軍師官兵衛


   「はは~っ、してラーメンとはなんでしょう」

   平伏しながら首を傾げる料理人

  

   「ええぃ、儂がつくるわい!!」


   かくして九州にラーメン文化が根づくのであった……。

 


 歴女のねねは想像の翼を広げた。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ 



≪某ラーメン店≫



「あはははっ」


長浜ラーメンをネタに盛り上がる二人連れの姿があった。



「私、本場の喜多方ラーメンや博多ラーメンとか食べたこと無いけれど、この店おいしいでしょう?!」


「うん、旨い」

彼女、ねね(というらしい)が言う通り確かにおいしかった。


「じゃあ、『長浜らぁ~めん』に認定だね!」


「うっ……くっ。そうだね!」



楽しげに麺をすする彼女の笑顔に押しきられ、思わず頷いてしまった。

(ラーメン好きのプライドが……)


でも、○大の俺でも間違えたし、確かに九州の長浜ラーメンは、『福岡長浜(博多も近くにあるよ)ラーメン』であるべきだな。





 彼女の主張によると、長浜市のラーメン屋が堂々と『長浜らぁ~めん』を名乗るべきらしい。


「いっそのこと長浜市のどのラーメン屋でも、『ひょうたんの絵柄のかまぼこ』が入っていたら『長浜らぁ~めん』に認定するってどうかしら?」


「斬新なアイデアだね」


「私が思うに、豚骨が苦手な人もいると思うの。醤油ベースもあっていいんじゃないかな?」


「ご当地ラーメンのコンセプトとして、それはどうかな?」

一応、苦言を呈してみる。


「長浜のコンセプトは、太閤さん押しよ! ひょうたんに調味料を詰めましょう、いやレンゲをひょうたんに……」


「いいのかな?」


「よ~し、市役所の千里に提案してあげよう。ご当地『長浜らぁ~めん』の誕生だわ!!」




 彼女的に、いまさら『長浜ラーメン』を名乗るのもシャクらしい。

だから、『長浜らぁ~めん』を推奨したいらしい。

おもしろいである。




食事しながらのおしゃべりは楽しかった。


『長浜らぁ~めん』がとてもおいしかったのは、彼女のおかげでもあるだろう。

お礼のつもりで彼女の分まで支払った。


 別に下心なんて無いぞ。

とは云え、女性にご馳走するなんて生まれて初めてだ。


人生の初の女性へのおごり……、ラーメンで申し訳が無い。


このまま別れるのは、何かさみいしいと思っていると。

不意にねねから声をかけられた。



「ご馳走して貰ったお礼に、あたしが長浜の町案内してあげようか?」


「えっ?」


「いいのいいの、長浜を少しでも好きになってくれたら嬉しいな~」



とびっきりの笑顔が、俺を誘った。




※注


味にこだわるお客さんが、(間違って)やってくるからでしょうか?

長浜のラーメン屋さんは、何処ドコも美味しいんです。


「ラーメン? はいよっ! しょうゆ? みそ? 塩? 鶏ガラ? それとも、トンコツ?」


どのお店も『長浜らぁ~めん』に誇りを持ってお客様に提供しております。



『長浜らぁ~めん』のコンセプトを、みなさまから募集しております。


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